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Astral Effect  作者: 月野灰
Prologue
2/2

新人-1

「そう言えばテスー、今日来る新人さんの話、聞いたー?」


 作戦前の最終装備点検の時間、ミランダも自分の点検をしながら聞いてきた。


「ええ。今回ワタシたちの部隊に配属されるのはヒトだそうよ」

「えーやったぁ! 私、ヒトのオリジンは初めてです」


 アイーシャはゴーグル型の端末を拭いている。そんなことをしても視え方は変わらないらしいのに、気分の問題なんだと以前から言い続けていた。


「あたしは、エルダーじゃなければ誰でも良いかなー。それにしても、今回も補充、あっという間だったねぇ」


 ミランダの言う通り、ヴァルキリー部隊の指揮官は定期的に補充がなされる。それはつまり、それだけ定期的にオリジン(指揮官クラス)が死んでいる、ということに他ならない。


「今度のは、どれくらい()()かなぁ?」

「さあ……」


 ドラウグルとの戦闘は、それだけ激しく、そして厳しいものだ。()()()()ヴァルキリー(ワタシたち)でない限り、一度の戦闘、そう、たった一度の戦闘でさえ、生き残る確率は非常に、非情に、低い。そんなヴァルキリーでさえ、作戦ごとにボディの乗り換えまたは整備が不可欠なことが殆どだ。


「まあ、誰が来ても、ワタシたちのやることは変わらないわ」

「そうだねー。今日も一生懸命、狩るとしますかっ!」


 そうだ、誰が来ようと、やることは変わらない。ドラウグルを駆逐し、世界を取り戻すまで、戦い続けるだけだ。

 やがて近づいてきた輸送機の音に目をやる。

 アレに、ワタシたちの新しいオリジン(指揮官)が乗っている。

 

 ◆◇◆



 ―――その昔、種族間で大きな争いがあった。幾度も幾度も、それは繰り返され、やがて世界は滅びの一歩手前まで行ったそうだ。しかし、今では名も忘れられた英雄たちの働きで争いは治まり、平和な世の中が訪れた。平和になった世界は各種族の技術交流も深まり、発展目覚ましく瞬く間に世界は形を変えていった。

 そのまま、栄華の時を過ごすかに思われた世界は、何処からともなく現れた、新たな共通の敵によって、再び戦乱の世に落とされ―――。


『その共通の敵は今日、ドラウグルと呼称されている。奴らとの戦いの歴史は長く、幾世代も続いてしまっているのは貴様らも知っての通りだ。奴らは地上の、どの系統の種族にも属していないことは貴様らも知っているところであろうが、今はそんなことは関係がない。貴様らはその地上奪還戦、いわば聖戦の一端を任されることになった訳だ。見事ヴァルキリーたちを使いこなし、数世紀に渡る我々の悲願、世界を取り戻せ』

「はっ!」


 自分以外も、表面上は威勢よく返事をしてみせているが、本心では”聖戦”とやらはどうでもいいと思っていることが伝わってくる。アストラル通信で聞かされる手前、もう何度も聞いて耳にタコの話を遮断できなかったことが悔やまれる。今更そんな話を聞かされたところで、闘志が燃え上がるようなオリジンは相当若いヤツか、聖新教の信者くらいのものだ。この上官サマは後者なんだろうな。


《―――間もなく現着。ここはもう奴らのテリトリー一歩手前です。急な機動に備えてください》

『よし。ではそろそろ降下だ。貴様ら、訓練の成果を遺憾なく発揮せよ』


 この指令には、全員が全員、緊張を覚え始めたようだ。それぞれが各々、装備の最終確認を始める。


『今一度確認だ。今回は作戦開始直前に降下となる。各自最速で降下後、担当の部隊と合流及び顔合わせを済ませ、即作戦開始だ。予定がいくらか繰り上がっているが、貴様らの訓練は生半可なものではなかったことは私が保証してやる。この程度の予定変更は今後、殊現場に於いては頻繁に起こるからそのつもりで―――』


 閃光が走り、すぐ脇を飛んでいた味方が一機、爆ぜた。衝撃が機体を伝う。


《オーク・ツーが落ちた!》

《エンゲージ! エンゲージ!》

《バカな!? レーダーには何も―――》


 味方各機から情報が乱れ飛ぶ。


《高出力波感知! 捕まった!》


 急なけたたましいビープ音と共に、身体にGがかかる。とうとうこの機体が狙われたか。

 聖新()の上官が叫んだ。


『例の狙撃か!? 超長距離の!?』


 俺たちには伝えられていない情報。こいつ、隠してやがったな。


防壁(バリア)展開!》

《ダメだ! 間に合わない!》

『避けてみせろおおおおおお―――』



 ◆◇◆



「―――あ」


 ミランダの間の抜けた声が聞こえた。ワタシも同じものを見ていたから気持ちは分かった。

 幾筋もの光がワタシたちの頭上を越え。

 輸送機群に迫っていき。

 着弾。

 数瞬遅れて、爆発音。

 数機の空中での爆散を確認。

 ダメージの浅い数機も、コントロールが難しいようだ。錐揉みをして力なく落下していく。


「アイーシャ!」

「はい! 周辺十キロムに敵影なし! 超長距離狙撃と思われます!」

「周辺警戒継続! 不時着の予想ポイント割り出し!」


 やられた。長年続く戦闘で、ドラウグルにもデータが蓄積されていっている。指揮官(オリジン)無しの部隊は、()()()()な意味で脆い。それがオリジンの生存率が相当低い理由でもある。執拗に狙われるためだ。今回は初手、いや、勝負が始まる前から取りに来た、といったところか。


「不時着ポイント割り出し完了! マップへアップロード済み!」

「……よし、確認! 回収、行くわよ! 周辺警戒は厳に!」

「はい!」

「仕方ないわねぇ!」


 他部隊も既に動いている。まさか、この作戦が新人指揮官達の捜索救出作戦から始まろうとは、誰も思っていなかっただろう。


「テス、妙じゃない? 凡その位置はバレてるとしても、狙撃が正確すぎる」

「ミランダの言う通りです。いくらドラウグルの技術力が高いと言っても、レーダー範囲外からの狙撃にしては、当たり過ぎています」


 二人の言う通りだ。作戦予定区域は、ここから遥か先。現に、部隊全体のレーダー範囲内には敵の反応はない。


「そうね。色々と疑問はある。でも今は、いち早く、一人でも多くのオリジンを助けないと」

「だよねー。さあさあ、せめて骨を拾いに行ってあげましょーか」

 

 いつも通りのミランダのブラックさ加減を聞いて、ワタシ自身、イレギュラーな事態に、焦っていたことを自覚した。

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