戦いの果てにあるものは……
ギャングのリーダー、『ムーブ・ウルフルズ』が現れ絶体絶命のハジメ達。彼らを待っているのは絶望か……希望か……それとも……
「ムーブ・ウルフルズ……」
ハジメは……いや、ハジメ達ソーシャルアイは恐怖していた。
ハジメ達の前に現れたのは、シリーの親でありギャングのリーダー、ムーブ・ウルフルズ。
そんな彼を見て縛られたままのシリーは問いかける。
「親父……なんで……」
「なんで……と?」
ムーブは「ふんっ、」と鼻を鳴らすとハジメにレイピアを向け話始めた。
「人間とは愚かな生き物だ、我々以外の動物の場所を奪い、森林を破壊し、生態系まで壊した。まぁ、我々がこうして話せるのは貴様等人間おかげだがな。」
ムーブはレイピアを下ろすとハジメの方へゆっくりと歩いてきた。
「は、ハジメ……」
「「教官……!!」」
双葉達が声をあげる。理由は簡単だ。ハジメもムーブの方へ向かっていったからだ。
「やめろハジメ!親父には勝てない!!」
「うるさい娘だ、少し寝ていろ……スリープアウト……」
「…………ぁ?」
ムーブが呪文を唱えるとシリーは脱力し、そのまま眠りについた。
シリーが眠ったのを確認すると再びムーブは歩き始めた。
「(この娘……いや、男か……紛らわしいな……何か特別な力を持っているな。長年戦いに身を置いてきた俺だから分かる…コイツは面白い。)」
思わずニヤリと笑みを浮かべるムーブ。ギャングとして、この森で抗争を続け圧倒的力を奮い今の地位に着いた。しかし、どの相手も腰抜けばかりでムーブを見ると逃げ出す者も居た。だが、目の前にいるハジメはムーブに向かってきている。
「いいぞ、最高にいい。俺を楽しませてくれ。」
・・・・
だからこそ、ムーブは本気で挑む。久しぶりの命を賭けた戦いだから。
「ハジメー!負けないでよ!」
「教官、負けたら許しませんよ!」
「ハジメ……頑張って!」
「センセーの力を見せてあげてください!」
「期待はしませんが……死なないでくださいね。あ、不死身だからいいか。」
生徒達の応援を受け、覚悟を決めるハジメ。
「(大丈夫……俺ならできる……は、ははできる……)」
覚悟を決めたのはいいが、膝が笑っていて先に進めない。
「おや、どうした男の娘。やはり見た目通りで女みたいな根性なのか?」
「う、うるひゃい!!お、俺は男なんだ……ぞ、ぞ」
ムーブに自分のコンプレックスであることを言われ、言い返すが声が震えていた。
ムーブの武器はレイピア、多彩な魔術。
対してハジメは、拳。
明らかにこちらが劣勢だろう。しかし、それでもハジメは向かう。自分と仲間を信じて。
「ふん、それでは始めようか。命を賭けたデスマッチを……」
「か、かかってこぃ……」
「全体強化、さぁ、来い。」
ムーブは呪文を唱えると、両手を広げ無防備な姿を晒していた。当然ハジメはそれを逃さない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ハジメは腰を落とし、下段の構えでムーブの腹を狙う。体のリミッターをギリギリまで上げ渾身の一撃を放つ。瞬間辺りに砂嵐が巻き起こる。
「けほっ、ハジメ……いきなり飛ばしすぎ。って……え……?」
双葉は目を疑った。今の一撃で確実に倒せたはずなのに、
「ムーブが……生きてるの……」
生徒達は目の前で起こったことが理解できなかった。
渾身の一撃を放ち、勝利を確信したハジメも、自分の身に何が起こったのかわからなかった。
「所詮、人間はこんなものか……まったく、磨いたレイピアがまた錆びてしまうな。」
ズポッ、とハジメの腹部に刺さったレイピアを抜くと1度振って血を落とし背中を向けた。
「い、ったい何が……ゴホッ」
状況が理解できず言葉を絞り出そうとしたが、血反吐によって遮られる。
「い、イヤァァァァァァァァァァァァ!!」
森の中に、生徒達の悲鳴が響き渡る。
「センセー、センセー!!」
「教官、大丈夫ですか?!」
「教官……貴方はバカですか……!!」
「ハジメ……ハジメ……」
「あぁ……ぁぁ……」
双葉以外の4人がハジメに寄り添う。双葉はハジメの血を見たあと、失神してしまった。
「ゴホッ、大丈夫……だから。一旦引くぞ……?」
「ふん、まだ生きていたか……とどめを差しとくか。」
このとき、ハジメ達ソーシャルアイは己の死を覚悟した。
ムーブのレイピアが闇の波動を纏い始める。森がざわめき、空は暗くなり、辺りの温度は0℃を下回る。言葉にするとすればまさに災厄。
「終わりだ、愚かな人間よ……」
「終わるのは貴様だ!!」
ズドンッ!!と何かがムーブの上に落ちてきた。それは大砲の玉のようで……
「ぐっ……な、なんだ……!?」
「まったく、私の可愛い後輩に手を出して。ただで済むと思うなよ?」
「お姉ちゃん、生徒を忘れてる……」
ハジメは一瞬、奇跡が起こったと思った。それは生徒も同じだろう。
「ミラノ……先輩……?」
「遅くなってすまないな、ハジメ。アンタのけつは私が拭いてやるよ。物理的に。」
「やめてください!げほっ、本当にやめてください!」
橘ミラノ、彼女はハジメの先輩である。ある一部を除くと男性に見える服装をしているが、そのある一部のおかげで女性とわかる。耳にピアスをつけており不良に見えなくもないが、魔力を増やすためのピアスなので学校側が許可出している。ハジメの溺愛ぶりは世界一ィィィ!
