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「エレツさんはどうして私が光の竜の乙女ってわかったんですか?」
「私じゃない、アースが教えてくれたんだ」
エレツが顎をくいっと動かす。偉いだろう、とふんぞり反っている土の竜に思わず苦笑する。
「今回は特に強かったからわかりやすかったよ!」
「強い?」
アースはフィーネの疑問には返答せずエレツの周りをふよふよと飛んでいた。
「匂いとか気配とか、まぁ私たちにはわからない、竜だけが感知できるものなんだろうよ。きっと」
エレツはやれやれと呆れぎみにいう。匂いが強かったら嫌だな、と体を嗅いでいたフィーネは恥ずかしくて顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
「ここ何代も光の竜の乙女はすぐ魔物に殺されてしまってたんだ。だからアースに教えてもらってすぐに駆けつけたんだよ。間に合って本当によかった」
ごくりと息をのんだ。もしエレツが少しでも遅れていたら、フィーネは魔物の血肉になっていたのだろう。なんという幸運だろうか。
しかし何代も続けざまに殺されるということは光の竜の乙女は魔物に狙われやすいということだろうか。今回は免れても、次はと考えると血の気が引いた。
「…私、これからどうなるんですか」
「その質問への回答は結晶を治してから、ご両親と一緒のときにしよう」
二人と一匹の竜は今朝方フィーネが見つけた弱った結晶の前にたどり着いた。今朝は弱々しくも淡く輝いていたのに、今は全く光を反射していない。先ほどの魔物の襲撃で完全に役目を終えたということだろう。その周りに位置する他の結晶も確認したところ、朝よりも光が微弱になっていた。
「ここです、何をするんですか?」
「結晶を甦らせるんだよ。フィーネもやってみるか?」
いきなりふられて言葉を失った。
通常、ディエス村では効力がなくなった結晶は国から新しいものをもらい交換する。甦らせるなど想像もつかない。そもそも結晶がどのようにできているのかも知らなかった。
「この結晶は竜の力や竜の乙女の祈りによって魔物を弾き返す力を宿らせているんだ。あとは信心深い神官なんかの祈りでも時間はかかるが可能だな」
ひょいっと結晶を手に取り、遊ぶ。結晶は貴重なものだと両親から耳にたこができるほどいわれてきたフィーネは心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。
ああああんなにおもちゃみたいに触って大丈夫なの!??
手遊びをやめてエレツが目を閉じるとだんだん結晶に虹色の輝きが戻ってきた。
「こんな風にやってみな」
輝きが弱まった結晶を取り、フィーネに握らせる。両手でしっかりと持ち、思案する。
祈るといってたけれど、傷を治したときみたいにイメージすればいいのかな。そっと両目を瞑って自分が好きな、あの綺麗な虹色に輝く結晶をイメージする。魔物から皆を守るように。皆が怪我なく、平穏に過ごせるように。
やがて手の隙間から光が溢れでる。エレツが持っていた結晶よりも目映い光だった。
「さすが光の竜の乙女だな。これで大丈夫だ」
フィーネが持っていた結晶ももとに戻し、二人で柵に沿って他の結晶を確認し、必要があれば結晶を甦らせた。
すべての結晶を確認してから灯台へと戻り、村の守護を回復させたこと、各々の家に帰っても大丈夫なことを説明する。家が破壊されてしまったものは近所の家に泊まらせてもらうことになった。血生臭さや魔物の遺体はあれど、村人全員どこかほっとしている。
フィーネの家はなんとか無事であった。家の中の料理も逃げてきたときのまま。そこだけは何もなかったような平穏な、誕生日の一場面で皮肉だなと思った。
「ただいま」
四人と一匹の竜が家の中に入る。外はもう夕暮れ時だった。
血にまみれた服を着替えて軽く掃除をしたあと、机の上の料理を四人と一匹で平らげた。すべて自分の好物なのに全く味がしなかった。楽しくもなかった。この後、待ち構えていることを考えると不安で仕方なかった。
「では、これからのことを相談しましょう」
机の上を片付けたあと、四人で対面して席に着いた。エレツは腕を組み、先に質問したいことはあるか尋ねる。
「…今回の魔物の襲撃はフィーネが狙いなんでしょうか」
「断言はできないがその可能性が高いといえます。竜の乙女は狙われやすいので」
両親の顔面が蒼白になる。今朝、半分冗談でいっていたことが本当になるとは、夢にも思わなかったのだろう。自分のせいで村人が大勢亡くなったように感じてフィーネは奥歯を噛み締めた。
「今後も狙われるということですか?でも結晶があれば村は安全なんですよね!?」
「結晶とて万能ではありません。何度襲撃に耐えられるかはわかりません。そして今後も狙われる可能性は高いでしょう」
やつらは光の乙女への執着が強いですから。
「…皆さんもご存知の通り、今魔物は凶暴さが増しており被害にあう村や町も少なくありません。ここからは他言無用でお願いしたいのですが、私は国王に願い出て他の竜の乙女を探しているところなのです」
竜の乙女を全員集め、魔物発生の元凶を叩く。
「そのためにフィーネ、君に一緒に来てもらいたいんだ」
来てくれるかな?とエレツは手を伸ばして不敵に微笑んだ。