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 こんなときに、なんで!!

 必死に引き剥がそうと試みるも魔物の足の力が強くて難しい。服も破けそうになかった。

ずっと狙われていたのだろうか。ぐんぐん上昇していく魔物になす術がない。光の力で浄化しようとするも慣れない浮遊感で力が安定せず、光が弾けてしまう。未知の体験すぎてはっきりいって怖かった。

「フィーネ!今魔物を打ち落とすから!!」

 フレイヤの火の矢が空飛ぶ魔物の急所に突き刺さり、魔物は空中で絶命した。力を失った体から解放されるも、フィーネは重力に従って落下する。地上何メートルなのだろうか。このままでは一溜りもない。

 エレツが土でフィーネが落ちる方向へ真横に地面を作りながら駆ける。二匹の竜も一緒に空を駆けた。フィーネもエレツに向かって必死に手を伸ばす。

 あともう少しというところで、エレツの手はフィーネに届かなかった。からぶった手を見て冷や汗がでた。

 フィーネは悲鳴をあげることもできずに、自分の名前を呼ぶ声がだんだん小さくなっていくのを聞くことしかできなかった。

 絶体絶命なのにやけに冷静な自分がいた。地面に落ちたら死んでしまうな、とか。生い茂った木の上だったらいちかばちか怪我だけですむのではないか、とか。体は恐怖でどんどん冷えていくのだけれど。緑がすぐ近くにきたとき、天に身を任せて目を閉じた。

 どんっと何かひんやりしてつるつるしたものの上に落ちた。衝撃はあったものの、フィーネが想像していたほどのものではなく疑問が浮かぶ。

 地面じゃない…?

 地面に落ちたら木っ端微塵になって肉塊になってるはず。目蓋をあげると緑色の鱗が見えた。竜の鱗だ。

「大丈夫ですか、光の竜の乙女さん」

 ルブリムやアースと異なり、フィーネのおよそ三倍ほどの大きさの緑の竜の背中にいた。緑の竜は目を細めて喉を鳴らす。

「驚きましたよ。空から降ってくるのだから。私はトーリ。木の竜です。あなたは?」

「フィーネです!」

 トーリは今まで会った中で一番大人びている竜だった。優しい瞳はこのジュビア森林のような深みがあった。緩やかに降下してフィーネを地面へ下ろしてくれる。

「ここにあなたの乙女がいるんですか?」

 その問いに少し困った顔をしたトーリが空を仰いだ。

「ええ。ですがあなたの望みが叶うとはかぎりません」

「え?」

「ひとまず会ってみますか?」

 トーリの提案に同意する。他の皆が心配しているかもしれないが、今回の目的を早く達成したほうがいいだろうと考えた。

 フィーネは手の中に光を集めて鳥を模したものを作る。この光の鳥にエレツたちのもとへいってもらい、自分が無事だと伝えてもらう。これは特訓して新しくできるようになったことだった。光の力はフィーネしか使えない。無事は間違いなく伝わるだろう。

 トーリの背に乗り乙女のもとへ向かってもらう。背中の上からさまざまな動物たちが確認できた。リスに鹿に猿に、フィーネが今まで本の中でしか見たことがない様々な動物たちがそこで暮らしていた。

 やがて広い湖へと着くとそこで水浴びをしている女性がいた。髪が長くぼさぼさだった。こちらを訝しそうな目付きで見ている。

「イエリナ、こちらはあなたと同じ竜の乙女ですよ」

「は、はじめまして!フィーネといいます」

「…」

 イエリナは頭をぶんぶん振り、水滴を飛ばしてから近づいてきた。フィーネよりも頭一つ分以上大きく、見下ろされている。

「イエリナに何のよう?」

 警戒しているものの、トーリに連れられて来たからか話は聞いてくれるようだ。フィーネは皆の代表としてしっかり伝えなくては、と心を引き締めた。

「魔物の元凶をたつために、一緒に来てくれませんか?」

「いやだ」

 即答されぽかんと固まる。今までトントン拍子できたため、予想できてなく狼狽えてしまった。

「話はそれだけ?イエリナ行く」

「えっま、待って!」

 イエリナはぴょんぴょんと猿のように身軽に木から木へと移動し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。制止しようと伸ばした手を下げることができなかった。

 トーリは嘆息し、やはりと溢した。

「やはりって…」

「私の説得も無意味でしたから。でもあなたなら、と思ったのですが」

「理由、わかるんですか?」

 覗き込むとトーリが首肯した。

「話の前にあなたの仲間を探しましょうか」

 トーリの提言で皆と合流を試みることにした。彼らは崖を降りてくるので森林の中央部から崖のほうへと戻ってみることにする。

 歩いていると今まで見たことのない草花が観察できた。色鮮やかな花に触れようとしたらトーリに毒がありますよ、と諌められ慌てて手を引っ込める。あまり無闇に触れないようにしようと思った。

 その他にもきのこや木の実が多くあり、ジュビア森林で自給自足をすることはそこまで難しくないように感じた。イエリナの身なりはよくなく、あまり他の人がいる村などに行ってないように見受けられたからだ。

 トーリと崖の近くまで歩いてくると、崖を慎重に降りている三人の姿が視界にうつった。二匹の竜は冷やかすように崖を降っている三人の周りをちょろちょろ飛び回っている。

 皆ー!と手をふって叫ぶと、フィーネに気づいたエレツが驚きを顔中に満たしたあと安堵したように笑い、手を振り返してくれた。

 フィーネは三人が降り立つだろう崖下へと駆け寄り待った。先に降りてきたフレイヤがフィーネをきつく抱擁する。少し体が震えていた。

「無事でよかったわ」

「うん、ありがとう」

 エレツには頭を撫でられた。なんだか嬉しくなって笑みが溢れる。ファムは少しフィーネを観察したあと、異常がないことを確認してから大きな緑色の竜へ視線を動かした。

 二匹の小さい竜はトーリのほうへと一直線に飛んでいきぺちゃくちゃ喋っている。

「三人とも、この木の竜のトーリが私を助けてくれたんだよ」

 トーリは喉をならし会釈した。それから木の竜の乙女、イエリナに会ったこと。一緒に魔物の元凶をたつためにきてほしいと頼み、断られたことを伝えた。皆納得いかない表情だ。

 会ったばかりでこんな話に同意するわけないという気持ちとこのままでは大変なことになるのに何故わからないんだ、という気持ちが混在する。トーリは皆の表情を確認して、嘆息した。

「まずは彼女の話をしましょう」

 木の竜の乙女、イエリナの話を。

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