2-5 試合
またまた更新が遅れてしまって申し訳ありません。できるだけ書くようにはしているのですが、どうにもこうにも時間がなく…。本当に申し訳ないです。
五月も下旬に差し掛かったころの日曜日。翔太は乗りなれない電車に揺られ、安奈たちが待つ駅へと向かっていた。
今日は、翔太が高校へ入ってから初めてとなる卓球の試合の日である。今日は地方のシングルスとダブルスの試合だが、勝ち上がっていけばインターハイへとつながる大会の、地区予選だった。
「おお、翔太。こっちやこっち!」
駅に着くと一足先についていた良平が手を振って呼びかけてくる。すでに安奈と麻紀もそろっていた。
「すみません。集合時間もっと早い時間でしたっけ?」
「そんなことないわよ。電車の関係で、相田君が一番遅いだけ。時間もぴったり五分前だし」
翔太の不安を安奈が笑顔で取り払う。翔太はほっと胸をなでおろし、そこでまだ一人いないことに気がついた。
「まだ夏目先生は来てないんですね」
「ああ、あの人は来るまで直接会場に来るから大丈夫」
そういいながら、安奈が地面に下ろしていたスポーツバッグを肩にかける。それが出発の合図なのだと、麻紀と良平もそれぞれの鞄を持ちあげた。
「まあ、いつも必ず遅刻してくるんだけどね」
そう笑いながらいうのは麻紀。もう慣れっこになっているようだ。
「いいわよ。最悪顧問がいなくても、大会には出れるから」
そういいながら安奈は歩き出す。夏目先生の部内での立場がいったいどういうものか、翔太はほぼ理解しつつあった。
会場に着くと、ちょうど体育館が開いたところのようだった。体育館の入り口付近で待ったいた学生たちが次々と体育館の中に入っていく。背中に学校名が書かれたおそろいのジャージを着ている学校。エナメル鞄を方にかけていかにもスポーツをしそうな格好をした学生。翔太は久しぶりの試合の空気に心地よい緊張感を感じながら人の流れに混ざって体育館の中へと入っていく。
体育館の中に入ると、まずは体育館内の席を取ることになる。卓球のシングルスやダブルスの試合では、アリーナに用意された台に呼び出された人がその台に入り、、試合を行うことになるのだ。呼び出される順番はトーナメント表に書かれた順である。そのため競技を行うアリーナに設置されている観客席に荷物を置き、席を確保して、呼び出しがかかるまではそこで待機するのだ。
翔太たちは入って体育館に入ってすぐの席に荷物を置き、席を確保した。会場を見回すと、入って来たばかりの学生たちが席の確保に忙しそうだった。翔太たちのように人数が少ない学校は席を確保するのも楽だが、名門校など人数が多い学校は席を確保するのも一苦労なのだ。
「私は受付に行ってトーナメント表をもらってくるから、みんなはそれまでに試合に出られる格好になっておいて」
そう言って安奈は席を立ち走って行った。その背中を、翔太たちだけでなく、他の学校の生徒たちも見ていたことに翔太は気づいた。今だけではない。体育館についたときから、安奈だけではなく、麻紀もどこか他の学校の生徒から視線を向けられていた。それは、二人が有名なあかしでもある。つまり、それだけの実力者ということを意味していた。
安奈と麻紀の実力はかなりのものだった。麻紀の実力が県でベスト十六、安奈に至っては県でベストエイトである。個人戦でそれだけの実力を収めようと思えば、かなりの練習を積まなければならない。実際、安奈や麻紀以外のベストエイトやベスト十六に入る学生のほとんどが名門と呼ばれる私立校の選手たちである。翔太たちの学校は公立で、私立よりも設備が整っているわけではない。しかし、その差をものともせず二人はそれだけの実力を身に着けていた。
正直、それだけの実力を持った安奈に、男子である翔太も良平も勝ったことはない。入部テストでは入部の条件が安奈に勝つことだったが、それは建前で、あきらめず何度も立ち向かってくる根気とやる気をみるためのものだったのだ。ほとんどの学生は安奈の実力をみた瞬間、勝てないとあきらめてしまう。その中でも、あきらめず勝つまで何度も挑戦する。それが翔太と良平だったというわけだ。
「なんや、緊張するの。先輩が強いと俺らもだらしない成績残せれへん」
「あははは、大丈夫だよ。去年の私なんか君たちよりずっとへたくそだったんだから」
良平の不安を、麻紀が笑って否定する。そういえば、麻紀は高校に入ってから卓球を始めたと言っていた。にもかかわらず県のベスト十六に入る実力の持ち主とは、一体どれだけの練習をしたのだろうか。
「麻紀先輩は、県のベスト十六に入ったのはこの大会じゃなんですよね?」
「そう。その成績取れたのは冬のブロック大会の予選のとき。結構最近なの。去年のこの大会の成績は一回戦負けだったから、たぶん一回戦はそうとう強い選手に当たっちゃうと思うんだよね」
