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レーヴェン村へ向かうため、南下して三日経つとルブリムとラクスに再会した。そこからは三匹の竜に体を大きくしてもらい、空から移動していた。その間もフィーネは目を覚ますことはなかった。
三匹の竜がすごい速さで休まず飛行してくれたため、五日で到着した。
レーヴェン村に着くとびっくりした表情のクランがいた。こんなに早く再開するとは想像していなかったことだろう。説明はあとにして、真っ先に村の長老のもとへ向かう。
声もかけずに乱暴に戸を開けるフレイヤに長老は眉をくいっと上げるだけで注意はしなかった。皆の険しい顔だちのせいかもしれない。
「長老、私達は今から竜の大木へ入るわ」
先頭で進言するフレイヤに首を横に振る長老。髭をゆったり触り、フレイヤたちをじっくり観察する。
「ただでは戻ってこれないかもしれない。それでも行くのか?」
「このままじゃ、何もできずに終わっちゃいます。そんなの嫌です」
テラーが胸に手を当て訴える。その瞳にかたい決意が見えた。
長老は重たい腰をあげて外へと出ていった。その後をフレイヤたちもついていく。
五分ほど歩くと大きな木が現れた。村の外からではわからないほど、内側に位置する場所である。大木の根本の部分、少し空洞になっているところを長老は指さした。
「あそこに一人ずつ入るんだ。試練が待ち構えてることだろう」
「試練?それって何なの?」
長老は首を横に振った。彼も知らないらしい。
言い伝えだった。真に力が必要になったとき、竜の大木へと入れば初代竜の乙女たちが試練とともに必要な力を与えるだろう、というものだ。
入ってみればわかること。それ以外の選択肢もなかった。フレイヤが先陣をきって中へ入っていった。次にノル、イエリナが進む。フィーネはテラーの作った土人形に抱かれて中へと入っていった。
「私たち、ちゃんと戻ってきますから。待っててください」
「…ああ、気をつけて」
最後にテラーがファムに頷いてみせてから中へと進んでいった。皆が大木の中へ入っていったことを見届けて、ファムはその場に腰をおろす。隣にクランも腰掛けた。二人はじっと皆が消えていった方向を眉を寄せて見つめる。クランがぽつりと呟いた。
「大丈夫、ですよね」
「…信じるしかない」
二人と三匹の竜は大木の根本付近で皆の帰りを待つことにした。
…きて、起きて。
誰かに呼ばれた気がしてはっと目を覚ます。先程まで頭を騒がせていた声はどこかへ消えて、静寂に満ちていた。声の主を探そうと左右を見ると、視界の端に白い髪が見えて頭上を仰ぐ。
そこには白い長い髪をした、女性が宙に浮かんでいた。
夢の中で見た人に似ている…。
「初めまして、フィーネ。私はフィオネ。初代光の竜の乙女」
あなたが侵されていた闇は私が浄化しました。とフィオネは満面の笑みで答えた。
体を見ると黒い染みは残るものの、痛みや苦しい感じはしなくなっていた。むしろ体が軽く感じる。
「あなたには私と闇の竜の乙女、ヴァネッサの過去を見てもらいます。光の竜の乙女の力を強くするのは、確かに特訓も大事だけれど一番は心のありようだから」
「…それを知ったら、私は皆を守れますか?」
「いったでしょう。それはあなた次第です」
にっこりと微笑んだフィオネに目元を手で覆われて、すっと手をどかされるとそこは先程までいた真っ白な空間ではなくなっていた。
どこまでも見渡せる草原。白い花々。その花園の中心に、白い髪と黒い髪をした少女二人が横になって談笑していた。




