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虚偽の天使


真夜中の街中、わたしは全力で追っ手から逃げる

口封じは完了した。奴らは暗部だ、情報を抜き取ることに特化した奴は必ずいる。彼の名誉のためにも殺すしかなかった


唇を噛みしめる。敵を殺すのは平気、だが見方を撃つときは体中が冷たい何かに締め付けられる。今だって体の震えを無理やり押さえつけて走っている


追っ手は...別方向に向かっている。見失ってくれたのかもしれない、そんな希望的観測をしてしまう。まだまだわたしは子供っぽい。相手も本物だ、この程度な訳がない


はらね、やっぱり見つかった。そういう()()が見えてしまった


だけど、まだ逃げられる。未来を見たことでその未来を変えられる


別の道へと進行方向を変えて、本来鉢合わせるはずの道から距離を置く。これで、少なくともあの場で戦うこととなる未来は変えられ…


そう思った瞬間、わたしを追っていた暗部の女が横道から現れた


「なっ、貴様!?」


おかしい、おかしい、おかしい。さっき見た「鉢合わせる未来」の場所からは距離がある。それなのになんでコイツはここにいる


「この程度の隠密じゃ、私からは逃れられないよ」


そんなのは分かっている、そもそもわたしはそういうタイプじゃないのだから感知されることは分かっていた。わたしが気になるのは、見えた未来とは別の場所に彼女が現れたかだ...


だが、その疑問は後回し。いまはこの場を乗り切らなければならない。近接戦は苦手、だから一旦隙をみて距離をとる。わたしの「眼」なら相手の未来の隙を事前に観測できる


しかし、覗いた未来は相手の隙ではなく、両断される自分の姿だった。その斬撃を見切ることはできた、だが、それを避ける速さを私は持ち合わせていない。ならば、斬られること前提で生命力を断面となる部分に合わせておく。あとは部下達を信じよう…


「竜式剣術 白線」


白い線が私の身体を両断した...そこから先は、気を失うまで「痛い」ということしか覚えていない


----------------------------------------------------------------


「倒せた…ね」

敵は脳天を貫かれ、そのまま地面に倒れる。さっきまで放たれていた結界全体を覆い尽くすような圧倒的な気配はもうない


見掛け倒しで本当によかった。気配通りの実力者であったのなら、今の私では勝てなかった


わたしはその場に座り込んだ。しかし、気配に恐怖していた訳ではない。これでも、つい最近上半身と下半身が繋がったばかりで、体力がガタ落ちしているのだ


「お嬢様、大丈夫でしょうか?」


鳥の獣魔人が肩を貸してくれた。普通、自分より若い奴に上に立たれるとムカつくものだと思っていたが、デッドギャングの皆はわたしのことを慕ってくれている


「ありがとう。とりあえず、部屋まで送ってくれますか」


「かしこまりました。それでは…」


「…?」

身体が右に片寄った。とっさに足を動かして転ぶのは阻止したが、肩を貸してくれていた鳥の獣魔族の姿が消えていた


刹那、赤黒い何かがわたしの目の前に落下してきた。いいや、わたしはそれがなにかを理解できていた、しかしそれを認めたくなかった


「…っ!!」


赤黒いグチョグチョの中には、臓器や剥き出しの骨、歪に混ざりあった指や目…そして鳥の羽が散りばめられていた…目の前に落ちてきた肉塊は…さっきまで肩を支えてくれていた鳥の獣魔人だ


