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両親はことあるごとにフィーネが竜の乙女なのでは、という。それにはもちろん理由がある。

彼女は四歳のときに一度誘拐されたことがあるからだ。ごく平凡な田舎の家庭の娘が犯人の目にとまったのは、フィーネの輝く白髪が原因だろう。この島国で白髪は初代光の竜の乙女を彷彿とさせる。また白髪は大変珍しいのである。詳しい人数は把握されていないが片手で数えられるほどしかいないという噂だ。

フィーネの両親は二人とも茶髪であり白髪で生まれたこと事態、突然変異か奇跡としかいいようがない。先で述べたように、竜の乙女は国王よりも上である。その恩恵を受けたいというよからぬ存在がめぼしい少女を攫い、十二歳まで育てて紋様が現れなかったら娼館等に売り払うという犯罪も蔓延っていた。上記のようなこともあり、竜の乙女を狙った犯罪者に誘拐されたのかもしれないと、当時は村総出で探し回った。

朝に母と菜園についていき、少し目を離した隙にいなくなったのだ。村中を探し周り、もう村の外に出て遠くに連れていかれてしまったのかもしれない、と虚しい思いでとぼとぼと両親が家路を辿ったところ、家の玄関に布にくるまれたフィーネが穏やかな寝息をたてているところを発見した。

両親は喜びと安堵でどっと涙が溢れてぎゅうぎゅうとフィーネを抱き締めた。当の本人は行方不明になった一日のことを一切覚えておらず、お腹空いたといって両親を大層笑わせたらしい。そのときフィーネの懐からぽろりと白色に輝く鱗が落ちた。この鱗の主が彼女を家まで送り届けてくれたに違いないと考え、鱗に糸を通してお守りとして持ち歩くように言い聞かせた。それからフィーネは誘拐されることもなく健やかに育っていった。

竜を実際に見たことはないが、これほど綺麗で頑丈な鱗は竜のものに違いないと両親は考えた。それからはお前は竜に愛されてるからな。竜の乙女かもしれないわね。と、口々にいった。

(鱗だって竜のものとは限らないのに)

物心つく前は竜の乙女になる!と、幼い少女なら誰しも言ったものをフィーネも意気揚々と発言していた。だが事件以降は周りから期待を込めて言われ続け、すっかり高揚感や羨望などなくなってしまった。はっきりいって重荷だった。自分でいうのはいいのに、他人からいわれると萎えてしまうというお年頃なのである。

家から四百メートル先にある菜園へ向かう途中で近所の方々にお誕生日おめでとうと祝福してもらう。フィーネが住むディエス村は人口百五十人程度の島の最南端に位置している小さな村。人口が少ないため必然的に村人全員顔見知りだ。村から近くの町までは二日以上かかるためほとんど自給自足の生活をしている。人の入れ替りが少ない村である。村の周囲には国から賜った魔物対策の結晶が飾られている。これが村が安全な理由だ。

「雑草抜き終わったら結晶を見に行こうかな」

菜園につき、一心不乱に雑草を抜いていく。ぼーとしているとふとした瞬間に夢のことや魔物のことを考えてしまいそうで。

まだまだゆっくり大きくなりたいのに、十二歳という一つの節目が大人になりなさいと言われているようで嫌だった。もともとフィーネは年の割に大人びており、周りからもませている、早くお姉ちゃんになりたいのかな、等言われてきた。

それを心のどこかで期待しているのは、村の皆なのに。

竜の乙女になるかもしれない村唯一の少女。この閉鎖的な村の希望。

感情の機微に敏感だったフィーネは村人たちの思いを一心に受け止めようとしていただけ。

「ふぅ、これぐらいかな」

気づくと雑草のこんもりした山が出来ていた。ざっと確認したところ、他に雑草は見当たらない。今日のところはひとまずいいだろうと片付けをして手を洗った。

さて、次は結晶の確認だ。

村の端までいき、柵から頭が抜きでた木の棒についている結晶を確認する。結晶は効力が宿っているとき、淡く虹色に輝いて見える。太陽に照らされてフィーネの顔にも虹色が反射した。この輝きを見ていると心が温かくなりぽかぽかした気持ちになる。

「いつ見ても綺麗だなぁ…」

ぼんやりと眺めながら柵沿いに歩いていく。結晶を見ているときはいつもより時間の流れが緩やかな気がする。

「あれ?」

最後の結晶にたどり着いて、フィーネは首を傾げる。じっと観察してから少し引き返して別の結晶を見る。

「フィーネちゃん、どうしたんだい?」

「村長!」

背後からゆったりとした歩みで近づいてきたのは、ディエス村の村長だった。腰が曲がり杖をつきながら柔和な顔つきでフィーネに尋ねる。

「ちょっと心配で見て回ってたんだけど、この結晶、元気ないみたいなの」

「…ふむ」

村長もまじまじと見る。それから片眉をあげてから杖に置いた片方の手を擦り始めた。

「フィーネちゃん、よく気づいたね。確かにこの結晶は効力が切れかけておる。すぐに国にいって新しいものを手配してもらおう」

偉いなぁ、と村長は孫に接するように優しくフィーネの頭を撫でた。

結晶は魔物の侵入を防いでくれるが永遠ではない。魔物が村に侵入を試みる度に結晶の効力はすり減っていく。結晶の力はその輝きに比例する。つまり結晶の輝きが衰えていると魔物を防ぐ力が弱くなってしまうのだ。

「今日は私の誕生日だから!」

嫌なことは起こってほしくない。

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