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バック=バグと三つの顔の月  作者: みちづきシモン
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博士、対策する



 博士と呼ばれる男は紅茶を飲みながら複数のモニターを見ていた。

 その間ずっと何かを打ち込みインカムで指示している。

 バックとエラは変装顔パックをつけて登校しているから大丈夫なはずだ。

 その間にダミーの人間をバックの家の周りに配置して、殺し屋に襲わせ反撃する。

 もちろん他の場所にも配置する、そうする事で分散させることに成功した。

 だがこれはアークの確信を強めた。ある地区を狙い始めた時に強化され始めた事実が物語っていた。


 博士は悩んでいた。このままだとバックはいずれ見つかる。やはり引越しかと思うが、大きく動けば逆効果だ。

 一週間、何とか乗り越えたが、変装顔パックだけではいけないかもしれない。

 そんな時だった。バックから電話がかかってきた。

『博士、ちょっといいかな?』

「なんだ? バック」

『私、高校最後のこの約二ヶ月を旅行で過ごしたい』

 なるほど、と博士は笑った。むしろ動くのに都合のいい理由になる。学校も変えずに済む、変えてもいいのだが、名簿を消すのが面倒だからだ。

「検討しよう。少し待ってくれ」

 博士は学校に休む連絡をいれた。バックとウェイの二人分だ。そしてエラの両親を説得して、エラも休むことになった。

 こうすればエラも常にいられるだろう。残り二ヶ月もないが、デスの月もやってくる、できる限りサポートしなければならない。

 車を運転する女性は何とか受け入れてもらえているから、彼女にサポートさせてバックの心の安寧を保たなければならないと思う博士。


 旅行先でのサポート体制を整えないといけない。相手が殺し屋を雇うように、こちらも殺し屋を雇うわけにはいかない。

 ウェイとその師匠は特別で、政府の犬だからこそ頼れた話だ。

 万が一裏切られたらと思うと恐ろしい。だがそれは有り得ないだろうと予想できる。

 政府より金がある者はいないと考えているウェイの師匠と、この国に恩のあるウェイ。まずこの二人が裏切ることは考えられなかった。

 問題は他の手練を雇うのに、警備に神経質にならなければならない点だ。

 バックは守られる資格はないと考えてしまう性質があるのを本人もわかっている。

 どうしても考え事をして気持ちが低下しすぎてしまった事があるのだ。

 守られなければいけないのをわかっていても、気持ちというのは抑えられないものだ。バックは国を呪ってしまった立場なのだから尚のこと。

 そうやって感情を低下させて、欠蝿や半蝿や死蝿を発生させてしまった経緯のある彼女には、博士も神経を使う。


 とにかく人手不足。死ぬ確率の高い仕事に就く者は少ない。

 ダミーの人間は元犯罪者の女性達で、協力すれば恩赦を受けられるという条件で危険な任務に就かせたのだ。

 まさか殺されるとは思ってなかっただろうが、殺し屋を検挙する囮にもなったので一石二鳥というわけだ。

 そうして積み重ねたものがアーク=ディザスターによって潰されていく。博士は焦っていた。とにかくあと残りの日数が過ぎることを祈った。

 博士は全ての指示を終えて、一旦休憩する。コーヒーを飲みながら、ため息をついた。

 何故こんな事をしなければならないのか、悔やんでも悔やみきれない。

 写真立てにはバックの両親の写真が飾ってある。

 国を呪う事になった経緯、バックの両親の過去、それはとても重大な秘密だった。



 博士とバックの両親は親友だった。博士が政府の重鎮になったのは月呪法が発動してからの話だ。博士とバックの両親は同じ大学からの友で、よく呑みに行った程だった。

 程なくして結婚して子供を産んだバックの母親は、政府の推進するワクチンを幼い男の子に打たせ亡くした。

 その時母親のお腹にいたのがバックだった。母親はバックを産んだ後、全てのワクチンに反対運動を起こした。

 父親も賛同して政府に異を唱えて、そして月神会に出会ったのだ。

 博士は反対した。バックの兄である男の子を失った気持ちはわかるが、根も葉もない噂を信じてはいけないと。

 だがバックの両親は聞き入れなかった。次第に過激になるバックの両親は、成長したバックに国を救う英雄になれると吹き込み月呪法を信者の前で試させた。


 それは古い文献に残っていた呪いの方法。悪魔召喚の儀式のようなもの。三つの呪いの顔を月に召喚する儀式。

 信者は成功するとは思っていなかった。何度も失敗した儀式だからだ。だがバックが成功させてしまった。

 そしてデスの月が大きくなって幻影で近づいてきた時、信者たちは歓喜の声を上げ、国を呪って死んでいった。

 その時反対運動のために突入した博士が、神に祈った選ばれし少女バック=バグを保護したのだった。

 何故こんな事になってしまったのか、人の呪いというのはとても怖いものだと感じた博士。

 友を救えなかった、友を止められなかった、友の子に国を呪わせてしまった。そしてもう運命は止められない。

 バックの運命は決まっている。彼女を守り抜かねばならない。

 例え何を犠牲にしようとも、バックを守り抜いて国を救う。国の重鎮になったからではない、友の残した災厄を取り除くのが、博士自身の使命だと感じているのだ。



 博士はコーヒーを(すす)りながら、自分の過ごしたあの頃の時間を想う。

 バックの両親は素敵な人間だった。子が死んでしまった不幸で変わってしまった。

 死、そのものが呪いであることを痛感せざるを得なかった。

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