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一つのベッドに三人で寝ても余裕があったため、フィーネは光の竜の間からイエリナの部屋に戻ったあとぐっすり眠ることができた。起きるとイエリナに抱き枕にされていたけれど。溜め込んだ気持ちを吐露することができて少しすっきりとした心持ちだ。

用意された豪華な食事に舌鼓をうち、休憩しながら出発の準備を進めていると控えめにノックする音が響く。

「はい、どうぞ」

返事をすると恐る恐る扉が開く。テラーが立っていた。

「あの、私も一緒に連れていってください」

不安げに上目遣いでいうテラーにフレイヤが膝をついて諭す。

「ついていくってことは危険が伴うのよ。その覚悟はできているの?」

「…わかってる、つもりです。お姉ちゃんがいつも話してくれましたから。私は、お姉ちゃんがやろうとしてたことを手伝いたいんです。早く、目を覚ましてほしいんです。そのためならなんだってします!」

拳を握りしめて意気込むテラーの目はエレツに似ていた。姉妹なんだな、と感じる。

「それなら止めないわ。あたしはフレイヤ、よろしくね」

「私はフィーネ!一緒に頑張ろうね」

「イエリナ、頼っていいよ」

「…ファムだ。よろしく」

皆が名乗った後、テラーは深くお辞儀をした。アースは背後でパタパタと静かに飛んでいた。

エレツの面倒は国が見てくれるらしく一安心した。ここは他より安全だろう。皆で出発前にエレツに挨拶をしに医務室へ向かった。

寝ているエレツの手を握ったり擦ったりして各々一言二言話をする。いってくるね。頑張ってくるね。早く目を覚ましてね。目を覚まさない彼女に挨拶をする。

そういえばいつもエレツが自分達を引っ張ってくれていた気がする。とても強くて優しくて、姉みたいな存在。どれだけ心を支えてもらっていたか、ようやくわかった気がする。テラーにとっては肉親だ。その気持ちは自分たちより強いだろう。

医務室を出て、城を後にする際に女王が見送りをしてくれた。その際に大臣から旅に必要だろうと金品を渡されて、そういえば旅での支払いは全てエレツがしてくれていたことを思い出し心臓がきゅっとなる。今後の金の管理はファムが行うことに決まった。年長者でしっかりしているため即決まった。今後も必要があれば市に常駐している騎士を通じて金の支給をしてくれるらしい。竜と、竜の乙女として魔物を退治する報酬のようなものと説明された。金のためではないけれど、金がなかったら生きることができない。ありがたく頂戴した。

女王には無事とこの国の未来を頼むといわれた。彼女のこの国を案じる様子に身が引き締まったと同時に、この人が女王でよかったとも思った。

王子はにこにこ笑うのみで何も話しかけることはなかった。昨夜は何もなかったように。それが少し気持ち悪かった。頭を振って嫌な思いを振りほどく。

アモール市を出て東、水の竜ラクスがいる方角へと歩み始めた。アースとルブリムがいうにはラクスは海辺らへんにいるとのことだ。

テラーはファムと一緒に馬に乗っていたが、初めてということもありすぐに音をあげてしまったため休憩をこまめに取りながら進むことになった。フィーネよりも小さいテラーは運動もあまり得意ではないらしく体力も少ない。何度も足手まといになってしまっていることをフィーネたちに謝っていた。

「初めてのことだらけだもん。仕方ないよ」

「でも、皆さんだって初めてだったんですよね。私だけだめだめで…」

「いっぱい飯を食えばいい!」

イエリナはもともと体力お化けだから、とフィーネは半目で力説するイエリナを見る。その日は早めにテントを張って野営の準備をした。くたくたのテラーには端で見ていてもらう。

食事は主にファムが主道で作っていた。フィーネは最近野菜の切り方を教わったので少しだけ手伝った。テラーも料理はしていたようで、途中からフィーネの隣で手際よく皮を剥いている。

「私より年下なのに、すごい上手…」

「えへへ。家で一人が多かったので、うまくはないですけどある程度はできてるつもりです」

皆で食事をとったあと寝袋に入った。今日は魔物とも遭遇せずにすんで何よりだった。フィーネの隣にはイエリナとテラーが寝ている。イエリナは寝袋に入ると共にすぐ寝てしまったが、テラーはなかなか寝付けない様子だった。

「眠れない?」

「…はい。疲れてるから寝なきゃって思うんですけど」

「私も初めてはそうだったよ」

高揚と緊張と、あとはなんだったか。初めての村の外は未知のものだらけで、どきどきして目がぱっちりしていたのは覚えている。自分だけじゃないと知って安堵したのか、テラーが口元を手で押さえて笑った。

「私、エレツがいてくれたからすごく頑張れたんだと思うし、安心して一緒に旅ができていたんだと思う」

「…はい」

「だから私たちもテラーにとってそんな存在になれたらいいなって思うよ」

難しいだろうけど。上を向いて呟く。テントがなかったら夜空が見えてもっと明るい言葉がいえたかもしれないけれど、仕方あるまい。

テラーの息を飲む音が響いた後、よろしくお願いしますと消えそうな声が聞こえた。それから穏やかな寝息が聞こえてきたため、フィーネもそっと目蓋をおろす。

明日、起きて足が痛そうだったら癒せるか試してみよう。




翌朝、筋肉痛のテラーの体を癒そうとしたがあまりうまくいかなかった。フレイヤに尋ねると、外傷ではないからかもしれない、と言われる。確かに今までは外傷や闇による侵食を癒してきた。それ以外のもの、例えば病気や遺伝的なものは癒しの効果があまりないのかもしれない。だがテラーの怠さは少し解消されて、少し痛い程度まで改善されたので効果がゼロというわけではなさそうだ。

一週間ほどゆっくりと移動していると、だんだんテラーも旅に慣れてきたのか休憩も当初よりぐっと少なくなり移動速度があがっていった。

道中宿屋がある町までたどり着いたため、そこで休息をとることにした。たまには風呂に入ってベッドで寝たほうが鋭気を養えていい。

昼は皆でとり、夕暮れまでに集まるという約束で各々好きなところへ向かった。テラーはファムとフレイヤについていき、イエリナは公園で寝転がって日向ぼっこをしにいった。フィーネは一人、散歩に出掛けた。

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