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No6. 路地裏の影

パンを食べ終えた三人は、そのまま街をぶらぶらと歩いていた。


甘い香りの漂う通りに、色とりどりの看板。


そして何より、賑やかな人の声。


「すごい……」


華は感心したように辺りを見回す。


「お店がいっぱい……」


ストレートが笑う。


「メルティアはお菓子の国だからな」


その時だった。


「やめろ!!」


突然、路地裏から叫び声が聞こえた。


華が振り向くと、


「……今の声」


もう一度、声がする。


「お前達に渡すお金なんてない!」


子供の声だと思った華の顔が変わる。


「大変!行かないと!」


華はそのまま路地裏へ走った。


「華!」


ストレートとアッサムも慌てて追いかける。


路地裏に入ると、大柄の男が二人いて、その前に小さな男の子が立っていた。


男の子は袋をぎゅっと抱きしめている。


「あっち行け!」


小さな体で必死に叫ぶ。


「お前達に渡すお金なんてない!」


男の一人が笑った。


「おー、怖い怖い」


もう一人が肩をすくめる。


「小さいのに勇敢な坊ちゃんですねー」


男の子は震えているが、でも逃げない。


そんな姿に、華は思わず前に出た。


「やめてください!」


男達が振り向く。


「……あ?」


華は男の子の前に立つが、心臓がうるさいくらい鳴っていた。


「子供からお金を取るなんて、最低です!」


男達は顔を見合わせて笑う。


「なんだこいつ」


その時、後ろからストレートとアッサムが現れた。


「おい」


ストレートが睨む。


「ガキから金巻き上げるとか、クズだな」


男達は一瞬驚いたが、すぐにニヤニヤ笑った。


「おーおー」


紅の騎士団(ルージュ・オルドル)様じゃねぇか」


男の一人がわざとらしく言う。


「でもよぉ、団長様が居ないと、なんにもできないんだろ?」


その言葉にストレートの顔が歪む。


「てめぇ……!」


ストレートは拳を握り、今にも殴りかかりそうだった。


だが、アッサムが腕を掴んだ。


「……ダメ、掟を忘れたの?」


ストレートは歯を食いしばる。


紅の騎士団には掟がある。


団長の許可なく剣を抜いてはならない。

国民に対して暴力を振るってはならない。


それを国民は皆、知っていて、男達はそれをいい事に、笑っているのだ。


「ほら見ろ」


男が肩をすくめる。


「やっぱり何もできねぇ」


そして視線が華に向いた。


「お嬢ちゃんよ」


気持ち悪い笑みを浮かべる。


「あんな奴らじゃなくてさ」


華に一歩近づいてくる。


「おじさん達と遊ぼうぜ」


男の手が華に伸び、体がびくっと震える。


(こわい……)


でも、華は後ろを見る。


男の子はまだ袋を抱えて、怯えていた。


(あの子だって怖いはずなのに)


華はぎゅっと目を閉じ、男の手を思いきり叩いたのだ。


乾いた音が路地裏に響き、男が固まる。


「……は?」


華は震えながら言った。


「嫌です。小さな男の子をいじめてる人なんかと」


声は小さいが、でもはっきりしていた。


「女のくせに…!」


男の拳が振り上がり、華は思わず目を閉じた。


その瞬間、


「こんな所で、女相手に喧嘩か?」


低い声が路地裏に響いた。


男の動きが止まる。


「みっともない」


路地裏の入口に立っていたのは、白い髪の男だった。


光を失ったような、漆黒の瞳。


ゆっくりと歩いてくるだけで、空気が張り詰める。


ストレートが小さく呟いた。


「……黒の騎士団(ノワール・オルドル)


白い髪の男――ブラック・ウィル・パラは、華を殴ろうとしていた男を冷たく睨みつけた。


「……消えろ」


それだけだが、男達の顔色が変わる。


「く、黒の騎士団……!」


「ちっ……!」


二人は舌打ちすると、そのまま慌てて逃げていった。


路地裏に静けさが戻るり、ブラックは興味がなさそうに視線を外した。


そして華の前に立ち、ブラックはぼそりと呟いた。


「……女は喧嘩に入るな。下がってろ」


それは華にだけ聞こえる小さな声だった。


ブラックはそれ以上何も言わない。


ただ踵を返し、用が済んだと言わんばかりに、来た道を歩いていく。


ストレートが眉をひそめる。


「なんなんだ、あいつ……」


その時、通りの向こうから、軽い声が聞こえる。


「あー、ブラックさんみっけ」


水色の髪の男が手を振りながら歩いてきた。


「探したんだよー」


金色の瞳を細めて笑い、ブラックはちらりと見る。


「……カフェオレか」


水色の髪の男――カフェオレ・ジ・ボーダは肩をすくめる。


「勝手にどっか行くんだもん」


そして華たちの方をちらっと見たと思うと、


「へぇ、紅の騎士団じゃん」


と面白そうに笑う。


ストレートが舌打ちする。


「副団長も一緒かよ……」


カフェオレは手をひらひらさせた。


「別に喧嘩する気ないって」


ブラックはすでに歩き出していた。


「帰るぞ」


「あーはいはい」


カフェオレは軽い調子でついていき、去り際にもう一度、華を見る。


「……ふーん」


何だか、意味ありげに笑った。


そして二人はそのまま通りの向こうへ消えていった。


残された華は、まだ呆然としている。


「……えっと?」


ストレートが頭をかく。


「とりあえず助かったな」


アッサムも静かに頷くが、二人とも分かっていた。


ブラック・ウィル・パラは黒の騎士団の団長で、紅の騎士団と敵対している存在だった。


もしかして華が、女神だという事に気づいているかもしれない、と。











昼間の騒ぎの、その日の夜、ダージリンは『会議室』でひとり、ワインを飲んでいた。


テーブルの上にはワインボトルと、小さなチーズの皿があり、静かな部屋に、グラスを置く音だけが響く。


(華……本当に伝説の女神なのか?

それとも……元の世界に返してやるべきか)


ダージリンはチーズを一口、口に運んだ。


そのとき、会議室のドアが静かに開く。


入ってきたのは、ワイングラスを片手にした、アールグレイだった。


「どうも。こんな夜更けにどないしたん?」


ダージリンは軽く視線を向ける。


「何でもないさ。……それより今日はどこに行ってたんだい?昨日、華の歓迎会をするって伝えたはずだけど。君、いなかったようだね」


そう言いながら、ダージリンはアールグレイのグラスにワインを注ぐと、アールグレイは肩をすくめた。


「まあまあ、ちょっと散歩してただけや」


そう言ってワインを一口飲み、ダージリンは静かに言った。


「……あまり勝手な行動はしないように」


アールグレイは軽く笑う。


「はいはい。女神様にはまた挨拶しときますわ」


そう言うと、グラスのワインを飲み干し、空になったグラスをテーブルに置いて、アールグレイは背を向ける。


そしてドアの前で、ほんの少しだけ振り返った。


「……ほな、おやすみ」


扉が閉まり、再び静かになった会議室で、ダージリンはグラスのワインを揺らした。


赤い液体が、ゆっくりと波を作る。


(女神……か)


ダージリンは、静かにワインを口に運んだ。


夜はまだ深く、遠くで梟が鳴いていた。

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