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明朝、クランとルブリムとラクスが町を出発するのを見届けてからフィーネたちも移動を始めた。目的地は島の中央。砂漠を越えた先にある。一行は休み休み砂漠を進んだ。

砂漠を越えて、緑が見え始めた頃に野営をすることにした。幸いというべきか、道中魔物と遭遇することはなかった。それが逆に不気味でもあったが。

砂漠を抜けた先は草原だった。木も建物も、何もない。生きているものも感じない。草だけがそよそよと風に揺れている。まるで死んでいるような世界。少し距離があるはずだが、野営地点からでも中央に張られた結界が見えた。

「とうとうここまで来たわね」

「ああ」

フレイヤが感慨深げに呟いた。短かったような、長かったような旅だった。その終着が目の前にある。

「さっさと終わらせて帰ろうぜ」

「イエリナ、早くお母さんに会いたい!」

「私も、お姉ちゃんに会いたいです」

皆心の内を吐露していた。ノルも随分溶け込めているように感じる。

皆と一緒なら大丈夫。そんな気持ちと同時に漠然とした不安が胸の内に渦をまいていた。

眠りに就くと暗闇の中で早くおいで。会いに来て。待ってたの。というこちらを呼ぶ声が響いた。黒い手がいくつも自分に纏わりついて体を弄られている感覚。闇に引きずり込まれるような気がしてはっと目が覚める。

辺りを見回したが不審な人影はない。ファム以外はぐっすり眠っていた。

「どうした?顔が真っ青だ」

「いえ、あの…嫌な夢をみて…」

ファムはそうか、と返事をして視線を焚き火へと戻した。あまり追及されなくてほっとする。

あの声はきっと闇の竜の乙女のものだ。彼女が近くにいるのかもしれない。だが不確かなことを伝えることもよくない気がした。不安を煽ることは得策ではない。

私が気をつけておけばいいよね。

今度こそ眠りについた。声を聞くことなく、朝方目が覚めてほっとする。フィーネ以外は朝食の準備や身支度を始めていて、フィーネも慌てて寝袋を畳んだ。

砂漠を抜けてからは二日間草原を歩いていた。結界が見えたから近いと思っていたが、そうではなかったらしい。何もないところを歩き続けるというのは精神的にも辛いものだな、と感じる。なかなかつかないことにやきもきし始めた頃、ようやく結界までたどり着くことができた。

「結界をどうにかするには、私達は何をすればいいの?」

「皆が結界に手をつけて、これは自分のものだって、なくなれって念じればいいよ」

アースが結界に触れて言う。皆促されるように両手を結界につけた。結界の向こう側は見えなく、闇に包まれている。

これは私。私はこの結界をなくしたい。

目を閉じて心の中で念じる。感覚が手のひらから徐々に結界に移っていく気がした。触覚だろうか。全てではないが触れている周囲の結界が自分になっているような感じ。触れたところの結界がなくなり、通り抜けられるイメージが浮かんだとき。

もう離さない。

手が闇に飲み込まれた。

「フィーネ!!」

皆が腕を結界に引きずり込まれているフィーネを視界にいれてぎょっとする。慌てて腕を引っ張りだそうとしてもびくともしなかった。

結界から伸びるいくつもの黒い手がフィーネの腕を絡め取り、侵食するたびに頭に様々な人の怨嗟の声が響く。やがて肌がエレツの体のように、黒く侵食され始めた。

「浄化して!」

フレイヤ、わかっているよ。でもできないの。頭が痛くて集中できない。

「境界を切ればいいだろ!」

ノルが手に水の刃を作り結界と手の境目を狙って振り上げると、そこから黒い刃が伸びてノルの体を突き刺した。闇の乙女の攻撃とそっくり。幸いにも急所を外したらしい。ノルは膝をついてすぐに傷口を押さえて止血していた。

イエリナとファムとフレイヤは変わらずフィーネの腕を引っ張ってくれていた。テラーは体が引きずり込まれないように土でフィーネの下半身を固めてくれる。

皆が一生懸命やってくれているのに事態は好転しない。むしろ悪化していた。

フィーネの体は少しずつ黒く、闇に侵食されて結界の内側へと引きずり込まれていた。頭に響く泣き声や怒号に、意識が朦朧とし始めたとき、緑色の影が視界を遮る。

「フィーネ!あなたを保ちなさい!」

トーリが闇に飲み込まれたフィーネの腕を口に咥えた。するとフィーネの腕に絡みついていた黒い手が標的をトーリへと変えて、結界の内側へ引きずり込んだ。

開放されたフィーネは後方へと倒れて目を覚まさない。闇に侵食された体はそのまま黒い染みが残っている。まるでエレツと同じだ。

結界はそれ以上動きを見せなかった。トーリを取り込んで満足したとでもいうように、静かだった。皆呆然として、立ち尽くしていた。

いち早く我に返ったファムはノルの傷の手当をし、イエリナはフィーネの体に覆いかぶさってわんわん泣き、テラーは下唇を噛み締めて嗚咽を漏らし、フレイヤは手を握りしめて俯いていた。

木の竜トーリが連れて行かれて、フィーネも目を覚まさない。結界も破けない。八方塞がりだ。

「レーヴェン村の竜の大木へ行くんだ」

アースがフィーネの上へと躍り出て言った。

「あれはただの木ではないの?村の者は昔から入ってはいけないと言われていたけれど、この状況を打開できるようなこと、起きないと思うわよ」

「あそこは初代竜の乙女たちの体が眠っている場所なんだ。そこで皆にさらに力をつけてもらう。きっとフィーネも目を覚ますはずだよ」

どうやって力をつけるのか等聞きたいことはあったが、他に案もないため一向はレーヴェン村へと向かうことにした。

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