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女王様の恋愛捜査網

女王様の恋愛捜査網2~愛と言う名の亡霊~

作者: 百鬼清風

王様は外遊ばかりで、女王様のイデアを放りっぱなし。

退屈な女王様は、今日も生意気ざかりの3人の王女達と社交界のスキャンダルを楽しそうに話す。


「そうよ、社交界の令嬢達のスキャンダルを解決して差し上げましょう」


女王様は、3人の王女達と最高の暇つぶしを考え出した。


そこで、幼馴染で国の諜報機関で働く伯爵家の3男坊をリーダーに、令嬢達のスキャンダルを調査し、解決する捜査網を作る事にした。

昔、女王様に告白してフラれた伯爵家の3男坊クレストは、それをネタにされて断れない。


彼は仕方なく、女王様の恋愛捜査網を立ち上げるのだった。


元軍人で、ワイルド系超イケメンのダルビッシュ。

子持ちの公爵夫人だが裏の顔は女スパイである20代の美しい娘ミレディ。

インテリで眼鏡っ子の女性記者ライア。


4人は、時には身分を偽り、社交界で令嬢達の恋愛トラブルを解決していく。

復縁、別れさせ、離婚問題解決、何でもござれ。


その話を女王様と、3人の王女達は今日も楽しみに待っている。

 朝の光が、宮廷の白い天蓋を淡く照らしていた。書斎の奥に据えられた紫の長椅子には、女王イデアが優雅に身を預けている。隣には、紅茶を湯気の立ったまま手にしたカトリーヌ。ソフィアとエリザは、互いの髪型について意見を戦わせながらも、耳はクレストの報告に集中していた。


「…というわけで、アルボン子爵家の令嬢が、レストラン『ノスタルジア』で密会していた相手は、婚約者の兄ではなく、演奏家の青年でした」


 クレストの語り口は淡々としていたが、その裏にある事実は、社交界の上澄みにうごめく泡のような繊細な騒ぎを予感させた。


「まあ!アルボン家といえば、昨年、ギルベール男爵のスキャンダルで名を上げたお家でしょう?続くわねえ…」と、イデアは楽しげに微笑み、カップを唇に運んだ。


「その青年の名前は?」と、カトリーヌが尋ねる。


「リシャール・ヴェルネ。パリ音楽院出身のヴァイオリニスト。彼女の音楽教師でもあります」


 エリザが唇に指を当てた。「つまり、恋に落ちたのね。芸術家と令嬢……なかなかロマンチックじゃない」


 ソフィアが鼻を鳴らした。「ロマンチックっていうより、火遊びでしょ。婚約者が軍人だって噂、知らないの?」


「それもまた、面白い火花を散らしそうです」とクレストは軽く頭を下げた。「ただ、本題はその先にあります」


 女王が少し姿勢を正した。報告が佳境に入る合図だ。


「その密会中、令嬢の鞄から小さな機械が見つかりました。録音装置です。会話を記録していた形跡があります」


 室内の空気が一瞬静まり返る。


「録音?」とソフィア。


「誰のために?」とエリザ。


「それが、問題です。彼女自身が記録をしていたのではないか、それとも、何者かに装置を忍ばされたのか。現在、ダルビッシュが装置の解析を、ミレディがその青年の素行調査を行っております」


「ふむ……つまり、純粋な恋愛沙汰ではない可能性があるというわけね」と女王は頷いた。「それなら、引き続き調べてちょうだい。私はここで、お茶と推理の続きを楽しむわ」


「畏まりました、陛下」


 クレストは深く一礼し、報告を終えた。


 風が軽く吹き抜ける屋敷街の一角、カフェのテラス席にミレディは座っていた。艶のある金髪を緩やかにまとめ、膝に置いた書類を流し見る。その正面には、柔らかい笑みを浮かべたリシャールが紅茶を啜っていた。


