16 バケモノ
「せい! せい! せい! せい!」
屋敷の裏庭で真剣な表情で二本の木刀を振るうレオンハルト様。
それを見守るように腕を組んで立つオイゲンの顔も真剣そのものだ。
「オイゲン、レオンハルト様をどう見る?」
儂、ドミニクは隣に立つ旧知の仲であるオイゲンに声をかけた。若い頃は一緒に冒険者として数々の試練を乗り越えてきた仲だ。その縁でレオンハルト様の剣術指南役に推挙してみた。
本人は勘と呼んでいるが、オイゲンは特に観察眼が優れている。その眼で一度レオンハルト様を見てもらいたかったのだ。
「ドミニク、あれは……」
珍しくオイゲンが言いよどむ。
先日の試合では、オイゲンはレオンハルト様に負けたと聞いている。華を持たせてやったのかとも思ったが、やはり、あの方にはなにかあるのか?
「あれは……本当に人間か? 今ここに立っているだけでも寒気が止まらんほどじゃ。尋常なものではない……。世界は広い。そのことは嫌というほど知っているつもりであったが……。まさか、さらに先があるとはな……」
オイゲンの横顔には僅かながら恐れの感情すら窺えた。
「お主がそこまで言うとは……。それほどか?」
「人の形をしているのが不思議なほどじゃ。それほどの大いなる存在。全盛期の我ら『暁の黎明』が挑んでも負けるだろう」
『暁の黎明』とは、我らが組んでいた冒険者パーティの名前だ。冒険者として栄達した我らは、冒険者としては最上位であるアダマンタイト級の冒険者となった。それこそ国の窮地を救ったこともあるし、ダンジョンを攻略したこともある。そんな我らの全盛期ですら届かぬとオイゲンは言い切った。
「それほどとはな……」
「むしろ儂が訊きたい。あの者は何者じゃ?」
「名はレオンハルト。このクラルヴァイン侯爵家の長男として生まれた。五歳の式典では、レオンハルト様は六つの属性を持っておられた。だが、十歳の式典では、属性は火の一つのみ。それが原因で嫡子から外されたお方じゃよ。儂がレオンハルト様の異質さに気が付いたのは、魔法を使っている時だった」
「魔法?」
オイゲンがチラリと儂を見た。
「そうじゃ。指先に火を灯す魔法じゃった。オイゲン、お主も知っておるだろう?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
オイゲンは不思議そうな顔をしていた。
「レオンハルト様は、寝ている以外の時間、火を灯す魔法を使っておられた」
「それは……!?」
オイゲンの口調に恐れの感情が混じる。
「お主も魔力量の少ない平民だからわかるじゃろ? いくら最初に覚える魔法だからといって、そんなことをすればすぐに魔力が尽きる。最初は貴族だから魔力量が多いのだろうと思った。しかし、レオンハルト様のそれはそんなレベルではない。無尽蔵の魔力と言っていい」
「無尽蔵か……」
オイゲンが黄昏たように空を見上げていった。
オイゲンは魔力量の少なさで苦労していたからな……。
「ちなみにな、ドミニク」
「なんじゃ?」
「レオンハルトだが、あいつ儂と戦う時に身体能力強化の魔法を使っておったぞ?」
「ぶふっ!? げはっ! がはっ!? ほ、本当か!?」
あまりの衝撃にむせてしまったわい。だが、本当に身体能力強化の魔法を使ったのか!?
「あれは火属性魔法を極めた者にしか使えん魔法じゃぞ!? 儂にも使えん!」
「ああ、だから儂も驚いた。なにかあると思っておったが、まさかとな……」
「それでお主が敗れたのか……」
「ああ。そして、今も恐ろしいほどのスピードで双剣術をものにしている。なんとも末恐ろしいものよな」
「たしかに……」
「せい! せい! せい! せい!」
レオンハルト様は、爺二人がそんな会話をしているなど知らぬ様子で真剣に木刀を振っていた……。
◇
「せい! せい! せい! せい!」
オレは一心不乱に木刀で素振りをする。もちろん、狙いを定めて狙い通りに斬れているか、ちゃんと止められているかなど確認しながらだ。
訓練はなんでもそうだが、素振りだって同じ時間をかけて同じ回数振っても効果は人それぞれになるだろう。
その差には、たしかに生まれ持った才能などもあるかもしれない。だが、どれだけ意識しているかによってその才能の差は埋められるのではないかと思えるようになってきた。
すべては最初は意味不明だったオイゲンの練習方法からだ。あのおかげでオレは練習や訓練の持つ意味について考え始めた。日本にいた頃のオレには無かった発想だな。
今なら、日本にいた時のオレが、いかに日々を無為に過ごしてきたかがよくわかる。だって言われたことをただやるだけだったからな。そこにある意味や思想など考えもしなかった。
きっと、それに自然と気が付けるのが天才なんだろう。
この気付きは大事にしよう。
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