プロローグ
「俺たちが何をしたんだ!?」
「子供だけでも助けて!!」
どんよりとした雲が広がる空の下、檻の中に入れられた数十人の人々が悲痛な叫びをあげる。
魔王軍に捕らわれ捕虜となった人は助からない、それが世に広がる噂である。
檻の下には複雑な魔方陣が書かれており、今から始まることの大きさを示している。
一人の男が檻の前に立つ。
20歳を過ぎたばかりのその男は雪のように白い髪を揺らしながら顔を上げ、燃えるような赤い瞳で檻に捕らわれた人々を見据える。
魔王と呼ばれる男は薄い唇をゆっくりと開いた。
「誰も助からない、君たちには今から全員死んでもらう」
重い空気がその場に流れる、魔王の男が放つ言葉は絶対である。
そう思ってなくても、そう思わせてしまう雰囲気をこの男は全身で振りまいている。
魔王の言葉に絶望した人々にもう騒ぐ者はいない。
ある者は祈りを捧げ、またある者は虚ろな瞳で呆然としている。
男は左の膝を地面につき右手を魔方陣へと重ね、魔力を流す。
魔法を発動するに必要な魔力を受け取った、魔方陣が蒼白い光を放ち始める。
光に包まれた人々の身体が次第に消えていく、まだ人々が残っているうちに言わなければいけないことが魔王の男にはあった。
死に直面し、恐怖に呑み込まれていく人々に向けて言葉を送る。
「僕のために……死んでくれ」