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「誰か!誰か助けてくれ!!」
ジュビア森林に向かう道にて、前方から男が慌てた様子で走ってきた。エレツは馬から降りて男に駆け寄る。
「どうした?」
「この先の俺の住む村が、魔物に襲われてるんだ!頼む、助けてくれ!」
藁にも縋る勢いで地面に膝をつけて懇願する。エレツは振り向き、皆を見る。三人と二匹がそれに首肯したのを確認してから再び馬に跨がり、腹部を足で蹴った。
「私たちが向かう!君は安全なところまで逃げなさい!」
馬を走らせると前方に村が見えてきた。煙と人の叫び声があがり、建物は半壊になり悲惨な状況だった。フィーネはディエス村が魔物に襲われたときの光景が頭を過った。あのときと同じ状況だった。
「フィーネは安全な場所に…」
「私も戦うよ」
エレツの言葉を遮る。その瞳は凛として決意に満ちていた。
「あたしがフィーネの傍にいるわ。村人の避難と救助を優先してやるの。エレツと兄さんは魔物との戦闘をお願い。これならいいでしょ?」
エレツとファムは了承する。フレイヤがフィーネにウインクをした。気を遣ってくれたようだ。
私だって毎日特訓したんだもん。役に立ってみせる!
村の入り口までやってきて馬を降りる。エレツとファムは抜刀し、村へと入っていった。フィーネとフレイヤは近くにいた村人から救助に向かう。大怪我をしていた人はフィーネが治療をしてから避難させていた。アースとルブリムは避難した村人の周りを飛んで守っている。彼らの体は小さいが竜のため、力もただびとよりある。アースは土を自由に操れるし、ルブリムは火を吹くことができる。村人の避難場所に申し分ない。
今回は猫のような姿の大きな魔物と空を飛んでいる魔物がいた。フレイヤはフィーネの傍から空を飛ぶ魔物目掛けて火の矢を放つ。射たれた魔物は炎を燃え上がらせながら次から次へと落下していった。
「フレイヤ、この人、瓦礫の下敷きになってて助けられないの!」
「命に別状がなさそうならここの魔物を一掃したあと、村人たちを呼んで一緒に瓦礫をどかしましょう」
ヴヴヴッという唸り声ではっと視線をあげると魔物に取り囲まれていた。フレイヤはすかさず周囲に火を放つも半分以上避けられてしまう。猫のようにしなやかな動きで火の矢も思うように当たらない。仕方なく手から炎をだし、細長い槍状へと変化させ接近戦へ持ち込む。フレイヤの動きは軽やかで次々と敵を凪払う。まるで踊っているようにしなやかで美しい。しかし隙間を縫って一体、魔物がフィーネに襲いかかった。
「フィーネ!」
フレイヤの焦った声が響く。
光の竜の乙女としてどう力を使うか、ずっと考えていた。フレイヤには剣などの武器状にして戦うのもありだといわれたがしっくりこなかった。魔物を浄化し、癒すことと戦うことは対極に思えて。ならばどうするか。包み込めばいいのではないか、と考えた。
お母さんに抱き締められるとあったかくなるもんね。
痛くないよ、と大丈夫だよ、と。彼らを包み込み、癒すのだ。光ってそういうあたたかさがある、きっと。
フィーネは飛びかかってくる魔物へぱっと手をかざして光の玉を出す。その光から無数の布のような形状の光を魔物へと伸ばした。光の布は魔物にぐるぐると巻き付く。魔物はもがくもののやがてしん、と静まり返る。ゆっくりと布が開かれていくと中から包んだ魔物よりはるかに小さな猫が現れた。そっと地面に下ろしてあげる。猫はもう息をしていなかった。
「フィーネ、怪我はない?!」
慌ててフレイヤが傍へと駆け寄る。辺りを見回すとあれだけいた魔物は全てフレイヤが対処したようだ。顔に返り血がついていたため光をかざして浄化する。
「大丈夫だよ。それより見てた?私が光で浄化するとこ。どうだった?」
ほめてほめて、と尻尾を振る犬みたいにフレイヤを見つめる。ふふ、と笑ったあとすごかったわ、とフィーネの頭を撫でた。
それからフレイヤは懐から結晶を取り出し、瓦礫に埋もれた男に渡した。
「あなた、結晶を貸すからもう少し辛抱して。他に生存者がいないか、魔物がいないか確認してから戻ってくるから」
男は力なくこくりと頷いた。受け答えはできるようでほっとする。
それから村の中を探して回るも村人は皆逃げた後のようで誰とも出くわさなかった。魔物も死骸のみで遭遇することもなかった。エレツとファムがほぼ退治したようだ。一通り見終わるとエレツと合流できた。
「こっちは粗方片付いた。ファムは後処理をしている。二人とも無事なようで何よりだ」
「エレツ、瓦礫の下敷きになっている人がいるの!手伝って!」
フィーネはエレツの手を取り、駆け出した。フレイヤもそれに続く。
目的の場所までやってきて周囲を確認し、エレツは倒れている瓦礫を軽く持つ。重さや積み重ね具合を確認しているのか、じっと観察して動かなかった。
「…よし、二人とも下がってるんだ」
言われた通りフィーネとフレイヤが下がると、エレツは瓦礫に手をかける。数秒後、瓦礫の下から土の柱が天に伸び、瓦礫を支えた。瓦礫が安定し、危険がないことを確認してからさっと怪我人を助けて土の柱を消す。村人の状態を確認したが幸い大きな怪我はないらしい。
ちょうどファムが返り血まみれで戻ってきたため血を浄化した後、彼に村人を背負ってもらうことにした。避難した村人たちがフィーネたちを見つけると歓喜と安堵の声があがった。




