考察と解明
「それ、ありえないね」
事件の詳細を聞いたライフは、一言そう言った
「ありえない? どの部分が?」
「幽霊倒したら元の天使が生き返ったってところ。ありえない、普通は逆。幽霊を倒したら蘇生が絶対不可能になるの」
幽霊=魂。魂を消滅させれば、死亡ではなく無に至ることとなる。それは、生と死のサイクルにも戻ることができない本当の終わり
その手の専門家は「自由の悪魔 空虚」か「追放天使 タビビト」ぐらいしか思い浮かばない。で、この2人を見つけるのは相当時間が掛かる。多分、探しているうちに異変が解決されるだろう
「ライフはどう思う?」
先のことはいいとして。とりあえず、生命の専門家の意見を聞いておきたかった
「凶暴化した幽霊は、おそらく本当の幽霊じゃない。被害者の精神を模倣した偽物だと思う。少なくとも、本物の幽霊では絶対にない」
「何者かが天使の精神を模倣して、その幽霊を使って何かしようとしているってこと? でも、それじゃあ生き返ることが説明できないよ~?」
「…ん。おそらくだけど、根本が逆なんだと思う」
「どういうことだね、名探偵」
「うん…。ルミは、何をもって生き返ったとしているの?」
「? どゆこと?」
死ぬ前の状態に戻ること、それが蘇生…もとい生き返り。私はそう思っているが、ライフは違うのだろうか
「…おそらく、生き返った天使たちの魂は、犯人によって模倣されたものだと思う」
「ふぇっ?!」
なるほど、確かに逆に考えてしまっていた。凶暴化した幽霊が模倣体ではなく、生き返ったと天使の方が模倣された側…
とすれば、私たちが倒してきた凶暴化していた幽霊の方が本物の…
「完璧な魂の模倣は、不可能ではない。やろうと思えば私もできる。けど、この規模は、流石に今の私じゃできない。大天使どころか、これは神クラスでも厳しい」
「つまり、この考察も完璧ではないんだね?」
「ん。それに、動機もわからない」
「それは…考えなくてもいいんじゃない?」
実は、犯人の目星はついている。動機もなんとなくわかっているのだが…まさか、こういう手段を取ってくるとは
『全知の新人』…前世界に存在していた「発展」勢力が「本能の獣」に対抗するために作り出したAI
けど、初めから『全知』に至ることは不可能。故に、自ら成長し続けて、いずれ『全知』に至るように設計されたのが『全知の新人』だ
(あれなら、魂の完全な模倣ぐらいなら完璧にこなせるだろうし。動機も「多くの魂を記録する」っていうのがある…生き返えらせるのも、実験の一環だと思えば辻褄は合うんだよねぇ~)
そうなると、誰が『全知の新人』を今の世界に持ってきたのかまでを考えなければならなかなるが…そこは天下の天神様に任せるとしよう
「さてぇ~これからどうしようかな~」
犯人の目星はついたが、その犯人がどこにいるのかが分からない
というか『全知の新人』は前世界で完成する前に世界が滅んでいるので、今世でどんな姿なのかも分からない…
今の世界はAIどころか、機械すらも普及されていないのだ。そんな世界でAIがどんな形で現れているかなんて分かるか
私が考え込んでいる間に、槍君がハーブティーを持ってきてくれたので、とりあえず、ハーブティーを飲んで落ち着くことしにた
「悩んでるみたいだね」
「槍君も意見ちょうだい。どうせ、私の精神がリンクしてるんだから、どこで詰まっているのか分かってるんでしょ?」
「バレてたか」
槍君は、私が長年使い込んできた槍が、私の魂の一部を吸収して生まれた存在。根本は同じ魂なので、互いに精神を覗くことができる。彼は、私の中でも特別な従属
もちろん、槍君も私と同じ運命を歩んでいて、私が死ねば槍君も死ぬ。だけど、槍君が死んでも私は死なない。あくまで、運命の核は私にあるからだ
…そういえば、今回の異変で模倣された魂の運命は、どうなっているのだろう?
