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妹とデート

三、

 時雨たちの家の近くにある公園では春の陽気に当てられてさっきから虫がそこらを飛んでいる。時雨はそれをほのぼのとした気持ちで眺めており、そんな時雨を蕾が虫をも射落とすぐらいの視線で見ていた。それには時雨は気がついていない。


「・・・・へぇ、気絶しててぜんぜん分からなかったけど、意外と綺麗なところもあるんだね。」


「え、う、うん!そうだね!」


 不意に話を振ってきて蕾の顔を見る時雨は幸せそうだった。そして、そんな幸せそうな顔を向ける兄の顔は蕾の幸せであった。自分にこんな顔を向けるのはかなり久しぶりだと感じながらもはやる気持ちを抑え、蕾は尋ねる。


「あ、兄貴ってさ!この呼び方に不満はない?」


 時雨はちょっと考えるようなしぐさをしてから口を開いた。


「う〜ん、別に兄貴でもかまわないけど・・・・僕としては何でもいいよ。」


 蕾が友達から教えてもらった気になる男性と仲良くなる方法、その一。まず、当たり障りのない方法でさりげなく、今呼んでいる呼び方を変えてみる。蕾はこれを実践したのであった。そして、時雨が別に何でもいいといったのでこれは自由に呼んでいいと決定された。蕾は決心し、自分の兄に話しかける。


「じゃ、じゃあさ・・・転校したから呼び方変えてもいいかな?」


「うん、別にかまわないよ?」


「お、にい・・・」


 蕾の顔が少々、赤くなっていた。時雨は『お兄ちゃん』と来ると思った。しかし、彼の想像は見事はずれる。至近距離でぶっ放したビームライフルがIフ○―ルドによってはじかれたような感じであった。


「お兄様!って呼んでいいよね?」


 時雨はずっこけ、辺りにいた鳩達はそんな時雨に驚いて逃げていく。何とか体勢を立て直した時雨はさすがにこれは凄い呼び方じゃないかと思い、蕾に意見した。


「ええとね、さすがにそれはどうかと思うんだ。」


 そして、蕾も考えを改めなおした。


「そ、そうだよね!今頃、『お兄様』なんて呼ぶ人いないよね?考え直してみたよ!」


 時雨は頷いて蕾を見る。今度は先ほどのように蕾の顔は赤くなっておらず、時雨は期待できると思った。


「・・・兄様でいいよね?」


 ・・・・ちょっとだけ、考えを改めた蕾はそう、時雨に告げた。もはや、時雨はいまさら否定できるでもなく、自信に満ちあふれたこの高校球児のような蕾を悲しくさせてはいけないと思ったのであった。


「・・・・うん、それでいいよ。」


 そして、頷いた時雨に対して蕾は影でぐっと手を握り締めていた。そして、友達から教えてもらった気になる男性と仲良くなる方法、その二を試してみることにした。ずばり、スキンシップを行うのだ。


「ありがと!兄様ぁ!!」


 蕾はそのまま時雨に抱きつき、時雨の胸に顔をすりすりする。しているほうの蕾はちょっと、顔を赤くして、されている時雨に至っては真っ赤になっていた。


「・・・・・ええとさ、蕾・・・恥ずかしいよ。」


「いいよ!だって兄妹でしょ、私たち?」


「う、うん・・・」


 それ以降、時雨は蕾に抱きつかれたまま、しばしの時間が経過。そろそろ、お天道様も眠くなってきたのか沈み始める。


「・・・蕾、そろそろ帰ろうか?」


 買い物帰りの主婦たちがほほえましい感じで時雨たちの事を見ていくのでいたたまれなくなった時雨は自分の義妹にそう告げた。しかし、蕾から返ってきた返事は静かな寝息であった。


「・・・・すぅ〜・・」


 起こすのもなんだかかわいそうなので時雨は起こすのをやめておんぶして帰ることにした。蕾は思っていたより軽かったので簡単におんぶすることが出来た。

 家に帰りつくと、既に家の中には夕食のにおいがぷんぷんしていた。


「・・・・おかえりなさいませ、時雨様、蕾様。・・・おや、どうやら蕾様はお疲れのようですね。」


 時雨は蕾を彼女の部屋のベッドに寝かせて執事の元に戻ってくると、今日あったことを話した。その間執事は、黒くてかっこいいエプロン姿で真剣に聞いていた。片手に持っているお玉との相性も完璧である。


