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「いたっ」

頭が何かにぶつかった。どうやらここは狭くて暗い場所らしい。フィーネは思いっきりぶつけた頭頂部を擦る。

前方に光が見えた。ここはもしかしたら洞窟なのかもしれないと思った。光のほうに向かって這って向かう。

暗かったが木の根の感触はわかった。光の向こうには人の気配を感じる。やっとのことで暗闇から脱出するとフレイヤたちやレーヴェン村の長老がいた。闇に侵食されたあと、いつの間にかレーヴェン村に移動していたようだ。

「フィーネ!?」

皆が一瞬驚いた顔をしたあと、泣きそうな顔で駆け寄ってくる。なんだか皆の顔がいつもより近く感じた。

「ごめん、どれぐらい眠ってた?状況は?」

「お前、何いってんだ!あんなめにあったのに周りの状況のほうが大事かよ!」

「フィーネ、背大きくなった!どうして?」

イエリナに指摘されてはっとする。服も確かに裾が足りなくなっており、皆の顔が近く感じたのも視線が高くなったからだった。ルブリムが持ってきてくれた鏡を覗き込むとそこには成長した自分の姿があった。

眠っているときに見た過去のフィオネの姿に似ている気がした。髪も腰辺りまで伸びている。ただ違うのは一房だけ黒い髪が混じっていることか。体の黒い染みがそこに移ったように。

体が見合わないだけ。だから体を成長させましょう。ということなのかもしれない。もう少し説明をしてほしかった。伸びた腕や大きくなった手を動かしつつ思った。

改めて他の皆の姿をまじまじと観察する。フレイヤは長かった髪をまとめており、体に癒えてない生傷が残っていた。イエリナは体や手に包帯を巻いており、土で汚れていた。ノルは腹部に包帯を巻いていた。テラーは、と辺りを見回すと背後から物音が聞こえて振り返る。

「すみません、お待たせしました」

そこには変わらぬ姿のテラーがいた。だが顔付きは幾分凛々しくなった気がする。テラーはフィーネの姿を見て一瞬目を丸くさせたが、すぐに穏やかに微笑んだ。

「フィーネさんは、体を成長させたんですね」

その口ぶりだと彼女も成長するように誰かから言われたのだろうか。

「私は、やめてもらったんです。お姉ちゃんが起きて、もし私が大きくなってたら驚いちゃいますから」

テラーの笑顔を見ると心があたたかくなった。

フィーネたちは一旦大木からフレイヤの家へ移動し食事をとっていた。

眠っている間のことを説明してもらう。闇に侵食されて眠っているフィーネを連れて、竜たちに促されてレーヴェン村の竜の大木までやってきた。大木の根本にある空洞へと入り各々試練を受けて力を向上させたという。

「あたしはひたすら初代乙女と戦ってたわ。容赦ないのよ。髪もちりぢりにされたわ」

フレイヤは試練の内容を思い出しげんなりしている。相当扱かれたようだ。

「イエリナ、色んな植物教えてもらった!優しかった!」

こちらは逆にフレンドリーだったようだ。

「俺もフレイヤとおんなじでばしばし扱かれたよ。笑顔なのにおっかねーんだ…」

ノルは顔を青褪めている。

「私は基本優しかったです。手取り足取り教えてくださいました」

テラーは変わらずニコニコしている。フィーネは?と振られた。

「私は、闇と光の竜の乙女の過去を見せてもらったよ」

フィオネに見せてもらったことを掻い摘んで話した。闇の竜の乙女が虐げられていた中で、負の感情を集め続けて力を暴走させて魔物が大量に発生したこと。他の竜の乙女たちは太刀打ちできなかったこと。彼女が恐らくまだ苦しんでいること。

