猫は猫なので愛らしい
私はイザヤ王子が一人になるタイミングを見計らい、可愛い野良の手乗りドラゴンですよ、という人畜無害な顔で姿を現した。
「……」
「ビッ……」
ぎろり、と、沼の底のような濁った眼で睨まれる。
どこをどう見ても可愛い銀色の手乗りドラゴンの私を!?外道!!?善人じゃなかったのか!!?
いや、ジャッジはまだ早い。あれか。やはり男児たるもの、巨大なレインボードラゴンとかの方がテンションを上げてくれるのだろうか。最強の竜種なのでレインボードラゴンに変身できなくもないのだが嫌だ。
トコトコと地面の上を歩いてイザヤ王子の前に進み出る。完璧に可愛い姿だ。血濡れの剣を手に持つ物語の悪役でもついにっこりして「なんて可愛い手乗りドラゴンなんだ。下僕にしてください」と頭を垂れるに違いないのに、微動だにしない。なぜ??
おかしいな。
「キュ?キュゥウ~~??」
愛らしく小首を傾げて見上げてみるのだが、もしかして犬派?
それだと致命的だ。
私の計画では、この見事な悪役に養育してもらうことで開始されるのだが……まさか犬派とは。
ラスボスたるイザヤ王子は物語の中で主人公より強かった。しかし主人公に王の剣があり、使いこなせるようになることで武力は逆転する。
つまり、王の剣を持ってない主人公から私を守れるのはイザヤ王子だ!!
なのでここで手乗りドラゴンにメロメロになって貰わないと困る。
私は前世の猫たちを、そして彼らを喜んで養育する下僕どもを思い出した。御猫様と崇め、ヒトは猫のために労働する。素晴らしい。あの文明の発達した現代日本でも約束された勝利の三食昼寝付き生活。この特権階級がモノを言わす中世ファンタジー世界だったらどれほど豪遊できるだろう。
しかし犬派か…………。
苦戦するかもしれないが、生き残るためだ。強敵とも戦う覚悟が私にはあった。
「カァアアカァカァ!!」
「ビッ!!!???????」
次なる媚を売ろうともくろんでいると、死肉目的に集まっていた鴉っぽい野鳥が数羽、私めがけて襲って来た。
最強の竜種なのに!???!!!
か弱い手乗りドラゴンの演技が上手すぎた!!
北島〇ヤも恐れるほどの自分の演技力に震えつつ、私は必死に体を動かして鴉たちから逃げようとするが、多勢に無勢……。
手乗りドラゴンの姿の防御力は弱く、突かれてあちこち……痛い!!?痛いんだが!!!!!!
くっ……ここで元の姿に戻って灰燼にしてやろうか……!焼き鳥にしてやろうか!!
しかし私は賢いドラゴンなのだ。
ぐっと自分の怒りを堪える。ここで本来の姿に戻ってドラゴンブレスでも吐こうものなら、間違いなくイザヤ王子が巻き込まれる。ラスボスでもまだ14、5の少年。物語の最強設定の竜の攻撃を防ぐことはできないだろう。
「ピィピィ、ピィイ~~!!(お前ら絶対に許さないからなッ!!面は覚えたからなッ!!!!!!!)」
啄まれながら私は鴉どもに復讐を誓う。しかし鴉たちはせせら笑うように私を嬲る。あれか!?死肉でお腹いっぱいにはなってるけど、どんくさそうな小動物がいるから……食後の運動か!!
なんて健康志向の賢い鴉たちなんだ……。王家の狩場にいるだけのことはある。
私が感心していると、鴉たちの断末魔の悲鳴が上がった。
「ピ?」
おや、と思っていると、私の尻尾が掴まれ宙づりにされた。
「………………………………なんだこのトカゲは」
イザヤ王子と同じ目の高さになる。まぁ私は逆さまだが。
トカゲじゃないよドラゴンだよ!養育して!