旅立
たとえば北へ旅立てば
大きな道が続いている。
遠くに大きな町も見える。
少し道のりは長いけれども、人通りは少なくない。
気が楽になって、安易に「北の道を選べばいい」と
そう考えた。
足を踏み出したのはいいけれど、「あの町へ着いたら何をしよう」
そう考えてみたら、何も思いつかない。
道行く人に尋ねても、返事もあいまいで答えは返ってこない。
「ああ、そうか」
私と同じだ。
私と同じで、自分の答えを持っていない人が大半なんだ。
それならば「私もわかりません」と虚ろな顔で答えてほしい。
私は「そうなりたくない」と答えを出せる。
たとえば西へ旅立てば
大きな山が見える。
山のふもとには険しい森が見える。
距離は短いが、他に歩く人も見当たらない。
突拍子もなく、「あの山を越えてやろう」と
そう考えた。
足を踏み出したのはいいけれど、「あの山の向こうには何がある?」
そう考えてみたら、足が止まる。
周りに誰もいないので、問いかけることもできない。
「ああ、そうか」
私も同じだ。
私も同じで、孤独な道のりが怖いんだ。
それならば通行止めだと言ってほしい。
私も否応なく足を止めることができる。
どちらの道を選んでも
私の答えは他人任せ。
ならばこのまま立ち止まっていよう。
止まっていれば何も起きない。何も変わらない。
唯、そこに存在しているだけ存在。
悲しみも、喜びも、怒りも、愛も、何もかも、ない。
「そんなのは嫌だな」
そう思えた。僕は幸せだった。