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在りし日の思い出 Ⅲ


「…ろ」


誰かが私の肩を揺らして起こそうとしてくる


「し…、…ろ」


段々と揺れが強くなっていき、私は目蓋を開く。もちろん、私を起こそうとしていのは赤い髪で口下手な少女、赤音だった


「あっ、白起きた」


気づくと帰りのホームルームは終わっており、周りのクラスメイト達は続々と教室から去っていく

去り際、私に手を振ってくれる生徒もちらほらと。()()()()を起こしてから、周囲の環境が変わっていった。もちろん、良い方へと


私も私で、赤音以外の生徒とも交流をとってみたりしてみた。結果は良好。話によると、一部では私のことを「英雄」と呼ぶ声もあるらしい。「英雄の里」出身の天使としては花が高いが、本物たちに比べたら、私なんてまだまだだ。英雄の「意志」だって使えない


だが、それでも、赤音を救い、私が普通の学園生活を送れるようになった。それだけでも、十分頑張った甲斐があったのだと思っている


「白…遊園地に行く」


その赤音の唐突な発言によって、私の思い耽りは消し飛んでいった。遊園地?


「え、いきなりだね? いつ?」


「今でしょ」


「え?」


ということで、私たちは学校帰りに遊園地に行くことにした。幸い、私も赤音も1人暮らしなので、門限を気にする必要はなかった



遊園地は休日とはいえ、かなり混んでいた。私たちと同じ、学校帰りの学生や子供連れの親子、デート中の恋人が遊園地を埋め尽くしていた


しかも、この遊園地は『平等』と『平和』を掲げる「人神」の作り上げた聖域でもあり、この空間内では「神秘」の力が押さえつけられるらしい。私はなぜか、まったくそんな気がしない


「到着。早く行こ」


今回、赤音が遊園地に誘ってくれたのは、例の一件でのお礼ということで、遊園地のファストチケットを用意してくれたのだ。本当、良い友人と出会えた


ちなみに、私と赤音以外にもう1人、私たちの共通の友人が付いてきている


薄ピンクの髪をワンサイドアップにし、薄めのメイクにも関わらず天性の美貌でカバーしている少女


校則をガン無視し、制服にフリルをあしらったりして改造している、ちょっと頭のおかしい天使。まあ頭はおかしいが、私に悪意無く話しかけてくれた、たった2人の内の1人だ。ちなみに、もう1人は赤音である


彼女はルミ。学園に入学してきた最上位天使である


何故…と聞かれても、私には答えられない。だって私も入学理由を知らないから。というか、コイツが何を考えているか、まったく読めてこない。が、こういう風に遊ぶときは、基本真面目に楽しむタイプなので、そこは安心している


彼女の呼ばれた理由ももちろん、例の一件で大いに活躍してくれたからである。だが、まあ、それを抜きにしても、赤音ならばルミのことも誘っていただろうが


今回の遊園地、1番興奮しているのはルミであった。ルミは私と赤音の手を取りグイグイと前に進んでいく


「とりあえず進もう! 私、絶叫系乗りたい」


最上位天使が絶叫するレベルのアトラクションなど存在するのだろうか...?

いいや、きっとそういうことではなく、ルミは雰囲気で叫びたいのだろう。私も同じだからよくわかる。赤音は武闘派ではなく後方支援なので、普通に叫ぶ…というより、無言で耐えようとする


