第1話
今では魔王と呼ばれるようになったグラムは5年前までは、魔物狩りを主に暮らす冒険者だった。
生まれつきの白髪と赤い瞳はこの世界でも珍しく幼少期より、周りから注目された。
特に赤い瞳は『災いの瞳』と呼ばれ忌み嫌われている、その魂に生まれつき高い魔力を宿す証明でもあるがそれを知るのは魔法にくわしい一部の者だけだった。
その一部の者がグラムの近くにはいた。
「グラムの瞳の色はきっと高い魔力を宿しているせいよ」
「セシリア、また変な本の知識?」
肩まで伸ばした薄いブルーの髪を揺らし、セシリアと呼ばれた少女は首を横に振り変な本の知識ということを否定する。
自室のベッドに上半身だけを起こしていた彼女はすぐそばで椅子に座っていた、グラムの手をその細く白い指を持った手でつかむ。
「ホントだよ! だから、グラムはきっと凄い冒険者になれるよ!」
単純と言われるかもしれないが、その一言でグラムは冒険者となることを決意した、10歳の夏のことだった。
幼少期、赤い瞳を持つと言うことで忌み嫌われていた自分と普通に接してくれたセシリア。
彼女の優しさに触れなければ、今の自分は居ないとグラムは確信していた。
身体が弱く家からあまり出ることの無い彼女はよく本を読んでいる。
どこから手に入れているのかは知らないが、その内容は多岐にわたり、子供の作り方についての話を聞いた時は本を読まない方がセシリアの為ではないかと悩んだ。
「僕が凄い冒険者になって、強くなったら2人で外の世界に行こう」
「うん! 約束だよ!」
そこからグラムは約束を果たすために村に居た冒険者たちに力の使い方を教わった。
子供ということもあって、話を聞いてくれない人も多かったがしつこく頼むことで修業をつけてもった。
村の近くの魔物を一匹、また一匹と倒しているうちに次第に力をつけてゆき、周りの冒険者たちからも認めてもらうようになった。
そして、4年の月日がたったその日、グラムはセシリアを連れて村の外へと出た。
「セシリア、寒くない?」
「グラムの魔法のお陰で大丈夫」
雪が舞い始めた初冬は昼間と言えど、その寒さは身が震えるほど。
グラムは、手のひらに魔法で炎の球をつくり、身体が冷えることのないようにしていた。
密着させた身体から、ほのかに感じるセシリアの体温、彼女が外套で隠れた蒼い瞳を表し、グラムを見上げた。
「どこに連れて行ってくれるの?」
「友達の冒険者に聞いた場所、雪が降らないと意味が無いらしくて、どんな所かは着いてからのお楽しみ」
積もったばかりの雪道を歩くこと数十分、目的の場所についた。
「すごい……」
セシリアが呟いた。
それを見た、グラムの顔がにやける。
「楽しみにして正解だっただろ?」
2人の目の前には湖が凍りつき、辺りいちめん白銀の世界が広がっていた。
村の外れにあるこの場所は入り組んだ森を抜けないといけないため、知る人ぞ知る冬の名スポットとして冒険者の間では少し噂になっている。
2人は新雪の上に腰をおろし、景色をながめる。
景色に感動したのか、グラムの肩にセシリアが頭を預けた。
「ねぇ、グラム」
「なに?」
「来年もここに来ようね」
「もちろんだよ」
顔を見合わせた2人の顔の距離が徐々に近くなる、白銀の世界を目の眼に2人は初めて唇を重ねた。
このまま、きっと幸せな日々が続くとグラムはそう確信していた。
そんな淡い期待は数ヶ月後、くだかれることになる。