「つまり、あなたはただの音楽教師として彼女に雇われただけで、それ以上の関係はないと?」


「まあ、そう言われてしまえば、そうかもしれませんね。ですが、彼女が私に惹かれているのは事実だと思います。私のほうは……」リシャールは芝居がかった仕草で肩をすくめた。「芸術に身を捧げていますから」


「彼女の鞄にあった録音装置について、心当たりは?」


 その問いに、リシャールは一瞬だけ笑みを消した。


「録音装置? ……それは初耳です。けれど、もし彼女がそんなものを使っていたとすれば、それは私にではなく、誰か別の意図があったのでしょうね」


「たとえば?」


「たとえば、家族から監視されていたとか……。アルボン家の父親は厳格で有名ですからね」


 ミレディは微笑んだまま、彼の指の動きを観察していた。コップの縁を指先でなぞる癖があるようだ――緊張しているときに人は無意識に繰り返す。


「ありがとう、リシャール。とても参考になったわ」


 ミレディは立ち上がり、風に揺れるスカートを押さえてカフェを後にした。



 同じ頃、宮廷の奥まった書庫では、ダルビッシュが机に向かって録音装置を解体していた。繊細な指使いで、内部の回路を顕微鏡で確認しながら、何度も端末を接続する。


「…来たか」


 低く呟いた声に反応するように、スクリーンが開き、音声ファイルが再生された。


『…だから、私は、あの人を信じていいのか分からないの。兄さまは……あの人に何かを託したみたいだけど…』


 微かに震える令嬢の声。


『君は、僕の演奏をどう思った? 心からの、君のためだけの音だった。信じて』


『でも、でもね……これを渡さなきゃいけないの。そう言われたのよ。渡さないと……“計画”が壊れるって』


 そこで音声は途切れた。


 ダルビッシュはゆっくりと椅子に背を預けた。手元のメモには、たった一言だけが殴り書きされていた。


 計画?


 社交界の水面下で、何かがうごめいている。


 単なる恋の火遊びではない。これは、陰謀の予兆だ。



 月が白金の光を地上にこぼしていた夜、宮廷では舞踏会の準備が静かに進んでいた。しかしその喧騒の裏側で、クレストは人知れず、情報の糸を紡いでいた。


「“計画”という言葉は、令嬢の意思ではない。誰かが彼女を使って動いている」


 書類を読みながらクレストが呟く。彼の前には、ミレディが手に入れたリシャールの交友関係をまとめた地図と、ダルビッシュが解析した録音装置の製造記録が並べられていた。


「製造元は、ルアンの工作師“ジル・ヴォルク”。諜報部の名簿にも記載あり。元は北部の傭兵組織に所属、今は裏社会で記録機器を作って糊口をしのいでる」


 ダルビッシュが冷ややかな声で説明する。


「彼を探るのが先か、それともアルボン家の“兄さま”とやらを追うのが先か」


 クレストが思案する横で、ライアがぽつりと呟いた。


「リシャールは、嘘をついていたわ。彼、演奏会の予定があるって言ってたけど、あの晩は公演なんて入ってなかった」


「確認した?」


「演奏家仲間から直接。あと、彼の練習スタジオには鍵が二つある。彼のものと、誰か別の人物のもの。片方には、アルボン家の紋章があった」


「つまり、アルボン家は、少なくともリシャールの活動を“知っている”」


 クレストはゆっくりと立ち上がった。


「ならば、“計画”の全貌を探るためには、仮面の裏に隠れた顔を暴く必要がある。……仮面舞踏会だ」


「舞踏会?」


 ライアが眉をひそめた。


「明晩、宮廷で開催される舞踏会。そこに、アルボン令嬢とリシャールの姿があると確認した。しかも、令嬢の兄、ギヨーム・アルボン中尉が帰国しているという話が、極秘で届いている」