そして、実際にそうなった。私とルミはジェットコースターの最前列で手を離して楽しみ、一つ後ろで赤音から魂が抜けていた


その後、1人1つ、それぞれの乗りたいアトラクションにみんなで乗って、パレードの時間になるまでは園内のカフェで時間をつぶすことにした


「2人とも、来週の試験の自信はいかほどかな~? ちなみに私は余裕で自由なのだよ」


煽るような口調でルミがそう言う。しかし、私と赤音は真顔で反応してやる


「うん。ルミは凄い」


「私たちはルミの凄さを実感してるから、別に嫉妬とか妬みとかは…ちょっとしかしないよ?」


私だって半分は人間だ。人として当然な()()()()感情ぐらい持っている


「ちょっとはしてるんじゃん。ふへっ…」


なぜか嬉しそうなルミ。人気者の思考はわからないものだ


「で、試験だったよね。んー…実技と歴史は余裕だとして、術式構築も詠唱構築もできるし、私も問題はないかな…」


勉強はキライではない私にとって、試験は大した壁ではない。何だかんだ余裕で跨ぐことができる


しかし、私にも不安要素はある…それに私は目を向ける。彼女はいつも通り、ボーッとした目でこう言った


「ところで…試験って、来週なの?」


「「…」」


先に言っておくと、別に赤音は頭が悪い訳ではない。むしろ、学園の中では優秀と言っていいほどの才女でもある


彼女はただ、とんでもなくマイペースなだけなのだ。自分の定めた目標以外が目に入らなくなってしまうタイプなのだ


「赤音、また忘れてたんだ~。あるよ、来週の真ん中らへんに4科目」


「そうなんだ」


「相変わらず表情が薄い~。可愛く焦ってみせてよ」


「今まで何とかなってきた。だから、今回もどうせ何とかなる。未来の自分に期待」


「未来の自分への他力本願?!」


「はいはい、赤音は今週末空けておいてね。いつもみたいに勉強教えてあげるから…」


別に今回が初めてという訳ではない。過去三度の試験で赤音は3回ともこうだった。そして、今回もどうせそうなのだと思って、ルミはこの話題を振ったのだろう


3人で、やけに高い飲み物をすすりながら、何の変哲もない学生の会話をする。これだけは、どれだけ環境が変わろうと失いたくない、少なくとも私はそう思っている


この2人は、私にとっての初めての友達…親友なのだから


----------------------------------------------------------------


…少し、ボーッとしてしまっていた



光が無いはずなのに、仄かに明るい地下鉄のホーム。赤音のような影を追いかけて、私はここにやってきた



しかし、ホームのどこにも赤音の影はなく。駅の中はゆらゆらとした静寂に満ちていた



「おそらく、線路を歩いて行ったのね。早く追いましょう…白姫?」


…勘違いだろうか、さっきからずっと、近くに赤音を感じるのは…いや、勘違いなのだろう


「了解、それじゃあ行こう」


ホームから線路に降りて、上り方面へと歩いていく。なにかに導かれるように、淡々と前に進み続ける…





さっきからずっと、意識が霞んでいる。分かりやすく言うならば、眠くて意識が遠退いていく


無理をしている訳ではない。この程度で眠くなるほど、私は人間を残していない


しかし、そうなると何かしらの「能力」ということになるが、今も白姫は「否定」を纏っているため、能力は効かない…


何なのだ、この眠気は。何なのだ、この心地よさは。何なのだ、この()()()は…


ここが危険な場所という感覚が変わっていく。()()()()()()()が、ここを安息の地だと思っている


前方から足音が聞こえる。誰かくる、誰かがくるのに…警戒心が機能しない。この感覚の出所が「本能」だから「否定」が機能できない


足音が近づいてくるが、うまく集中できない。そんな時、天否から預かった「シア」の宿る指輪が光出した


「白…姫! 天力、借りるわよ」


指輪から光が溢れだし、人の形を成す。赤紫髪で頭から角が映えている小悪魔…それが、私目の前に現れて…私の唇を…奪った


「…っ//」


瞬間、意識がハッキリし警戒心がマックスまで高まった


「白姫には権能は効かない。だから、直接的な手段で「魅了」させてもらったわ」


さっきまでの状態は、周囲が安息の地だと思えていたのが原因だ


その「環境」を「本能」が認めてしまった…私自身がそう心から思ってしまったが故に「否定」できなかった


そこで、シアは私を魅了して、周囲を見えなくした。今もキスの感覚が残っているお陰で、シアの事を本能から意識していて、安息感が下記消えている


「今の私にできるのは、これぐらいね」


そう言い、シアは指輪へと戻っていた。私はゆっくりとこちらに近づいてくる足音を警戒する


しかし、暗闇から現れた生物に私はキョトンとした


「もきゅ?」 「ぴゅー?」


「かぁーく?」 「わうわ!」


フワフワでモコモコな可愛さを集約したような小動物たち。私のことを見て、不思議そうに首を傾げている


それでも私は警戒心を解かない。だって、聞こえていたのは「足音」はこの子達のものではない。まだ奥に、誰かがいる…



…………………………


…………………


…………


……



目の前に…少女が立っていた。小柄で、子顔で、モコモコのマフラーを巻いていて、まさに「小動物のような少女」だった


他の小動物たちは、すでに私を通りすぎていた


この少女は、いつから前に立っていた? 

なんで、私は…いや、違う! この少女は…


少女は私の顔をじっと見つめる…そして一言「変わらないね」と言い残し、私の横を通りすぎた


「っ…はぁ、はぁ」


呼吸を止めてしまっていた。それがどういう感情でなのか、私にはわからなかった。見惚れていたのか、恐怖していたのか、その両方か…


確かなことは、あれが大敵だということだ。もしも、あれが今回の異変の根幹に関わっているのだとしたら、これは簡単な話じゃなくなる



私は彼女を「小動物のような少女」と称した。それら、彼女の雰囲気や見た目が小動物のようだったから。だから、違和感を感じにくかったのだ。彼女の頭から生えていた…ウサギの耳に


獣の耳が映えているぐらいなら、獣人や天獣など多く存在しており不思議はない。しかし、この少女から感じた「神秘」は「天力」でも「魔力」でもなかった


あれからは「自然」そのものの匂いがしたのだ


そこで、私は気がついた。最初は「ありえない」と否定したが、私の身体に刻まれたものが、それを証明してくれた


「自然の精霊」にして「本能の化身」

世界の「秩序」を踏みにじり、誰かの「自由」を奪い殺し、世の中の「平成」を破壊する怪物


創世記の際に「平和」「秩序」「自由」の三大勢力が手を取り合い、滅ろぼした神々の大敵…『本能の(ビースト)


彼女の特徴は、創世記に登場する5匹の獣のうちの1匹である「霊獣」と一致していた


しかし、霊獣は創世記に、大天使2人と大魔族2人が協力して殺されていたはず…


わからないことだらけだが、こういうのを考えるのは天否の役割だ。それに、今は赤音の方が優先だ…そう思うことにしよう


私は振り返らずに、進み続ける…

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