あなたのお家
五、
黒塗りの車が再び止まったころ、驟雨の目の前には学校に負けないぐらいの大きさの建物が立ちはだかっていた。
「・・・・・。」
「さて、ここが私の実家だ。驟雨君も一度だけ、ここで眼を覚ましたことがあっただろう?確か、一ヶ月ぐらい前だったかな?」
何を思い出したのか、氷は顔を赤くして頬をおさえた。驟雨はただただ、そのでかさに見とれ、固まるだけであった。
中は和風と洋風が混じっているようなもので、和室もあれば洋室もある。そして、何より驚いたのは執事やメイドさんたちがいっぱいいることであった。
「・・・・・すごいですね。」
「ん?そうかね?」
平然と氷は驟雨の先を歩き、そんな氷の後を縮こまりながら驟雨はまるで泥棒のような感じで歩いていた。と、そんな二人のところに髪の毛に少し白髪が混じっている男性と綺麗な女性が現れた。
「おや、氷、帰ってきたのかい?」
「ええ、今ついたところです。驟雨君、この人は私の父で・・・・。」
「うむ、私は冬野 権蔵と言う者だ。で、こっちが私の妻の・・・。」
「冬野 雹と言います。・・・・驟雨さん、体の調子はどうですか?」
「え、ええ・・・健康体です。別に悪いところはありません。」
そういうと氷以外の二人は笑いながら去っていった。なんでも、今から仕事に行くそうだ。
「・・・・驟雨君、君の部屋はここだよ。」
その後、氷に案内されたところの部屋は水色で統一されていた部屋であった。ベッドはどこの王様が使っているのか知りたい天蓋付のベッドで、その馬鹿でかいベッドの上には枕が二つ置かれている。そして、その隣にはこれまた野生の熊が寝ているのではないかといった大きさのリアル熊のぬいぐるみが番をしていていた。
「・・・・ええと、僕に熊は必要ないですよ?」
「うむ、驟雨君には悪いが、ここは私の部屋だ。・・・・ええとだね、その・・・部屋のあまりがないからね、一緒なのだよ。」
慌てながらもそんなことを言う生徒会長。驟雨はそんなことをいわれて心底驚き、もう一度、ベッドが二つばらばらにおいていないかきょろきょろする。そして、ないことを十回ほど、確かめた後に恐る恐る赤くなっている氷に聞くのであった。
「・・・・つ、氷さん、もしかしてですね、この部屋にはベッドが一つしかないんですか?」
「ああ、今のところは一つしかないな。」
「ええと、天井が開いて降りてくるとか、床から出てくるとか、はたまた、呪文を唱えたら何もないところから出てくるなんてないんですか?」
「うむ、あれ一つだけだ。」
「・・・・・じゃ、じゃあ・・・僕は誰と寝るんですか?あの怖い熊ですか?」
驟雨は冗談で言ってみた。しかし、生徒会長というものは真面目なもので、外国にいながらもテレビ電話などでこっちの生徒会を仕切っていたぐらいなので、やはり、彼女はまじめであった。
「いや、修君と寝るのはこの私だ。・・・それに、私はあの熊より怖くないから心配しなくて結構だ。・・・それにだね、ええっと・・・君のつ、妻だからな。」
そういわれて驟雨は腰を抜かしてその場に座り込んだ。いや、へたり込んだと言った方が適切かもしれない。驟雨はとりあえず聞いていないこととして話を変えることにした。
「ええっと、トイレの場所とかはどこにあるんですか?出来れば教えてもらえませんか?」
「うむ、トイレはこっちだ。付いて来るといいよ。」
氷の部屋から出て近くのトイレまでやってきた。そして、次はお風呂などの場所も教えてもらった。
「へぇ、お風呂かなりでかいですね?」
「そうだな、二人ではいるのだからこのくらいは大きくないといけないだろうと思ってだな・・・・・というのは冗談だ。」
驟雨がちょっと後ろに引いたので氷は違うことを言った。
「・・・・・私の家にはたくさんのメイドたちがいるだろう?一応、別のところにもお風呂はあるのだが、こっちは急用のときに使うことが多いんだよ。近頃はもっぱらこっちを使っているがね。」
「はぁ、そんなにメイドさんたちが多いんですね?」
「うむ、驟雨君も気をつけて欲しい。メイドたちに嫌われてしまったら色々と面倒なことに巻き込まれる可能性があるからな。・・・・まぁ、驟雨君をいじめる奴はこの私が許さんがな。」
使命に燃えている氷を驟雨は頼もしく思ったがメイドたちから嫌われることはないだろうとおもっていた。どうせ、学校に行くのだからメイドたちに会わないと思ったからだ。家に帰ってくるのも氷と一緒にしておけば珍しいであろう、メイドたちとほとんど会わない可能性が高いからだ。もっとも、驟雨としてはメイドさんたちを眺めているだけで天国にも昇る気持ちだったのだが・・・・・。
「うむ、ではそろそろ、夕食が出来ている頃合だから食べに行こうか?」
「あ、はい。・・・・でも、本当にいいんですか?全くのよそ者の僕が本当にこんな豪華な家に居候させてもらって・・・・。」
氷は頷き、頬を染めた。
「大丈夫だ。私がどんなことが起こっても驟雨君を助けてあげるからな。任せてもらいたい。もっとも、驟雨君ならどんな相手でも勝てるだろうがな。」
堕天使だしな・・・と氷は呟いて笑った。驟雨もつられて笑い、ついでに、変な妄想が頭の中を光の速さでビューンと駆け巡ったのであった。
じゃ、じゃあ・・・・やっぱり僕はこの・・・・ちょっとかたっくるしいところもあるけど・・・頼りになる先輩と・・・・・ラブラブになれるのかな・・・・そうなったら・・・・どうなるんだろう?
しかし、物語というものは様々なことがあるものだ。
とりあえず驟雨はにやけた顔を氷に見られないように努力してみた。
もしも、こんな顔を氷が見てしまったら何を考え始めるか分からないからだ。氷は頼りになる会長さんだが、妄想癖もある。驟雨は緩んだ頬をきゅっと引き締め(それは例えるならお相撲さんのまわしを外れてしまわないようにきっちりしているもののようだ。まわしが外れたら大変なことになる)きりっとした顔になるように努力してみた。
「驟雨君、顔がにやけているがどうかしたのか?」
どうやら、僕にはきりっとした顔はできないようだと自己嫌悪した後に氷の妄想が始まる前に適当な言い訳を考えてみた。一つ目、あなたの顔に見とれてました・・・・却下。二つ目、今後のことを考えてしまいました・・・・事実だから却下。最後、メイドさんに手取り足取りご奉仕してもらいたいと思ってます・・・・これは会長が自分でしそうだから却下・・・。
「ああ、なるほど、そんなに夕食が楽しみなのか!うむ、うちのメイドたちの料理の腕は凄いぞ?期待してもらって嬉しい。」
「え、あ、は、はい!」
どうやら、心配していたことは何もなかったので驟雨はほっとしたのであった。そして、本日は何事もなかったように終わったのであった。これは驟雨がつかれていたおかげであろう。




