表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を滅ぼすラスボス悪魔を召喚しました~破滅寸前の悪役令嬢と最強悪魔の甘くない契約~  作者: 玖珠ゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

15.暗雲低迷


 馬車の向かいに座るルシエルは、相変わらず胡散臭い笑みを湛えている。ただ一つ決定的に違うのは、私を前にすると常時氷点下を観測していたその目が、春の日差しのように柔らかいことだ。

 …………不気味すぎる。


 

 聖女の祝福を受けここまでやって来た馬車は、瘴気をものともせず公爵家のカントリーハウスへ向かって走り続けている。

 倒れた護衛たちと馬は、ルシエルと共に現れた騎士たちにお任せした。

 そして私は、絶体絶命のところを物語のヒーローのように助けてくれたルシエルに、ご丁寧に屋敷まで送り届けてもらっている最中なのだった。


 

 ────そう、ルシエルに助けられた。

 しかしそれは、あくまで彼が正義側の人間だから。正義のヒーローは、たとえ憎くて仕方のない相手だとしても、目の前で死にかけたなら助けずにはいられない。

 ただそれだけ……の、はずなのに。



 気まずい沈黙が流れているところへ、ふとルシエルの視線が私の手元に落ちた。

 血の滲んだ指先に、少しだけ眉をしかめる。


「失礼します」


 ルシエルが手袋を外し、おもむろに私の手を取った。重なった手が淡く発光し、じんわりと温かくなる。

 痛みが引いて見れば、勢いあまって切りすぎた指の傷口は、綺麗にふさがっていた。


 

「聖女様ほどの力はありませんが、この程度なら」


 微笑むルシエルの瞳は、やたらめったら優しさに溢れている。

 …………おかしい。こういう表情は、聖女様にこそ向けられるはずなのに。



「無茶をなさいましたね。私が偶然通りかかって良かった」

「……偶然?」


 そんなはずはない。

 聖女付きの神官が彼女のそばを離れ、公爵領内の街道を通りかかるなんて、偶然では有り得ない。

 …………と、いうことは。


「ここに来たのは、聖女様やシリウス殿下の命令?」


 私の問いに、ルシエルは笑顔のままに頷いた。


「半分正解です。ベルナール公爵領の被害については聞き及んでおりますが、現在()()()()()()()()()()のため、聖女様は王都にて足止めをされております。そこで先んじて状況確認を行う役目を、私が自ら志願致しました」


 どうしてまた、ルシエルが?

 ……という疑問が浮かんで、すぐに自己解決した。


 ここにはリーネがいる。大切な妹の身を案じ、彼女の安全を確認したいと思うのは自然なことだ。


 ──それにしても。


「聖女様が離れられないなんて……。王都はそんなに酷い状況なの?」

「いいえ。浄化は済んでおります。こちらの方が、余程深刻かと。街道沿いで魔獣被害が出るほどとなると、王都との往来にも影響が出ましょう」

「…………そうね」


 これ以上状況が悪化したら……と思うと、胃が痛い。


「でもそれなら、どうして聖女様は王都に留まっているの? もしかして、父のゴリ押しでうちの領地を優先させようとしているけど、もっと他に大変な地域があったりする?」

「いいえ。瘴気の濃度が異常に増したのは、王都周辺と、ベルナール公爵領のみです」

「…………。王都と、ここ、だけ…………?」



 ────嫌な予感がする。


「それは、どう、して……?」

「……憶測ですが」


 そう前置きして、ルシエルは核心をつくようにはっきりと言った。


「聖女様が感知した、悪しき魔力と関連しているのではないかと言われております」 

「…………!」



 私たちが一時滞在した王都。そして、現在最も瘴気が濃くなっているのが、ここ、ベルナール公爵領。

 原因がノクスだとするなら、確かに説明がつく。


 まさかこの世界に存在するだけで瘴気に影響を及ぼすなんて……。

 悪魔というものは、なんて厄介なんだろう。決してここにいてはいけないのだと、世界から彼自身が拒絶されているみたいだ。



 言葉を失った私に、ルシエルが遠慮がちに続ける。


「あなた様への疑念の声は、日に日に大きくなっております」

「…………私?」

「あなた様のいらっしゃる場所で、瘴気は濃くなる。浄化の儀式を受けてもなお、あなた様から悪しき魔力を感じると、聖女様がはっきりとおっしゃいましたので。疑わしいのは……瘴気の元となる悪は、あなた様であると」



 …………ああ、そうか。

 結局私はどう足掻いても、悪という役割が割り当てられているということだ。

 浄化の儀式を乗り切ったからといって、逃げられはしない。


 

「……そう。じゃあ聖女様がここへ来ないのは、疑わしい私がいるからということかしら」

「それは違います。別の理由です」

「別の理由?」


 想定外に否定されて、首を傾げる。

 続くルシエルの言葉は、信じられないもので。


  

「神具のひとつが盗まれました。聖女様がすぐに動かないのは、そのためです」

「!」


 

 ────まさか、神具が。

 盗まれた? 神殿の奥で、厳重に保管されていたはずなのに?


 動揺する私に、ルシエルは更に驚きの言葉を告げる。


「神具盗難の件も、あなた様の仕業に違いないと言われております」

「なっ……」


 確かに、私はどうにかして神具を奪おうと画策していた。どころか、未遂ではあるが前科もある。

 …………でも!


「……っ私じゃない!!」

「存じ上げております」


 ルシエルが即答した。その表情は、確信に満ちている。



 …………いや、まって。なんでそんな自信満々なんだ…………?



 私の疑問が口から零れる前に、屋敷への到着を告げるように、馬車がゆっくりと止まった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