エラ=フィールドの悩み
エラは悩んでいた。早朝に起きてきたウェイに語りかける。
「私に何ができるんだろう?」
無力な自分が恨めしい。ウェイのように力があれば……シャルのように車の運転でもできれば……自分もなにか役に立てるのにと。
ウェイは微笑んで、しゃがみこむエラと同じ目線にしゃがみこみ話す。
「あなたは希望ですわ」
エラは顔を上げた。希望? と聞き返す。
「そう、希望ですわ。ワタクシやシャルではなれない事なのですわ」
それはエラでなくてもいい事だったが、たまたま運命はエラを選んだのだと言うウェイ。
そして、それはエラがバックに強く言い寄り、引き寄せた運命だとウェイは言う。
「私ウザかったかな?」
「それくらいしなければ、仲良くなれませんでしたわよ。それにあなたとワタクシ、シャルが仲間に加われたのはとてもいい事ですわ。それらを繋いだのはあなたの行動ですのよ」
ウェイの言葉で少し心が軽くなったエラ。
バックは起きてこない。もう九時を過ぎている。起こしに行こうとするエラをウェイは止めた。
「眠ってる方が都合がいいから?」
エラは意地悪そうに言う。ウェイは苦笑した、その通りだったからだ。
「ゆっくりできる時にさせてあげましょう」
いつの間にかシャルがコーヒーを持ってきていた。
「朝ごはんはバックを待ちますよね?」
「当然!」
「そうですわね。テーブルで待ちましょう」
暫く待ってもバックはやってこない。嫌な予感がしてウェイはバックを起こしに行く。
都合なんて考えてる場合ではない。四人で寝た部屋に入ると、バックはまだスヤスヤと眠っている。脈拍や呼吸に異常は見られない。
安心してウェイは部屋から出た。
「ぐっすり眠ってますわ」
「寝坊した事気にして感情低下させない?」
サッとウェイとシャルの顔が真っ青になる。その可能性を考えていなかった。
シャルと相談してウェイが起こすことに。
「バック、バック起きて」
「ん、んん」
目を覚まし起き上がるバックは、ウェイの顔を見て、おはようと言った。
「ご機嫌はいかがですの?」
「すごくスッキリしてる。夢を見たよ」
「どんな夢ですの?」
「あの日の夢」
「バックが国を呪った日ですの?」
「うん。私はあの夢を見る度に思い出すんだ。この国を救う覚悟をあの日決めたことを」
「救えなかった人もいたんですわよね?」
「だからこそだよ。これ以上犠牲なんて出さない。その為に協力してほしい」
ウェイは目を細めた。バックが協力を求めてきた。きっとバックの心の中で変化があったんだろう。
「ワタクシ全力でフォローしますわ」
バックの両手を握るウェイに頷くバック。
「まずは死蝿を何とかしないと」
「やはり出たんですのね……」
「あの夢を見る時は良くない兆候なの。ここを凌ぎ切れなければあと数日を乗り越えられない」
ウェイを信頼しているバック。これまで以上に試練だろう、それでも乗り越えられると信じている。
「行こう」
エラとシャルにも声をかけて走る。
「北にかけて西から東へ死蝿を潰す!」
バックの言葉に頷く皆。まずは最初の一匹。
「エラとシャルは人を助けて回ってくださいませ」
出現した死蝿はあと二匹、東へと走る。赤信号などのルートはウェイが指示する。
「ここから北東へ五百メートル! ウェイ、何か案はない?」
「裏道を使いますわよ。ワタクシがピッタリ後ろを走りますので誘導してくださいませ」
ウェイの位置はシャルに伝わっている。薬を飲ませ続けるエラとシャル。
死蝿は基本的にあまり遠くに行くことなく、その辺の人々を襲っていく。
二匹目の死蝿を潰した時、ウェイに電話がかかる。
『状況を教えてくれ』
「死蝿はあと一匹ですわ。夢を見てしまったそうですの」
『あの悪夢か……了解した。こちらでサポートする。あと一匹も潰してくれ』
すると信号がバックに都合のいいように青信号になっていく。これで一本道だ。
バックとウェイは走る。そうして最後の死蝿を潰した。
まだやることがある、ここから人々を救うこと。倒れた人々が救急搬送される前に神薬を飲ませていく。
だが救急搬送された人もいた。焦るバックはウェイに助けを求めた。
「大丈夫ですわ、博士が手を打っておりますの」
倒れて脈拍のない人は人工呼吸器や心臓マッサージなどされながら、救急搬送される。
そういうケースはローディア大学病院へと必ず運ぶようにしてもらっている。
バックとウェイがその場の人達を救った後、エラとシャルも追いついた。
「十人程救急搬送されたそうです。向かいましょう」
シャルは車を指さした。そこにはシャルがいつも運転してくれる車があった。
「どうして?」
「AIによる自動運転とルート検索による自動送迎システムです。細かいことは後です、行きましょう」
シャルが運転席に駆け込み、四人はローディア大学病院へと急ぐ。
大学病院では騒然としていた。不審死の数々、何も外傷がないのに、倒れた人達。
死んだように冷たり呼吸しなくなったのは、ここに連れてこられる前のようで、救急隊が駆けつけた時にはこうなってたという。
おかしすぎると医師は死亡を確認して処置をしようとした所だった。
「失礼します」
狐の面を付けた四人がICUの中に入ってくる。
「部外者はここには入ってはいけないよ」
「こういうものです」
政府公認許可証というものを見せるシャル。
「患者の元に案内してください」
「患者と言ったってもう亡くなって……」
「いいから早くしてよ」
エラが急かす。医師は渋々十人の患者の元に連れていった。
中には患者の家族もいて泣いている。そんな中入ってきた四人に警戒する人達。
ウェイは素早い動きで薬を飲ませていく。そして去っていく四人は最後にICUにいた患者に薬を飲ませて去っていった。
「何だったんだ……?」
「先生! 患者が息を吹き返しています!」
「何だと!?」
患者達は起き上がって、生き返っていた。
「何が起きている?」
患者の家族は喜び涙していたが、医師はこの状況に不可解な疑問を抱く。それは政府への疑問へとなっていく。
四人は何とか今日を乗り越えたと、安心しきっていた。人通りも多くなってくる。エレベーターに乗ろうとした時、走ってきた医師に声をかけられた。
「君たちは何なんだ? 教えてくれ。何が起きている」
「政府の重要機密事項しでしてよ。答えられることは何もありませんわ」
「な、ならばこの病気の名前だけでも教えてくれ」
「……」
ウェイもシャルも黙る。
「ムーンカース」
エラが言った言葉に納得した、医師はありがとうと言って去っていく。
エレベーターのボタンを押しながら、ウェイはエラに注意する。
「ちょっと軽率ではありませんの?」
「そうかな? いいネーミングだと思うけど」
「そのままじゃないですか」
ウェイとエラとシャルが語り合う中、バックが問いかける。
「この仮面外していいかな?」
「まだつけていてくださいませ。車に着いたら外してよろしくてよ」
車に乗って仮面を外す四人。あと五日、ここまで来たら何がなんでも乗り越えてみせると思うのだ。




