一目会いたい
ネットが発達したおかげで、実際に会わなくても、友人を作れる時代となった。
SNSというのは、そのような交流を可能にした一番の要因だろう。
そのSNSの中の一つ、全世界で10億ものIDが取得されているというハイノメプテラというサービスがある。
ID取得者がファミリーという群隊を構成していて、その中では活発な交流が行われている。
そのファミリーの一つ、構成人数が14人という小さなスフィンドファミリーというところのチャットに、俺はいた。
「オフ会でも開こうか」
「オフ会?」
「そう、オフ会」
俺にそう相談をもちかけているのは、サラミドルと名乗っている人物だ。
IDの紹介文では、16歳の女性ということになっている。
ネカマという可能性は当然にあるが、一応は信じることにしている。
俺の紹介文は、一応真実を載せているが、相手がそれを信じてくれているとは限らない。
「サラミドルはどこに住んでるんでしたっけ」
「東京。だから、東京に来てくれた方がうれしいんだけどな」
「でも二人だけのオフ会というのもさみしいですね」
そこへ、ファミリーの発起人の、スフィンドがチャットに入ってきた。
「スフィンドさん、こんばんはです」
「さっそくで悪いんだけど、オフ会開く事に一票」
「こんばんは~。ね、これで3人」
さらに一人、もう一人と入ってきて、最終的には14人中、今日チャットに入ってきた8人全員がオフ会を開くことに賛成となっていた。
「未成年もいるから、居酒屋の類はダメだな。だとするとゲーセンか?」
スフィンドが全員に聞く。
「ゲーセンも輩がいるかもですよ。カラオケがいいんじゃないですか。安い場所知ってますよ」
「それじゃあ、フリータイムとしようか。遠い奴らは俺んちに泊めてやるさ。息子らにも話は通しておくよ」
「では、こういうことでいいですね」
俺がこれまでの話を全部まとめる。
「3連休の中日である日曜日、東京駅の丸の内改札口のところで11時に集合。で、いいですね」
「それでいいさ」
スフィンドが肯定して、チャットは別の話題へと移っていった。
大阪から新幹線に乗って約3時間。
やっと東京駅に着いたと思ったら、今度は構内でさんざん場所を探し求めて歩き回る羽目になった。
そして、場所にたどり着くと、携帯をもった一人の女子がいた。
チャットに戻り、誰かいないと確認すると、5分ほど前にサラミドルが入っていた。
「どうも、今着きました。どこにいますか」
「えっと、広告の前です」
「あ、じゃあこれから声掛けますね」
チャットから落ちて、同じタイミングで携帯をしまった人に声をかけてみる。
「一つ聞きますが、スフィンドファミリーのサラミドルさんですか」
その顔つきで本人だとすぐに分かる。
「リアルでは初めましてです。オルトリンです」
「ああ、今日はよろしくお願いします」
本当の女子高生だ。
「ええ、こちらこそ。ところで、他の人らは…」
「まだですよ。私も今日は早めに来ちゃって」
テヘヘと笑っている彼女は、文字通り、いまどきの女子高生だ。
寒いらしく、ピンク色のセーターの上から黄色と白のチェック柄のスキーウェアを着ていた。
さらに、水色のマフラーもしている。
だが、なぜこんな寒い時なのにスカートなんだろうか。
他の人らも、待ち合わせ時間に間に合うように続々と到着した。
「よし、今日分の人らは全員来たようだな」
最後に現れたのは、ファミリー長のスフィンドだった。
いかつい40代のおっさんのような風貌をしている。
スーツで来たのは、唯一彼だけだった。
「俺が最後か。まあいいさ。よし、今日は予約入れている店があるから、そこに先に行って飯を食うぞ」
連れて行かれたのは、普通のレストランだった。
どうやらスフィンドの知り合いがしているレストランらしい。
そこでご飯を安く食べさせてくれた。
それから、近場のカラオケ屋に全員で向かい、8時ぐらいまでフリータイムで歌い続けた。
俺は帰りの足が無くなるので、スフィンドの家に泊らせてもらうことになった。
ほかにも3人ほど同居することになるようだ。
「それじゃ」
「また」
このカラオケオフ会の最大の収穫と言えば、サラミドルが本物の女子高生だということを知れたということで、2番目の収穫はサラミドルと俺は、曲の好みが一緒だということだ。
だから、俺らは一気に仲良くなれた。
メアドの交換もしたほどだ。
そして、次の日、俺は大阪に帰った。
メールを確認すると、サラミドルから、また会いたいですねというメールが来ていた。
俺もだよと、短い文章を送り返し、今回のオフ会は終わった。