「軍人として表に出るわけにはいかない。仮面の下に本音を隠し、取引を交わす……最適の場ね」


 ミレディが小さく頷いた。



 翌晩、舞踏会の会場は、黄金のシャンデリアと音楽に彩られていた。仮面をつけた貴族たちが優雅に舞うなか、クレストたちはそれぞれ別々の仮面と衣装に身を包み、散り散りに潜入していた。


 クレストは、壁際の影に身を潜めながら、ダルビッシュの通信を耳に受けた。


『リシャール、確認。仮面は黒の羽根付き、右手に白手袋。今、アルボン令嬢と談笑中』


『兄は?』


『現れた。仮面は青、軍の勲章をわざと見せてる。周囲は気づいてないようだが、我々には十分な手がかり』


 クレストは杯を傾けるふりをして、視線だけを宙に流した。赤いドレスの令嬢は笑顔を保ちながらも、指先が震えている。リシャールは相変わらずの芝居がかった態度で、彼女の耳元に何かを囁いていた。


『令嬢のバッグをスキャンした。録音装置は持っていない。だが、細工された手紙がある。封に、乾いた血の成分が混ざっている。脅迫状の可能性』


『脅迫…?』


 ライアの声が、かすかに揺れる。


 そのとき、仮面の軍人が動いた。リシャールの背後に立ち、静かに肩を叩いたのだ。


「…話がある」


 低く抑えた声だったが、周囲のざわめきの中でも、クレストにははっきりと聞こえた。


 リシャールはわずかに顔を強ばらせたが、すぐにいつもの笑みを浮かべて応じた。


「兄上。久しいですね」


「貴様に兄と呼ばれる筋合いはない。裏切り者が」


 その言葉に、令嬢の表情が凍りついた。


 仮面の裏で、何が動いているのか。



 舞踏会の終盤、クレストたちは別室で小さな作戦会議を開いた。


「アルボン中尉は、リシャールを『裏切り者』と呼んだ。それは何かの組織か、軍の機密に関係してる可能性がある」


「中尉は軍の新型通信技術に関わっている。諜報部の資料によれば、そのプロトタイプが紛失していたの、三ヶ月前。恐らく、それが“計画”の鍵だ」


 ミレディが書類をめくりながら、落ち着いた口調で言った。


「リシャールが持っていた録音装置、それ自体が軍の試作機を模倣していた。となれば、彼は技術を横流ししている」


「だが、なぜアルボン令嬢を巻き込む?」


 ライアの問いに、クレストは言葉を選びながら答えた。


「彼女の婚約者、ロアン軍の補給部隊に所属していたはずだ。情報の運び役としてなら、疑われにくい。だが…彼は既に国外に姿を消している。消息不明だ」


 室内の空気が冷え込んだ。


 やがて、クレストが静かに言った。


「リシャールを泳がせよう。奴の背後にいる“買い手”を炙り出す」


「泳がせる?」


 とライア。


「奴は明日、ある場所へ向かう。その情報を、あえて流した。奴が誰と会うか、誰に情報を渡すか――すべてを見届ける」


 そして、彼は言葉を継いだ。


「“恋”という仮面の裏に潜むものが何か、それを暴くのが、我々の仕事だ」



 リシャールが向かう先は、王都北端の廃教会だった。


 昼間は鳥の声すら届かぬ静寂の中に沈み、夜になれば無人の街路灯がかすかに足元を照らすだけ。だが、この場所は今や、情報と金の取引が交差する地下の交差点だった。


「外部の監視網は切った。周囲の窓に配置したスナイパーも待機中。内部にはリシャールと、その“買い手”だけだ」