「初代乙女たちが太刀打ちできなかったってのに、俺たちにできるのか?」

「わからない。でも初代乙女たちは躊躇いもあったと思う」

突然想定外のことが起きて対処できなかった可能性もある。何よりフィオネは力をうまく発揮できていなかった気がした。

「ノルは自信ないの?成長したあたしたちなら平気よ、きっと」

「自信ないなんていってねぇだろ!」

「大丈夫ですよ。私達、初代乙女に特訓されたんですから」

「うん!トーリも助ける!」

皆意気込みは確かだった。

きっと大丈夫。彼女を抱きしめてみせる。フィーネは拳をぐっと握りしめた。

明朝、竜に乗って結界までいくことで合意して食事の後片付けをしようとしたとき、控えめなノックの音が聞こえた。どうぞ、とフレイヤが応えると扉の向こうからフィーネの両親が現れる。

「お母さん!?お父さん!?」

「フィーネ、無事でよかった!急にこんなに大きくなって…」

「目を覚まさないと聞いて心配してたんだぞ」

フィーネは両親にぎゅうっと抱きしめられる。何故両親がレーヴェン村にいるのだろうか。目を白黒させているとファムが近くにきて説明してくれた。

「ディエス村は魔物の襲来で壊滅状態らしい。長老たちがディエス村の人々をここに受け入れたそうだ」

「えっ他の皆は無事なの!?」

両親の腕の中から抜け出して問う。両親の目にはまだ涙が溜まっていた。

「無事よ。襲撃の少し前にレーヴェン村の人が来てくれて、皆難を逃れたの」

「旅に出てから便りもないから心配してたんだ。それなのに昏睡状態で帰ってきたと聞いて…」

レーヴェン村についてすぐ大木へ向かったため、後から聞かされてさぞ驚いたことだろう。手紙も書こうと思っていたのに出せず仕舞いだった。

両親はフィーネの意思を尊重して送り出してくれたが、心配しないわけない。当時のフィーネは気づかなかったが今ならわかる。無事であるかどうかわからないというのは心理的に大変負担だ。

「ごめんなさい。手紙出せなくて」

「そんなこと、もういいのよ。もう危ないことしないで、ここにいましょう」

フィーネの肩口に顔を埋める母をそっと離し、顔を覗き込む。優しい母だ。抱きしめられると安心する。

「ううん、私やらなきゃいけないことがあるから」

彼女を抱きしめにいかないと。

「フィーネがそんなこと…」

「私が竜の乙女だから。私にしかできないことなんだよ。それにここだっていつまで安全かわからないよ。結界があっても魔物に襲われた町をいっぱい見てきたの。もう悲しい思いをする人が出ないように、私達は行かなきゃいけないんだよ」

どのみちなにもしなければ、島全体が魔物の住処になるのは今の魔物の活性化からも目に見えていた。両親が住む場所を守ってみせる。安心させるように抱きしめた。

両親はそれ以上何も言わなかった。二人には戦う術がない。フィーネを止める術もないのだ。ただ強く抱きしめ返してくれた。

その晩は旅に出た前日のように三人で眠った。フィーネを間に挟んで。すごくあたたかくて嬉しかった。

ヴァネッサにも同じ気持ちになってもらいたいと思った。あたたかい気持ち。こんな風に私は彼女を抱きしめる。




明朝、両親とファムが作った料理を食してから出発の準備をした。予め長老が用意してくれた六人が入ることができる籠に紐を取り付ける。この紐を竜に持ってもらい空から移動する。竜三匹の力で運んでもらうためだ。

地面より空のほうが魔物との接触が少ない、というのが皆の見解だった。少しでも早く闇の竜と乙女を止めなくてはならない。

両親と長老、村人たちとクランが上昇する籠と竜を見上げている。見送りだ。皆が見えなくなるまで手を振った。

「やっぱりフィーネがなんとかしなきゃいけないってことに変わりないわ」

「…要だ」

「俺たちがお前を援護するからな!」

「平和な島を取り戻しましょう」

「フィーネ、できる!」

「うん」

皆が励ましてくれる。一致団結したような気がした。それだけで勇気が湧いてくる。

「行こう。ヴァネッサさんを助けに」

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