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屋上の少女  作者: 風之
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2-エピローグ

 失礼しました、と言って、楓が職員室から出てきた。肩にはいつもの鞄をかけ、もう片方の手には、少し古めの卓球のラケットケースが握られている。

「それ、夏目先生の?」

 外で待っていた翔太は、楓の手ものと見ながら尋ねる。うん、と楓は少しうれしそうにしながら、それを少し持ち上げた。

「新しいラケット買うまで、貸してくれるって」

「よかったね。これですぐに楓も卓球ができるじゃない」

 今日は、楓の初めての部活に参加する日だった。退院してから、ちょうど一週間である。

 退院したばかりは、体力がないことを考慮に入れて、無理な運動は避けるように医者から言われていた。もともと運動していない楓が退院してからすぐに部活動など、していいはずもなく、今日までお預けだったのだが、やっと今日、部活動に参加してもいい許可が医者から降りたのだ。

「それじゃ、行こうか」

 翔太は楓と並んで、下駄箱へ向かう。楓はどこかうれしそうで、夏目先生に貸してもらったラケットケースを大切に抱えながら、笑顔で歩いている。そんな様子を見て、翔太も思わず顔をほころばせた。昼休みだけでなく、放課後も楓と一緒に入れるなど、これほどうれしいことはなかった。

 下駄箱で靴を履き替え、二人並んで体育館へ。それぞれ更衣室に入り、先に着替え終わった翔太が体育館の入り口で楓を待つ。更衣室は体育館の外にあるため、先に体育館に入るよりも外で待とうと翔太は考えたからだった。

 すぐに、着替え終わった楓が更衣室から出てきた。部活中は服装は自由なため、今日は体操服ではなく、短パンに半袖と、動きやすい格好である。髪の毛は邪魔にならないよう、後ろでポニーテールにしてあった。

 楓の初めての運動着姿に、翔太は思わずどきりとしてしまうが、楓に首をかしげられ、あわてて首を横に振って体育館の扉にてをかける。こんなことでこれから先大丈夫かと思いながら、楓を伴って、いつもの卓球部の区画へと進んでいった。

「こんにちは!」

 すでに来ていた安奈、麻紀、良平に挨拶をすると、三人がこちらを振り返って笑顔になった。

「おー、翔太。授業お疲れ」

 そう真っ先に声をかけてきたのは良平だ。おう、と気軽に返事をして、翔太はラケットケースを所定の場所に置く。

「それと、清泉さんもこれからよろしゅう。俺、林良平いうねん。聞いての通りの関西人や」

 良平が気さくな笑顔を楓に向ける。楓は少しだけ戸惑いながらも、よろしく、とお辞儀をする。表情は少し硬いが、それでも笑顔は浮かべていた。

「こら、良平。入部テストしてないんだから、まだ挨拶するには早いわよ」

 そう声をかけてきたのは安奈だ。えー、と良平は口をとがらせる。

「別にいいやないですか。せっかくの女子部員なんやから免除しても。それに翔太の彼女ですよ?」

「まだそのネタ使うか!」

 翔太があわてて割り込む。よく聞こえなかったのか、楓はきょとんとしていた。それを見て、翔太は少し安心しつつもなぜか気分が少しだけ沈む。

「そんなのは関係ないわ。内に入るからには平等にテストを受けてもらわなきゃ」

 そう言って、安奈は人のよさそうな笑みを浮かべながら楓に向き直る。

「改めて、はじめまして。部長の大海安奈よ。張り切って来てもらったところ悪いんだけど、この部に入るには入部テストに合格してもらわなきゃいけないの」

 はい、と楓は静かに返事をする。その表情からは頬笑みが消え、少し真剣なものへと変わっていた。

 その表情を見て、安奈は満足そうに笑う。

「テストの内容は簡単。あそこに立ってる麻紀と試合をしてもらって、勝つか、私たちが認めればテスト合格よ」

「志村麻紀です。お相手よろしくねっ!」

 麻紀が明るく挨拶をして、ラケットケースからペンホルダーのラケットを取り出す。入部テスト専用のラケットだ。

「ラケットは…あるみたいね。それじゃ貸さなくていいかしら」

「はい、大丈夫です」

 楓が夏目先生から借りたラケットケースを開き、中からラケットを取り出す。出てきたのは、ペンホルダーのラケットだった。

「試合のルールとかは麻紀が説明してから始めるから大丈夫ね? 何か質問は?」

 安奈がにっこり笑って尋ねる。その笑顔を、楓は無表情ながら、しっかりとした視線で受け止める。

「私、勝つまであきらめないつもりなんですけど、大丈夫でしょうか?」

 楓のそんな言葉を聞いて、翔太は驚きつつも感心する。楓のあんな力強い言葉を、表情を、今まで見たことがなかったからだ。

「初めの試合は負けるつもりで挑もうとする子は、入部をお断りするわよ?」

「すみません。そういうつもりじゃないです」

 そういいながら、楓はしっかりと麻紀の立つ卓球台を見つめる。その顔は、いつものはかない表情とは違う、意志のこもった表情だった。

「ただ、居場所というのは、自分で手に入れるものだと、ある人から聞いたので」

 その言葉を聞いて、安奈は満足そうに笑う。翔太も、その言葉を言った人の顔を思い出して、一人うれしい気持ちになっていた。

「いいわよ。あなたの居場所を手に入れる気持ちがどれほどのものか、見せてもらうわ」

 挑戦的な言葉とは裏腹に、安奈の表情にはすでに楓を受け入れているような表情があった。

 楓は、安奈の言葉を受けて、ゆっくりと麻紀の待つ台についてから、不格好ながらもラケットを構えた。

「さて、それじゃあ、テスト始めようかっ」

「よろしくお願いします」

 楓の、新たな一歩が踏み出された。


ここで一応、この物語は完結です。なんだか最後のほうはぐだぐだで終わって申し訳ありませんでした。

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