悪党の王子様
「ここがお前の檻だ。どうだ狭いだろう」
「ピ、ピー……」
本気で言っているのかイザヤ王子……。
私は目の前に広がる、手乗りドラゴンの私のために用意された「粗末な檻」とやらを見て震えた。前世の私の素敵なマイホームより確実に広い一室。そもそも部屋を檻とはなんぞや。
やわらかそうなカーテンはよじ登りがいがありそうだし、床にしても私がとことこ歩いたり、高いところから落下しても脚を傷めないだろうと安心できるような布が敷き詰められている。そして寝床らしい場所は人間が横になったって十分な大きさの……天蓋付きのベッドだ!!
「ピィ~!!」
わぁい、おひめさま~~~~!
私はイザヤ王子の肩からするすると降りると、上機嫌でベッドにダイブした。
「ピッピ!」
そしてポンポン、と!跳ねる事跳ねる事!なにこれ楽しい!
「ピィイイ~~~!!」
「……ふん」
わぁ、すてき!イヤザ王子も跳ねる!?いいよこれ、すっごくいいよ!
私が嬉々としてイザヤ王子の方に鳴くと、王子は顔を顰めた。
そうか……お年頃の男の子はこういう遊びは卒業したと思いたいものだろうな。イヤザ王子の代わりに私が全力で楽しむとしよう。
「お前のエサだが」
「ピ?(ごはん?)」
「生肉でいいな」
「ピ、ピィイ!!!!?」
しょ、食中毒になる!!
当然のように言われるが、私は抗議したい。しかしすでに私の素敵な檻とやらを、私を肩に載せてお城に戻ってくるまでに準備させていたお仕事のできる使用人のいる王宮。何気ない素振りでイザヤ王子が言うと、待っていましたとばかりに奥から銀のカートを押したコック服のおじさんやメイドさんたちがぞろぞろとやってきて、はい、私の前に出されます。綺麗に盛り付けされた生肉。
わぁ、薔薇の花みたい。
でも生肉。
嫌!!
「うん?ハシャがないな。空腹じゃないのか?それともトカゲは他に何を……虫か?」
王子の目くばせに、もちろんご用意してありますとも、とばかりにコックさんが一人引っ込んで、何を持ってくる気!!?虫!!?嫌ぁっ!!!!!!
「ピ、ピイィイ!!ピッピィイ!!!」
「?なんだ?どうした?虫でも肉でもないとすると……死肉の類か?だが下賤な物の肉を王族である僕のペットに食べさせるわけにも……」
ちらり、と王子が何の気もなしに視線を動かすと、サッと、使用人さんたちが皆顔を伏せる。
食べないよ!!!!!!!!
「あ、あの……イザヤ王子殿下……」
「うん?なんだ、騎士アロス」
いたのか、と言外にイザヤ王子は目を細めた。
狩場で別れた竜の騎士のひとだ。大きいあの竜は一緒ではない。まぁ、入れないからね。手乗りドラゴンの私のようなプリティサイズじゃないと迷惑だからね。
「我が竜が申しますには……そちらの方は果物や菓子を好まれるのではないか、と」
「……なぜお前の竜が僕のトカゲの趣味趣向を知っている?もしや………」
はっ!?
何か気付きそうなイザヤ王子!!
そう!
トカゲじゃないんです!もしや、ドラゴン、なのですよ!!
私が期待に満ちた目でキラキラとイザヤ王子を見上げると、イザヤ王子は賢そうな目を一度ゆっくりと伏せてから、全て理解したように頷かれた。
「竜の劣化した種がトカゲというわけか。上位種である竜ならば下等種の意思もわかるのやもしれないな。さすがは我が国の竜だ」
「ピ、ピィイイ~~~~~~~~!!!?」
はぁあああ~~~~~!??
格下違うし!!!!!!!!!!!!
あっちの竜の方が私より格下なんですけども!!!!!!!
遺憾の意を示すべく、私はぷんすかと、ぐるぐるイザヤ王子の足元を走り周る。
「そうか。果実や菓子か。わかってよかったな?」
しかしイザヤ王子は私がそれを喜んでいると思ったらしい。
「ピ!?」
今!?
一瞬!!!?
笑った!!!!!!!!????????
嫌味っぽいとか呆れるとか小馬鹿にするとかそういう笑い方ではない。
ふわっと、優しい空気で温かくなるような笑い。けれどそれは一瞬で、それに見たのは私だけで、王子はすぐに元の陰湿な表情に戻ってしまった。
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