大会の対戦組み合わせは、各校の校内での実力と去年の同じ大会の成績を考慮して決められる。麻紀は去年一回戦で敗退しているので、それを考慮されたトーナメントだった場合、麻紀はいきなり強い対戦相手とあたらざるを得ないのである。
しかし、麻紀の表情にはそれに対して悲観している様子は少しも見当たらない。いつも通りの笑顔で、にこにこ笑っている。
「気負わずに、自分にできること精いっぱいやって、楽しんでこれば結果はすぐについてくるよ」
笑顔の麻紀にそう言われると本当にそうなる気がして不思議である。翔太と良平は自然とうなずいていた。
「お待たせ。トーナメントもらって来たわよ。こっちが男子で、こっちが女子ね」
翔太たちが試合のユニフォームに着替え終わったところで、安奈が受付を済ませて戻ってきた。翔太たちは差し出されたトーナメント表を受け取って自分の名前を探す。ほどなくして自分の名前を見つけた翔太は自分の対戦相手を確認した。当然ながら、全く知らない名前である。位置としてはシードから離れていることから、それほど悪い位置ではないだろう。
「さて、ここで一つ問題が発生しました」
翔太たちがトーナメント表を確認していると、安奈がいきなりそう声をあげた。翔太たちは視線をトーナメント表から安奈へと向ける。安奈は全員の視線が向けられたのを確認してから、いきなりズバッと麻紀を指差した。正確には、麻紀の履いているユニフォームをだった。
「今日、私と麻紀はダブルスの試合にも出るわ。ダブルスに出るうえで、ユニフォームについて一つ大切なルールがあること、翔太は知ってるわね?」
いきなり指名されて、翔太は驚きながらも、一つうなずいて答えた。
「えっと、ユニフォームは出場者二人ともが上下同じものを着ていなきゃいけないっていうことですか?」
「その通り!」
安奈は大声でいう。そんなことは翔太だけでなく、この場にいる全員がすでに知っている基本的なルールだ。一体こんなことを聞いてどうするのかと首をひねる翔太と麻紀だったが、良平だけが、あ、と声をあげた。
「もしかして、大海先輩たちユニフォームそろってないんですか?」
「そう! 正しくは、私がユニフォームを忘れちゃったんだけど」
ニコッと笑いながらいう安奈だったが、他の三人は沈黙。気まずい沈黙が二秒ほど続いた後、えー、という声が一斉に響いた。
「いや、忘れたって、それじゃ出れないってことじゃないですか! ニコッ、じゃないですよ!」
「忘れたといっても、上はしっかりそろってるから大丈夫。問題はハーフパンツのほうなのよ」
そう言って安奈はスカートを脱ぐ。出てきたのは、色こそ麻紀のものと同じ黒だったが、全く別メーカーのデザインの子となったハーフパンツだった。
「いや、大丈夫やないですやん。どないするんですか?」
「まあ、忘れちゃったものはしょうがないのよ。今更取りに帰るわけにもいかないし、私も困ったなと思ってたところで、翔太がいたわけよ」
またもいきなり名指しされて、翔太は首をひねる。しかし、あ、と今度は麻紀が声をあげた。
「翔太君、私と同じハーフパンツ」
「え?」
言われてみると、確かに翔太と麻紀のハーフパンツは同じものだった。翔太は中学のころ使っていたものをそのまま持ってきただけだし、麻紀も自分のものをただ持ってきただけだろう。本当に偶然に、二人のハーフパンツはそろっていた。
「そう。だから私と翔太のハーフパンツを交換すれば、何も問題ないわけよ。個人戦はハーフパンツなんて関係ないし、体格は私も翔太も同じくらいだし」
安奈のいうことは確かにこの状況を解決するためにはうってつけだった。翔太と良平は、まだであって日も浅く、ダブルスの練習をする時間がなかったため、今回の試合ではシングルスにしか出場しない。だから翔太と安奈がハーフパンツを交換することには何も問題はないのだが、先輩とはいえ女子が履いていたものを交換して履くというのは、どこか後ろめたいものがあった。しかし、それでもこの状況を解決できるならばいいかと、翔太は制服のズボンを手に取る。
「じゃあ、僕が今から更衣室に行って、ズボン履き替えてきますから、それ持って今度は安奈先輩が更衣室で着替えて、安奈先輩のハーフパンツを持って僕がまた更衣室で着替えてくる、って感じでいいんですか?」
「ああ、そうしたいのは山々なんだけど…」
安奈がそう言って更衣室に向かおうとする翔太を止める。何か問題があるのかと翔太が立ち止まった瞬間、館内放送が流れた。
「…五コート、十二番、大海・志村組、十三番、服部・森組。第五コートに入ってください」
それは、安奈と麻紀に試合を行う台まで来いというものだった。
「というわけで、そんなまどろっこしいことはしてられないの。だから、もっと手っ取り早く済ます方法で行きます」
安奈はにっこりと笑って、恐ろしい言葉を発した。
「広い多目的トイレがあったから、そこで一緒に着替えましょう」
久しぶりの更新にも関わらず、物語は進展せず。本当にすみません。次のお話は少しだけギャグ要素を含むつもりです。