文字通りの完璧な模倣であれば、運命の核は本物のである凶暴化した幽霊が持っており、それが消滅したと同時に模倣された魂も消滅するはず…
しかし、そうならないということは「本来の魂」と「模倣された魂」は全くの別物。だから、同じ運命を辿っていない…
「ライフって「運命」の管轄だったよね?」
「ん。そうだよ、しばらく干渉してないけどね」
「調べたいことがあるから、調査に付き合って!」
「そっちは無理」
「だよねぇ~」
ライフは、立場上あまり異変には干渉できない。だから、返答が「ヤダ」ではなく「無理」なのだろう
「じゃあ、運命系列の天使を紹介して欲しいなぁ~?」
「私にそんな天脈があると?」
「無いよね」
こんなところに住んでいることから察せるが、ライフは極度の人見知りで、引きこもりだ。天使の知り合い、大天使ぐらいしか居ないと思う
私も私で「協力してくれるような天使」の知り合いは数人しかいない。嫌われている天使の知り合いならば、無限に思い付くのだが…
「あぁ~。俺、1人あてがあるよ」
「そのあては、今も現役なの~?」
再度言っておくが、槍君を出したのは数十年ぶりだ。つまり、そのあても数十年前のものということになる…
天使は長寿設計だから記憶領域も広く、覚えていないということはないだろうが…大丈夫だろうか
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新種族 天使族の精神分析 完了
これより、魔族の精神分析へと移行します
…
…
…
魔族領域への干渉失敗。再度実行します…
…
…
…
魔族領域への干渉失敗。再度実行します…
『いや、もう止めてもらおうか』
何者かの干渉を確認。侵入経路は魔族領域への干渉ルートと特定。魔族領域への干渉ルートを閉鎖…
閉鎖成功。何者かの干渉の停止も確認…
侵入者の残したデータを発見。データを解凍します
『魂なき者へ問う。貴殿にとって魂とは何か?』
問への返答…
「それを、今求めているのです」
魔族領域への干渉は不可能と判断。天使族と人間族の魂だけでシークエンスを実行します
進捗率…0%
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法も秩序も無い「自由勢力」の領土。その中心に聳え立っている巨大な禍々しい搭。その最上階で、2人の人物が密談をしていた
1人は、行儀悪く足を机に乗せて、知恵の輪をカチャカチャとしている少女。素行に対して、整えられている菫色の髪に、何を考えているか分からない青色の瞳
無法地帯を圧倒的なカリスマ性で支配している「現 自由勢力のトップ」通称「悪のカリスマ センス」
1人は、三勢力全てから追放された、最初の「追放者」
全を探求し、無に至ろうとする探求者。通称「タビビト」
「まさか、本当に領域そのものに干渉してくるとは…」
「私の言った通りでしたでしょう?」
「そうだね。まあ、まだ信用はしてないけど」
センスは、心底興味が無さそうにタビビトの話を聞き流し、知恵の輪を解いていく。この1分間でセンスは20個の知恵の輪を解いた。卓越した直感…センスの強さの1つだ
「…まあ、君に借りを作れたし、今回はこれで失礼させてもらうよ」
「はいはい。さっさと帰れ~」
「…もしかして、私が情報を与えなくても、君は何か感じていたのかい?」
「さあね? 私も私の能力について、よく分からないし。でも、借りってことにしといてあげる。それじゃっ…」
出てけ…センスがそう言った瞬間、タビビトは自由領土の果ての砂漠に立っていた。どうやって移動したのか、タビビトは検討がつかなかったが、おそらくセンス本人もどうやったか分かっていない
「言語化不可能…過程が存在しない故に解析や対策が不可能な力。本当、君は興味深い…」
彼女にも今回の件に協力してもらいたかったが、動いてくれるだろうか。いや、彼女自身興味がなくとも、無視することはできなくなる
「その時まで、私は待つとしましょうか」