「・・・・なるほど、どうやら蕾様は時雨様に甘えたいのですよ。」


「・・・ええと、どうしてですか?蕾はあまり僕に近づきたくなさそうな感じでしたよ?」


 執事は意味ありげな表情になり、時雨の目を見据えた。


「・・・・時雨様は過去のことばかりに捕らわれてはいませんか?過去に捕らわれ、蕾様が叫んでいるのにあなたは上の空・・・そんなことがあれば蕾様は寂しくなるものです。その裏返しなのかもしれないんですよ。」


「・・・・なるほど・・・さすが蕾の執事ですね?」


「恐縮です。ですが・・・明日から私はちょっと用事があるので家を空けることとなります。」


 それを聞いて時雨は驚いた。この家で料理を出来るのはこの執事さんだけである。時雨、蕾には料理のスキルはほとんど存在していない。


「・・・・時雨様、心配しないで結構です。私の代わりに私の孫が助っ人に来ますからね。」


「あの・・・その人は料理できますか?」


「ええ、腕の保障は私がしますよ。では、そろそろ私は失礼させてもらいます。あ、そうそう・・・。」


 時雨がいた部屋から出て行こうとしていた執事はその動きをやめて時雨のもとに近寄った。


「・・・・時雨様、あなた、罪人天使ですが・・・・頑張ってください。」


「え・・・?罪人天使?なんです、それ?」


 執事はそういって部屋からいなくなってしまった。残されてしまった時雨は思う。

 ま、まさかあんな格好のまま、外に出たのだろうか?


「・・・・まぁ、それはいいとして作ってもらった夕食でも食べようかな?」


 いいにおいのするほうに歩いていくと、そこには蕾が既に自分の分と時雨の分の夕食をついで待っていた。


「・・・あれ?蕾はもう起きたの?」


「うん、ごめんね、ちょっと近頃疲れててさ・・・。だけど、ちょっと寝てたからもう大丈夫だよ。さ、夕飯食べよ?」


 時雨は蕾の前に座り、夕食を眺める。(今日の夕食はトンカツ、卵の入ったスープであった。)そして、箸がないことに気がついた。


「・・・・蕾、僕のお箸知らないかな?」


 蕾は首を振った。時雨が箸を探そうと立つと、蕾がそれを座らせた。


「大丈夫だよ、兄様。兄様にお箸は必要ないよ。」


「・・・・僕に素手でこの煮えたぎっているだろう、スープと、いまだに湯気を上げている、豚さんを食べろって言っているの・・・?」


 蕾は静かに首を振り、自分の箸で時雨のトンカツを掴んだ。


「・・・蕾、それは僕のトンカツだよ?」


「わかってるよ。ほら、兄様あ〜ん!」


 時雨はきょとんとして目の前にやってきた空飛ぶ豚さんを眺めていた。で、それが終わったら今度はニコニコしている蕾のほうに目を送る。


「ほら、冷めるから、あ〜ん!」


「・・・わかったよ。あ〜ん。」


 時雨は顔を赤くしながらも空飛ぶ豚さんを食べたのであった。


「おいし?」


「うん、僕と蕾が作ってないからおいしいよ。」


 時雨は心の中からそう、思った。もしも、この二人のどちらかが夕食を作った場合は食べたほうが地獄に行くであろう。


「兄様、今日はいっしょに寝よ?」


「うん・・・・・蕾、寝言は寝ていったほうがいいよ。あのねぇ、甘えてくれるのは兄として嬉しいんだけどね、ちょっとその・・・・まぁ、なんというか・・・・」


 時雨が何事か考えている間に蕾は泣きそうな顔になった。時雨はそんな妹を見て腹をくくった。


「わかったよ!寝ればいいんだよね?」


「うん!やっぱり私は兄様が大好きだよ!!」


 こうして、時雨は妹と寝る事となったのであった。がんばれ、お兄ちゃん!



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