 ダルビッシュが小型通信端末で報告を送る。


「音声は?」


「捕捉済み。今、会話が始まった」


 クレストは小さく頷き、教会外壁に設けた隠し窓から双眼鏡を覗いた。祭壇の脇に立つリシャールの姿。その前に、ゆっくりと歩み寄るフードの人物が一人。


「顔を見せろ。…もう隠す段階じゃない」


 リシャールの声には、どこか焦燥が混じっていた。


 フードの男は黙ってそれを外す。現れたのは、意外な顔だった。


「…ローラン・ド・マラン公爵」


 ライアの声が、通信越しに震える。


「宮廷財務庁の元官僚、現マラン領の領主。戦後、財政改革の旗振り役として貴族社会でも名を上げた人物よ……なぜ彼が?」


「むしろ、“なぜ彼でないと思った?”と言うべきか」


 クレストは低く言った。


「彼は戦時中、物資輸送の経路を牛耳っていた。情報の“価値”を知っている男だ。今度は技術情報で同じことをしようとしている」


 内部では、既に取引が進んでいた。


「これが例の装置だ。音声だけでなく、魔力反応も解析できる。しかも録音と同時に“幻像”も生成する。感情の波を記録できるのは、今の王国でも軍だけだ」


 リシャールが差し出したのは、細工の施された懐中時計型の機器だった。表面には小さな刻印が浮かび、確かに軍の実験機と同じ意匠が見て取れた。


「そして、こちらが対価だ。国境を越える通行証と、王立銀行の無記名口座。逃亡先と資金は約束通り用意した」


 マラン公爵が革の鞄を差し出す。その瞬間だった。


 ―パン、という乾いた音。


 何かが破裂した。


「毒ガスだ、遮断せよ!」


 ダルビッシュが叫ぶと同時に、ミレディがボタンを押した。教会内部に設置された換気装置が作動し、有毒な煙を瞬時に吸い上げる。


「誰かが“外部”から装置を起動させた。二人とも殺されるところだった」


「つまり、買い手はマラン公爵だけではなかった……」


 クレストが歯を食いしばる。


 リシャールとマラン公爵はなんとか無事だったが、毒の出所が不明なままでは動けない。クレストたちは教会内部へ突入し、二人を拘束した。


「逃げるつもりはなかった」とマラン公爵。


「奴らは、口を閉じるよう命じた……“新しい秩序”のために」


「秩序だと?」


 クレストの目が細くなる。


「我らは、戦火で疲弊したこの王国を、“情報の力”で変えようとしていた。知る者こそが支配し、知恵こそが剣を超える。だが、そのためには、口の軽い道化師――」


「つまりリシャールのことか」


「…ああ。だが奴は、最後まで“恋”を使って自分を正当化しようとした」


 クレストは無言で背を向けた。


「ミレディ、ライア。通行証と口座記録を回収しろ。ダルビッシュ、マランを王都に送れ。リシャールは…拘留しておけ。まだ話してもらうことがある」


「了解」


 淡々と命令が交わされ、静かに現場の熱が引いていく。


 数日後。


 クレストは、捜査報告書を手に宮廷へ向かった。王女たちは集まっており、女王イデアはいつものように、金の小椅子に優雅に腰を掛けている。


「ふふ。で、今度は誰の“恋”が破綻したの?」


 軽やかな声に、クレストは静かに頭を下げた。


「音楽家リシャール・モンテーニュ。実は軍の試作機密を外部に流しておりました。買い手は、元財務官僚・マラン公爵。背後には、王国内部の情報支配を目論む陰謀の網がありました」


