No.5 桜色の始まり
久しぶりに笑い会えた日の翌朝、柔らかな朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。
「……ん……」
華はゆっくりと目を覚ます。
ふかふかのベッドに、静かな部屋。
(あれ……)
昨日のことを思い出す。
お菓子が実った森、赤い門の屋敷、騎士団の人たち。
(夢じゃ……ないんだ)
部屋の扉がノックされた。
「華、起きてるか?」
ストレートの声だった。
「はい!」
華は慌ててベッドから降り、扉を開ける。
そこにはストレートとアッサムが立っていた。
「おはよう」
アッサムが静かに言う。
「2人ともおはよう」
華も少し笑った。
昨日の歓迎会のおかげか、もうそこまで緊張していない。
「どうしたの?」
華が聞くと、ストレートが腕を組んだ。
「ダージリンが、華を街に連れて行ってやれって」
「え?」
思わず目を丸くすると、アッサムが華のスーツ姿を凝視していた。
「その格好だと怪しまれる」
「うっ……」
確かにこの世界では目立つ。
「…それに、街には美味しいご飯屋さんも、スイーツもあるよ」
「スイーツ……」
華の目が少し輝くが、でもすぐに不安そうな顔になった。
「でも私、この国の通貨なんて……」
財布もない。
スマホもない。
何も持っていない。
ストレートはあっさり言う。
「気にすんなって」
「え?」
「華は客なんだ。遠慮すんな」
アッサムも小さく頷く。
「……まずは服」
3人は石畳の通りの、カラフルな屋根の建物が沢山ある街へ出た。
通りにはパン屋やお菓子屋が並び、甘い香りが漂っている。
「わぁ……」
華は思わず声を上げた。
まるで絵本の中みたいな街だった。
アッサムが指をさす。
「……僕達の服を直してくれている、行きつけの所がある」
ストレートも顎で示した。
「そこのショーウィンドウのとこだぜ」
華が顔を上げると、可愛らしい仕立て屋が建っていた。
窓には色とりどりの服が飾られている。
その中で1着の服に、華の目が止まった。
淡い桜色の布に、胸元から裾にかけて、繊細な桜の刺繍。
華の世界でいうワンピースのような服だった。
華は思わず呟く。
「綺麗……」
ストレートがにやっと笑う。
「気に入ったか?」
「えっ!?違うよ!」
華は慌てて首を振るが、ストレートは店の扉を開けた。
カラン、と鈴の音が鳴る。
「おーい、いるか?」
店主が奥から顔を出した。
「おや、騎士団の皆さん」
ストレートはショーウィンドウを指さす。
「あの服、試着してもいいか?」
「もちろんですよ」
「だ、ダメだよ!私には似合わない……」
するとアッサムが言った。
「……いいから、着てみようよ」
華は戸惑いながらも、店の奥へ案内された。
しばらくして、カーテンが開く。
「ど、どうかな……」
桜色の服を着た華が、恥ずかしそうに出てきた。
ストレートが一瞬固まったように見えたが、笑った。
「お、いいじゃん!」
嬉しそうに親指を立てる。
「めちゃくちゃ似合ってるぞ」
「えっ」
アッサムも華を見て、少しだけ微笑む。
「……綺麗」
その一言で、華の顔が真っ赤になった。
「そ、そんなこと……!」
「決まりだな」
店主も頷いている。
「とても似合っていますよ」
華は桜色のワンピースわ着た自分を見て、胸が少しだけ温かくなった。
店を出るとストレートが、
「次は飯だ」
とお腹を撫で、アッサムも頷く。
「……パン屋」
三人が通りを歩いていると、パン屋からは焼きたての香りが。
ショーケースにはクロワッサンや甘いパンが並んでいる。
「好きなの選んで」
アッサムがショーケースを指さして言う。
「えっ、いいの?」
「…華はお客様だから」
華は少し悩んで、小さなイチゴの形をしたパンを選んだ。
店主からパンを受け取り、一口食べる。
「美味しい……!」
ふわふわのパンに甘いクリーム。
思わず笑顔になった。
ストレートが釣られて笑う。
「だろ?」
華が空を見上げると、雲1つ無い青い空に、甘い香りの街。
そして隣には友達になれた、騎士団の二人。
(なんだか……)
華は胸の奥が少し軽くなった。
「夢みたい」
アッサムが静かに言う。
「…夢じゃない。…ここが君のいる世界」
華はもう一度街を見る。
メルティア王国。
甘い香りのする素敵な国。
その物語が、今始まった。




