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ジュビア森林

 村人たちの怪我の治療、村の結界の修復を行い瓦礫の片付けをするとあっという間に空は暗闇に包まれた。そのため今夜はこの村で一夜を明かすことになった。

 簡易の寝床を作り、炊き出しの手伝いをする。救助したときよりは村人たちの顔色も幾分良くなっていてほっとした。視界の隅に村長とエレツが話している姿を見つけて、フィーネは物陰に隠れて耳を澄ませた。

「すみません。軍や警備のものに連絡をしたのですが、どこも同じような被害が多いらしく、到着まで時間がかかるようです」

「いえ、ありがとうございます。結界も直してもらいましたし、なんとか自分達で持ちこたえてみせます」

 魔物の噂は本当なんですね、と掠れた声で村長は溢した。エレツは眉間に皺をよせるのみで答えることはしなかった。

 今日、初めて魔物を浄化した高揚感は一気に冷めてしまった。その代わりもっと何かできたのではないかという気持ちに埋め尽くされる。もっと早く村に着いていれば。もっとうまく力を使えていれば。そんな途方もない気持ち。

 気持ちを切り替えるために頭を振り、炊き出しの手伝いへと戻った。

 夕飯を済ませ寝床に着くもなかなか眠れず、フィーネは寝床のテントから這い出る。視界に男の靴が入り、それを辿って視線をあげると靴の主がわかった。ファムだ。彼は寝ないでテントを見張っていたらしい。護衛の一貫なのだろう。

「ファムさんは、寝ないんですか?」

「…もうしばらくしてから」

 ファムの隣に腰を下ろす。膝を抱えて村を見た。また日中に感じた思いが湧き出て頭の中をぐるぐると渦巻き始めた。

「私、今日魔物を浄化できたんですよ」

「…そうか」

「でも、助けられなかった人も大勢いました」

 着いたときには息絶えていた人々。命の灯火が消えてしまった後では光の竜の乙女としての力も無意味だった。底の抜けてしまったコップに水を注ぐようなものだから。

 死んだものはどうにもならない、それは超常的な力であっても同様である。

「もっとなにかできたのかもしれないのにって思っちゃうんです。ファムさんはそういうの、ありませんか?」

「…ある」

 ファムの回答に目を丸くさせる。フレイヤの話からは彼がそこまでなにか後悔しているようには感じなかったし、一緒に旅をしていてそういった印象を受けなかった。感情の変化は些細で表情筋が発達していないだけなのかもしれないが。

「何かをすると選んだとき、後悔はいつだってついて回る。どんな結果になろうとも。だが自分で選んで、その結果どうするか考えることが重要なんじゃないかと思う」

「失敗は成功のもと、みたいな感じですか?」

「近からず遠からず」

 ぷはっと吹き出した。彼はとても不器用な人なのかもしれない。少し元気が出た気がした。

「そうですね。今の状態に慢心せず、もっと頑張ります」

 悩んでいたって過ぎてしまったものは変えられないのだ。未来のために今を頑張るしかない。

 なら早く寝るように、とファムに促されてテントへ戻った。フィーネは兄がいたらこんな感じなのかなぁとぽかぽかした気持ちで眠りについた。

 早朝、村人たちに別れを告げて出発した。二ヵ月間魔物との遭遇もなく、穏やかに馬上で揺られる日々が続いた。もうすっかり馬にも慣れて、腰の痛みもあまり感じなくなってきた。

 そうしてジュビア森林を囲うようにそびえ立つ山の麓へやってきた。ここからは歩きである。馬たちは手綱を木にはくくりつけず、放しておく。もし万が一、魔物に襲われそうになったとき逃げられるように。エレツが連れてきた馬は彼女が口笛で呼べば戻ってくるため安心である。もう一匹はどこかにいってしまうかもしれないが致し方あるまい。

 四人はゆっくりと傾斜を進む。舗装されていないため足場も悪く足腰に負担がかかる。慣れていないフィーネはあっという間に息があがった。何度か休憩を挟み、山の中腹ぐらいについたとき近場に洞窟があったため、そこで一晩明かすことにした。

 ルブリムとアースはそうそうに体を丸めて寝ていた。洞窟の入り口付近に結晶を置き、フィーネたちは火を取り囲み、暖をとっていた。

 ときどき遠くから狼のような遠吠えが聞こえる。ジュビア森林にいるのかもしれない。

「本当に魔物とは全然会わないね」

「ああ、ここはまだそういった変化はないようだ」

 通常ジュビア森林の周りの山では魔物は滅多に現れない。それもこの険しい山のおかげだ。昨今の魔物の活発化の影響がでているかもしれないと危惧していたが杞憂だったようだ。

 食事を済ませると外から打ち付けるような雨音が聞こえた。洞窟の入り口を見ると頻りに水が流れてカーテンのよう。滝のような雨だ。この洞窟で休息をとったのは正解だったらしい。突然の天候の変化もここ一帯の特徴だった。

「明日は地面が滑りやすそうね」

「…気を付けるように」

 やれやれとフレイヤが肩をすくめた。乾いた土でも歩きにくかったのに、ぬかるんでいたらどれほどだろうと想像してフィーネはぞっとする。

 火を消して皆が眠りにつく。激しい雨音は子守唄のように聞こえて不思議とすんなり眠ってしまった。

 明朝、雨があがったことを確認してから出発した。足元が濡れておりフィーネは何度も滑りかけた。たっぷり時間をかけて山頂までたどり着いた。太陽は真上にある。どうりで足がくたくたなわけだ。眼下には壮大な森林とその先に輝く水平線、海が見える。やっとジュビア森林が見えた。

 皆がほっと息をついたとき、空中から勢いよく降下してくる物体に誰も反応できなかった。その物体はばっとフィーネの襟首を掴み上昇する。フィーネは訳がわからず自身を引っ張りあげる存在を確認すると、なんと魔物であった。

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