猫のようになりたい
安心できない。
無理だ。
何せ敵は主人公と女神様だ。
私は脳裏に……私の妨害をこれ幸いと、女神が「貴方を救いにきました♡」と神聖な雰囲気を出して、駄女神というキャラ付けをして主人公の正ヒロイン面をして付きまとうクソの顔が容易く浮かべられた。あのクソはやる。絶対にやる。腕を組んでのりのりで、純朴な主人公にまとわりつくだろう。そして女神に誘導された主人公は私を殺しに来る。
「……ピィ…………」
今がいつだか知らないが、もし主人公がまだ子どもなら……今のうちに殺っとくか??
RPGでも定番だ。勇者の血を引くものをとりあえず皆殺しにしておく。魔王ならやる。自分を殺害できる要素はサクっと殺しておくに限る。人間が予防接種をしておくような感覚になっているが、竜になってしまったので人間の倫理観が薄れて行っているのだろう。仕方ない。竜だからな。
「………………」
しかし、もしうっかり取り逃がしてしまったらどうだ……。
そもそも私は勇者のツラを知らない。書籍化はしているものの古きよきファンタジー小説にあるような、挿絵のない本だった。描写はあったが、そっくりさん……たとえば幼馴染が主人公そっくりに変身して身代わりになんぞなられていたらどうだ。殺害できたのは幼馴染で主人公が生きている……。
……火に油だ。
主人公の私への殺意と殺害動機を明白にしてしまう。
では逃げるのはどうだろう。
しかしどこに??
女神様だ。あのクソは女神様なのだ。どこへ逃げても、主人公のレベルアップのために私を殺りに追いかけてくるに違いない…………。
私は必死に考えた。考えて考えて、必死に物語を思い出す。私がちゃんと役割を果たすようにとでも設定したのか、頭の中に物語の内容がはっきりと思い出せる。そしてそのうちの一つ……。
「ピィイイ(血まみれ王子ー!!)」
いた!!
私の救世主!
作中の魔王、ラスボス、人外魔境!!生きとし生ける者の天敵!!万殺狂乱王子!!
生まれた時に魔力の暴走で母親を焼き殺し!!
自分を殺そうとした兄(成人済み)を三つの頃に返り討ちにし!!
父王を麻薬漬けにして裏から国を操る作中きっての外道鬼畜悪魔!!
私を救えるのは彼しかいない!!
私は生きる希望を見つけ、ばっと翼を青い空に広げるとグッバイ霊峰、ドラゴンズピーク!と、故郷を後にした。
*
よく考えて見ろよ。
殺戮王子に救いなんて求めるんじゃない。
「……ピ、ピィイ…………」
なんてこった、と、私は小さくなった体で茂みの中に隠れつつ、目の前の光景を窺った。
場面は変わって、舞台は移動し、とある王国の王家の狩場。自然豊かなその場所には自然保護の観点からか、&王家の狩り遊びのためにかある程度の力を抑えられた魔物や動物たちが暮らしている。
そこに放たれる罪人。
そしてそれを狩っていく、王子様。
物語の悪役イザヤ殿下だ。
黒いべっどりとした髪に、目の下に濃いクマが出来ている。顔色は青白く、とても痩せていた。
物語では女神の主人公クンとやらは王の剣を抜き、王位継承権を手に入れる。血塗れ王子、呪われた王子であるイザヤにとって鬱陶しい存在だ。しかしイザヤは悪役で、主人公は「正義」の側。主人公の正しい行いは人々の心に「正しい王国の姿」を描かせ、支持を得ていく。
イザヤ王子は孤立し、そして王国を真っ二つにした内戦、黒い薔薇を抱くイザヤ派と、正義の白薔薇を抱く主人公派で争い、ダートルゲンという地で激突し、味方に裏切られ包囲され、イザヤ王子は戦死する。その死はみっともなく見苦しく描かれ、家臣を見捨て自分だけ逃げようとするイザヤを主人公は捕らえ、王位継承権を捨てて頂ければ命は助けますと提案される。しかしイザヤは主人公を薄汚い下民と罵り、主人公を守る騎士たちの怒りを買って殴り殺された。
そういうThe悪役だ。
そういう悪役王子様なので、普通に行っていらっしゃる日常がもう「悪役らしい」日常生活だ。
森に囚人を放って人間狩りをなさるなんて中々高尚な趣味である。
「……ピー……」
いや、しかし、よく考えて見よう。
これ、何か問題かな?
囚人だよ?
悪人だよ?人権がなく法の裁きを待つだけの存在だよ??中世なんだから司法なんて機能していてしてないようなものだよ??
国家運営をしている王族の方が人間狩りに有効利用としたのなら、いいんじゃない?
「ピ」
ジャッジメントしてみて、私は「無罪」と判決を下した。
罪のないか弱い動物を狩り遊びの対象にするより、人間の方がいいんじゃない?そうだね。
イザヤ王子様は動物を殺さない善人判定だ。
竜を殺す主人公の方が私にとっては悪人である。
よし。