音楽の国
「今日のメニューはらららポトッフ〜」
ジャガイモの皮を剥きながら自作の歌を歌っていたらシスターに怒られた。
「その気が抜ける歌をやめてください。弾みで怪我をしたらどうするんですか!」
おお神よ、傷ついた子羊に愛の手を。
シスターはもっと慈愛の心を持つべきだ。
「お昼が出来ましたよ」
シスターが声を掛けると子供たちがわらわらと集まってきて、食器を運ぶ手伝いをする。みんな一緒に昼食をとるので結構な人数だ。全員が席に着いたところでシスターが女神メルティへ感謝の祝詞をのべ、それから昼食となる。
「リーシャ!」
「ああ、リック。騎士団ごっこはどうだった?」
「当然勝ったにきまってるだろ!」
誇らしげに胸を反らしてみせる様子は微笑ましく、おめでとう、と頭を撫でると照れたようにそっぽを向かれてしまった。
「しょうがねえから、獣が出たらリーシャはオレが守ってやるよ!」
「ええ?リック、リーシャはきっと獣が出ても大丈夫だよ。それよりシスターやアンナたちを守らなきゃ」
「そ、それもそうだな…。うん、リーシャが獣なんかに負ける分けねえか」
リックの嬉しい宣言に、他の男の子たちが一斉に反対意見をあげた。アンナとは子供たちの中で一番の美少女のことである。
とりあえず、君たちの私の認識がどうなっているのかはよーく分かった。日々の教育的指導、もとい乙女の鉄槌がこんなところで弊害になろうとは…!
お前ら後で覚えてろよ。
昼食の後片付けを終えると、子供たちが一カ所に集う。これは音楽の国メルディナならではの光景だろう。
中心には一台のオルガン。
「今日のリクエストは?」
見渡すと一人の女の子が手を挙げた。教会のアイドル、アンナである。
「は、はいっ!リーシャ、私、ええと…何にしよう」
困ったようにあたふたと悩む姿は天使のように可愛らしい。おおい、男子諸君。気持ちは分かるがその鼻の下の伸びた顔を早急になんとかしないと、愛しのアンナちゃんに嫌われるぞ。
「じゃあ、シャトーの『花園』がいいっ!」
「花園ね、了解」
女の子に人気のある、甘い恋の曲だ。ドルチェの旋律に女の子たちがうっとりした表情を浮かべる。
美男子と名高かったシャトーの最愛の奥方との出会いを描いた曲。
メジャーの音階を滑らかに奏でる音が表すのは、シャトーの世界が鮮やかに変化した場面。そこから上り詰めて解放された後には清らかな小川が流れる音のような美しいきらめきが待っている。続く穏やかなメロディ、けれど左手は弾む心を表している恋の素晴らしさを最大限に表現した傑作だ。
見たことはないが、今日もシャトーと奥方の甘い恋は劇の演目や吟遊詩人の題材に多く用いられている。
一曲弾き終わると女の子たちからの盛大な拍手。メルディナの国民は、首都だろうと田舎だろうと、老いも若いも男も女も関係なく、みんな音楽を愛する。生まれてから死ぬまで音楽に囲まれて過ごすのだ。
「次、次な!俺、『聖者の行進』がいい!」
続いてはリックからのリクエスト。こちらは男の子に人気のある曲だ。聖者の行進は幾つかあったが、はて、誰のを演奏しようか。
ちら、とリックを見遣ると演奏の開始を今か今かと待っていて、これはなかなか嬉しい。うん、決めた。嬉しいからサービスしちゃおう。
低音のフォルテから始まる曲。ぱっとリックの表情が明るさを増した。聖者の行進————作曲者は、リック・ノートリアム。リックの同名である。
そのほとんどが和音で構成されており、オクターブでのフォルティッシモなど力強い曲調が特徴だ。
ベースに合わせて子供たちが足踏みをする。その顔は総じて明るく、演奏にも熱が入った。
演奏を終える頃には汗をかいていて、おそらく次で最後の曲になる。これはいつも決まっていて、『メルティに捧ぐ』———その名の通り、女神に捧げる賛美歌である。
といっても子供たち向けに短めにして歌いやすいようアレンジを入れた物だが。
子供たちも、シスターも皆笑顔で歌を紡ぐ。
オルガンの音色と清涼な歌声が響き渡った。
音楽を表現するのって、難しいです。読んでいておかしいと感じたら、いい表現の仕方など教えてください。