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世界を滅ぼすラスボス悪魔を召喚しました~破滅寸前の悪役令嬢と最強悪魔の甘くない契約~  作者: 玖珠ゆら


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11.儀式回避


 明るい陽の光が、大聖堂の色とりどりのステンドグラスを通して床に落ちる。重なり合う光が、床を鮮やかに染め上げていた。


 祭壇の前で静かに待っていると、ほどなくして外側から扉が開かれた。

 現れたのは聖女と、シリウスたち攻略対象者だ。ただしルシエルの姿ははなぜかない。


 シリウスたちは、浄化の儀式に立ち合うと宣言していた。

 …………が。

 私の隣に控えていた神官長が、にこやかに告げた。



「お待ちしておりました、殿下。ご報告させていただきます。先ほどベルナール公爵令嬢の浄化の儀式は、滞りなく終了致しました」

「…………何? 私たちを待たずして、どうして勝手なことをした」

「数日前、異常な魔力が感知されて以来、国内で瘴気の濃度が増している件は、既にご存知のことと存じます。聖女エリシア、ならびにシリウス殿下方におかれましては、これよりその調査と現地での祈りに奔走されるご多忙の身。ご負担を少しでも減らせれば、と先んじて進めさせていただいた次第です」

「しかし……」

「儀式はもちろんのこと、検査も問題はございませんでした。ご安心くださいますよう」


 いいぞもっと畳み掛けろ、と神官長へ心の中でエールを送る。



 昨夜、神官長買収は成功した。

 もっとも思い切り足元を見られ、金貨全てを渡してもなお、成功報酬としてあの更に倍額を要求される羽目になったのだけれど。神官長はキャラ設定に違わぬ強欲な金の亡者だった。

 最終的にノクスに脅してもらって交渉は成立したものの、それなりの出費をしたのだから、彼にはしっかり働いてもらわねば。 



 戸惑うシリウスの隣で、聖女が小さく声を震わせた。


「そんな……。悪しき魔力は、今も確かにセラフィーナ様から感じるのに……」

「聖女エリシア。あなたのお言葉を疑うつもりは毛頭ございませんが、公爵家のご令嬢をこれ以上お引き留めするわけにもいきますまい」

「…………そう、ですよね。わかりました」



 グッジョブ、神官長!

 がめつく悪どい男だが、支払った額相応の働きはきちんとするらしい。


 と、安心したのも束の間。

 目を伏せながらも納得したはずの聖女が、「でも」と顔を上げた。 


「もう一人、浄化の儀式を受けていただきたい方がいます」 



 神官長が聞いていない、という顔でこちらを見た。二人目がいるなら別料金だとでも言いたげだ。

 いや、私だって聞いていない。



 聖女が振り返ったことを合図に、扉がゆっくりと開く。

 大聖堂に足を踏み入れたのは、リーネを伴ったルシエルだった。



 困惑したのは、私と神官長だけではない。

 シリウスたちも、ルシエルとリーネの登場に、明らかに面食らっている。


 聖女はそんな私たちに対して語り始めた。


「ゆうべ、この神殿内で強い魔力を感じました。それも、とても邪悪なものです」

 

 ぎくりと肩が震えた。

 さすが聖女。昨夜のノクスのアレを、きっちり感じ取っていたとは。


「神殿内に限ってそんなはずはないと、自分に言い聞かせて再び眠りにつきました。でも……」


 そこで言葉を切って、リーネへと視線を移す。


「朝になって、たまたま見かけたそちらの修道女……。実は神官ルシエルの妹なんですが、彼女からゆうべと全く同じ、邪悪な魔力をはっきりと感じるんです」


 恐るべし…………。

 正解を寸分違わず引き当ててくる。これがヒロイン補正か。



 わずかに後ずさり、周囲に聞こえないように足元の影に向かって囁いた。


「ノクス。リーネが浄化の儀式を受けたら……?」

「無事では済むまい。命が助かるかどうかは……。さて、やってみてのお楽しみといったところだ」


 全然楽しくない返事が返ってきた。最悪だ。



 ノクスが魂に介入したことで、聖女の「奇跡」の結果として生きられなくなった代償──。

 それが今まさに、リーネの身に降りかかっている。



 ルシエルはさぞ怒り狂っているだろうと、恐る恐る窺い見る。

 しかし彼の瞳に怒りの色は垣間見えない。妙に凪いだその瞳に、逆に不安が募る。


 昨夜のこと、絶対に聖女に告げ口して大騒ぎすると思っていたのに……。

 何が、どうなっている?



「ルシエル。妹をこちらへ」 


 聖女の凛とした声が響いた。

 疑いの色など微塵もない。確信に満ちた声。



 リーネは怯える様子もなく、足を踏み出した。その視線は私の足元へ落ち、うっとりとした色さえ帯びている。


 ………………まずい。

 このままでは、リーネの身が危険だ。

 こんなことになってしまったのも、全て私の責任。黙って見ているわけにはいかない。

 後始末まできちんとしてこそ、悪役というもの。

 なるようになれ!



「ちょっとよろしいかしら!?」


 皆が一斉に私に注目した。

 

「さっきから大人しくしていれば……あなた達、私のことを愚弄しすぎではなくて?」


 空気を読まず、場を乱すセリフ。自覚はある。だからこそ胸を張り、堂々と言い放つ。

 

「私はあらぬ疑いをかけられて、領地からこの王都まで、罪人のような扱いで連れて来られたのよ。疑いが晴れたというのに、未だ謝罪のひとつもない。聖女といえど、所詮平民。そんな女の戯言でこの私にここまでの無礼をはたらいたのだから、誠意ある謝罪があってしかるべきでしょう」



 聖女が真っ青になって、慌てて頭を下げた。


「……っ、申し訳ござません……!」

「…………すまなかった」


 シリウスもまた、悔しそうにそう口にする。

 そんな言葉ひとつで、到底許せるはずもないが。



「改めて、我がベルナール公爵家への正式な謝罪をお待ちしておりますわ。…………それから」


 これで終わりじゃないと釘を刺しつつ、視線をリーネに移す。 


「この修道女ですけれど。私と同じく戯言の被害者ですわね、哀れなこと。私が身柄を引き受けましょう。聖女様が言うように悪しき魔力の持ち主なら、神殿には相応しくないでしょう?」



 突拍子もない提案だ。

 誰もが言葉を失った隙に、リーネが勢いよく一歩踏み出した。

 

「ありがとうございます! 身に余る光栄です……! 誠心誠意、セラフィーナ様にお仕え致します。何卒よろしくお願い申し上げます」



 聖女が困ったようにルシエルを窺う。

 大切な妹を大嫌いな悪女に預けるなんて、ルシエルが納得するはずがないと、そう私も思った……のだが。


「どうか妹を、よろしくお願い致します」

 

 ルシエルは穏やかに微笑んでいる。


 

 何かがおかしい……。

 笑顔の兄妹に違和感しかないが、結局誰も何も口を挟むことはなかった。


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