「みんな、大丈夫?」
対して、生徒の方へ向かったのは橘サキ。ミラノの妹で現生徒会長。学校の生徒一人一人を心から応援しており、才色兼備、スポーツ万能、成績は学年一位と優等生である。
「ちっ……コイツを退けなければ……」
「させないよ、無限の創成銃」
「すごい……ミラノ先生……」
誰かが呟いた。ミラノの能力は銃の創製と弾の創製。そこから付いた異名が無限の創銃者、《インフィニティ・ガンナー》だ。
ミラノは手慣れた手付きで両手に銃を精製し、口で引き金を引き、ムーブを狙い打つ。左肩、右肩、爪先、と1㎜もズレがなく、ムーブは悶え苦しんだ。そして、大砲の弾を狙い……
「…………っ!?」
ムーブの半身を吹っ飛ばした。
「ぐっ……くそ……」
「親父…………?」
爆音で目が覚めたのかシリーがゆっくりと体を起こす。縄は消えており自由に動けるようだ。
「お、親父……親父!!」
「バカ……来るな……」
「バカはアンタだよ!!」
シリーは泣きながら叫ぶ。
「なんでそこまでして人間を殺ろうとするんだよ!いい加減諦めて平和に暮らしていればいいものを……なんで……だよ……」
「シリー……すまねぇな。」
「バカ親父……が……」
「げほっ、おい、男の娘……」
「誰が男の娘だ……ハジメでいい。」
半身を吹き飛ばされ、既に虫の息のムーブはハジメの言葉を無視し続ける。
「俺の娘を頼むぞ、それから……」
ムーブはハジメを見てふっ、と優しい笑みを浮かべ。
「ハジメ、なかなか可愛いかったぞ、とてもいい匂いだった。
このまま地獄に記憶ごと持っていってやる…じゃあな。」
「バカ親父が……ハジメに欲情して死ぬなよ……バカが……」
「シリー……ぐっ……」
ハジメは傷口を抑え立ち上がる。マリアやミラノが駆け寄ろうとしたがハジメはそれを制止して、シリーのもとへ向かう。
「ハジメ……」
「シリー……ごめんな。悲しい思いさせて。」
「何……言ってんだよ……」
「ごめん……」
ただひたすら謝るハジメ。少女を傷付けてしまったと後悔しそうになっていた。だがしかし、
「何言ってんだよ、親父は最後の最後までバカだったから笑いが出てしまうじゃないか。アハハっ!」
「シリー……?」
「大体、いつもは陽気なのにクールぶって出てくるし。ハジメの匂い嗅いで興奮してたし。ホント、バカな親父だった……」
顔を上げ笑うシリー。無理して笑っているようには見えない、そんな笑顔だった。
「…………」
「ありがとな、ハジメ。親父の満足そうな顔見てたら嬉しくなった。だからもう大丈夫。」
『なに暗い顔してんだよハジメ』
「は……?」
「うわぁぁ!!」
一瞬、空耳かと誰もが思った。しかしそれは空耳でも幻聴でもなく……
「わぁ、幽霊ですねぇー」
「ひぃぃやぁぁぁぁぁ怖いのぉぉぉ!」
マリアが絶叫しなぜかメイにしがみつく。
「あぁ、幼女が私にハァハァ……大丈夫ですよー……へへ」
「いやぁぁぁぁ、メイも怖いのぉぉぉ!」
『愉快だなぁ!』
がっはっは、と笑うムーブ(幽霊)。シリーはぽかーんと口を開きしばらくして……
「な、な、なにやってんだよ親父!!」
『いやぁ、地獄にハジメの匂いと記憶を持っていこうとしたら追い返されてよ。ホモだ!帰れ!ってな!』
「なにやってんのアンタ……」
『くんかくんか……』
「ひっ、匂いを嗅ぐなぁ!!」
ミラノはわいわい騒いでいるハジメ達を見ながら切り株に座り呟いた
「ホント、楽しそうだね……」
「お姉ちゃんも行ってきたら?」
その隣にサキが座る。どこか寂しげな姉が心配になりつい声をかけてしまったのだ。
「私はいいよ……それより、ここの村長に聞かなければならないことがあるんだけど……」
「あぁ、あれね……」
サキは森の奥を見ながら言う。
「不死の秘宝、『エターナル・ユース』」
「ん、うーん‥‥」
「あ、双葉さん、大丈夫ですか?」
「あれ?サキなんで‥‥ハジメは?」
双葉が目を覚まし辺りを見渡した。気を失っていたせいか、記憶がとんでいるらしい。
「ふふ、大丈夫ですよ。ほら、」
「あ、本当だ‥‥ハジメェ!!」
「ふふ‥‥」
ハジメのもとに駆けつけ、説教をする双葉を見ながらサキは楽しそうに微笑んでいた。
次回予告、
ハジメ達ソーシャルアイ&橘姉妹は森の中の村長に不死の秘宝
『エターナル・ユース』について問いかける。
「答えてくれ……」
「エターナル・ユースとは……」
さらに、森の中の高級旅館で!?
「ほら、私がたっぷりと奉仕してやろう。」
「メイたんメイたんペッタンコー!!」
「お仕置きが必要ですね………」
「なんで……あれ?♡♡♡がない!!」
ある意味ドキドキのお話。
次回、『秘宝と旅館と百合物語』
「さぁて、次回もサービスサー……ふぎゃ!」
「やめなさい!!」