「まぁ…また少しは退屈しのぎになる話ね」


 イデアはくすりと笑い、ソフィアが小声で呟く。


「リシャールって、あの演奏会でピアノ弾いてた人?嘘、あんなに繊細そうなのに……」


「繊細だからこそ、見抜けなかったのよ。女の勘も時には鈍るの。ねぇ、エリザ」


 カトリーヌの皮肉に、エリザは苦笑いを浮かべる。


 クレストは彼女たちのやり取りに口を挟まず、静かに頭を下げた。


「以上が、今回の“恋愛事件”の全容です」


 イデアは一冊の本を手に取り、ぱらりとめくった。


「…さて、では次はどんな愛のスキャンダルが来るかしら」


 その声を背に、クレストは部屋を後にした。


 情報の裏に恋があり、恋の裏に策略がある。


 それが、この王国の“愛”の形なのかもしれない。



 リシャールの拘留室は、旧王立騎士団が使用していた地下の石室だった。


 壁は苔むし、灯りは薄暗く、鎖の擦れる音が不規則に響く。だが、囚われた男の表情に、怯えも後悔もなかった。


「愛を信じていたんだよ、最後まで」


 ぽつりと、リシャールが呟く。


「セシリアに君が言った言葉を思い出した。“真実は裏切っても、恋だけは信じたい”ってね。あれは名言だったよ、クレスト」


「皮肉にしては出来すぎている」


 クレストは腕を組んで壁際に立ち、低く言った。


「君が密かに国外へ送ろうとしていた情報。あれは、単なる技術資料じゃなかった。王国の貴族ネットワーク、その通話と通信、すべての記録を追える“指輪の幻影”の応用実験データだ」


「そうだ」


 リシャールは頷く。


「それを持てば、恋人たちの本音も、密会の時間も、貴族たちの策略も、すべて掌握できる。愛を、真実に変えられる」


 クレストは無言だった。


 この男は、恋に裏切られたのではない。恋に救われたかったのだ。


「私が憎んだのは、嘘だ。……誰かを“愛しているふりをする”あの冷たい目だ。だから、その嘘を見抜く手段が欲しかった。愛の真偽を確かめられる道具があれば、誰も裏切られない」


「だが、それは人を幸せにするのか?」


 クレストの問いに、リシャールは首を横に振る。


「さあね。…でも、私は救われた気がした。愛は幻想でも、手のひらに残る温もりだけは嘘じゃなかったから」


 クレストは黙ってその場を離れた。背中に残ったのは、誰にも理解されぬ恋の亡霊のような言葉だった。



 その夜、王立宮廷では舞踏会が開かれていた。


 名目は女王イデアの戴冠記念日。しかし、実際は最近話題のスキャンダルを肴にした、半ば噂話の見本市のようなものだった。


「で、あのピアニストはどうなったの?」


 ソフィアがグラスを傾けながら尋ねる。


「監視下に置かれたままね。軍が技術の出所を封じるため、長くは外に出さないでしょう」


 エリザが答え、横でカトリーヌが笑う。


「音楽家の恋は詩になるけれど、国家に恋する人間は…詩にならないわね。たいてい、投獄か死よ」


 イデアは薄く笑いながら、ひとつ報告書を閉じた。


「面白かったわ。悲恋、陰謀、裏切り、そして…一滴の純情。なかなか上出来」


 「スキャンダル一覧」なる文書には、マラン公爵の謹慎、リシャールの拘束、そして“記録装置”の封印が淡々と記されていた。


「ねぇクレスト、あなたの部下たち――あのダルビッシュとか、ミレディとか、ライアとか。彼らって、恋をしないのかしら?」


 イデアの唐突な問いに、クレストは一瞬考える素振りを見せてから、答えた。


「…恋をしても、記録には残しません。感情は、職務の中で扱うには、あまりに繊細ですから」


 女王はくすくすと笑い、ワインを掲げた。


「だったら、この国はまだしばらく平和ね。恋がある限り、スキャンダルも尽きない。退屈しのぎには困らないわ」


「私たちが事件を起こさないよう、祈っていてください」


 クレストが皮肉交じりにそう言うと、カトリーヌが冗談めかして返した。


「ええ、気をつけるわ。でも、恋っていつだって――予告なしに始まるのよ」


 その瞬間、遠くの窓辺で小さな爆音が聞こえた。


 花火だった。


 祝賀の色とりどりの火花が、王都の夜空に広がっていく。


 クレストはその光を静かに見上げた。愛と情報が絡み合うこの国で、自分たちの仕事は終わらないだろう。


 ――次の恋が始まるその日まで。

前作もよろしく。

女王様も恋愛捜査網

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