他の部下たちも動揺しており、わたしの方に駆け寄ってくる。恐怖と不安の面持ちで


そして、わたしの背後から声が聞こえた


「ギリギリセーフ。なんとか間に合ったよ」


その声を聞いて、わたしは即座に振り返りマスケット銃の引き金を引いた。しかし、その弾丸は暗闇へと消えていった


「うーん…」


再度、背後からの声。今回は部下達にあたる可能性があるため、即座には撃たず振り返るだけにした


そして、ようやくその姿を確認した。毛先が無数の色に染まっている白髪の少女。静かな気配ながら、そのカラフルな毛先からはいくつもの天力を感じる


この混沌地点に捕らえられていたヨーロッパに居る最後の秩序の天使…怪盗と名乗ってはいるが、その正体は…


最上位天使 第2位 反転の大天使 リバーサル


秩序の天使のNo.2にして、創世記から存在していた正真正銘の神話を生きた天使だ


部下が錯乱して彼女へと攻撃を放つ。ダメ、それはダメ。全回のわたしでも彼女には勝てなかった


「…ダメ!」


パチッン、と指の鳴る音が響いた。そして、彼女に攻撃を仕掛けた魔族は…全員肉塊へと変貌していた


「あ…あ」


やはり、あれを相手するには、彼女と同じ神話を生きた大魔族じゃないと相手にすらならない


しかも、神話の大魔族であるレフレクシオンさんですら、彼女を捕らえる際には「交渉」を使っていた。それほどまでに「相手にしてはいけない相手」なのだ


それを、この惨状を目の当たりにしてようやく理解した。わたしがいかに重要な役割を担っていたのかも


「動揺…いや、恐怖してるみたい。それと後悔…かな。その手の色は、やっぱりよくわっかんない」


「…っ!」


わたしはグラグラな感情で目一杯の憎悪を込めた目でリバーサルのことを睨んだ。もちろん、わたしの眼の力も込めて


わたしの『眼』は特別な力を宿している。端的にいうと『全能』を宿している。未来を見ることも、見た対象を破壊したり石化させたりなども可能。情報を抜き取ることも、洗脳も、物質構成も、強化も、思い付く限り何でもできる


だが、もちろん弱点も存在する。というより、使い手であるわたしがこの眼を制御できておらず、2つの力を同時に扱うことができない。そのため、過去を見て、過去の物を破壊して未来改編…のようなことが今の時点ではできない


そしてもう一つ。この力では自身に対してできることが極端に少ない。鏡で自分を見続ければ可能ではあるが、この力の本質は、あくまでも『相手を見る』ことなので自身への強化などができない


だが、それでも「極眼の大魔族」と呼ばれて、神話が終わってから生まれた唯一の大魔族として囃し立てられて、神話を生きた大魔族の方々と肩を並べられた


だがやはり、本物とは格が違う。それを痛感している


「無駄だよ無駄~」


リバーサルは本来の権能の解釈を拡大させて、2つの権能を扱える兼能(ケンノウ)となった。これは、世界でもリバーサルしか成しえていない偉業


リバーサルの権能の1つ目は、あらゆる場所を転移させることができる『座標転移』 神話の時代、リバーサルはこの権能を使って、よく逃亡をしていたらしい


そして2つ目の権能にして、彼女の持っている本来の力である『反転』 文字通り、反転させることができる力


『生』を『死』に、『均等』を『格差』に、『平常』を『異常』に…どれだけ準備を整えようが、この力の前では意味をなさない


部下の無惨な姿の正体は、リバーサルの『反転』によって『生』から『死』へと反転させられ『整った生命体』から『歪な死体』へと変えられたのだろう


わたしの破壊の眼も『見られている』を『見られていない』という解釈にして、反転させて防いでいる。今のわたしの身体では近接戦も逃走も不可能…どうやら、詰みのようだ


まぶたがゆっくりと降りてきて、ため息が口から吐かれる。悲しみはない、これも一種の天からの厄災とでも思うことにしよう


「なんか、解せない」


そんな言葉が聞こえてきた。わたしの何が解せないのだろうか。わたしは一言も彼女と話をしていないのに


「敵を殺すのには慣れている、これはわかる。だけど、なんで味方が死んだときは酷く動揺していたの?」


何を言っているのだろう。それの何に疑問がある、味方は味方で敵は敵…それだけじゃないか


「なるほど、そういう考えなんだ。確かに…それは魔族の考え方だ」


…そう。わたしは魔族だ。『自由』の魔族だ。命の価値をわたし基準で考えて何が悪い。殺すべき相手に価値は必要ない。自分を慕ってくれている者たちには価値がある


それが普通だ。それが自由だ


「まあ、『秩序』の天使としてはどうかと思うけど…私はそういう考えは嫌いじゃない。だってそれが正しい形だから。わからないのはそこじゃなくて、なんで君は()()()()()()()()()()()()()と思っているかだよ」


「…」


「思考も言葉も無回答。もしかして無自覚だった? まあ、今日のお喋りはここまでにして、私も約束を守らないと…」


リバーサルは金星の死体に触れて、その状態を反転させた。頭の傷口はふさがり、金星が頭を抱えて起き上がる


「なにが…」


「リアルで出会うのははじめまして。私が怪盗さんだよ! ということでさっさと出入り口に案内して」

 

「いや、まずは状況を…」


「い・い・か・ら!」


金星の背中を押して、リバーサルは洞窟の暗闇へと消えていった。彼らを追う気力も力も、いまのわたしには無い。部下は皆、死んだのだ


しかし、彼女の姿が見えなくなったとき、1つの思念と共に指の鳴る音が聞こえてきた


(仲間と離ればなれになって寂しくて気力がなくなるなんて子供でちゅね。でも、私の好感度下げたくないから、皆を戻しといてあげたよ! 他じゃこうならないから私への好感度を高くしといてね)


半信半疑で顔を上げて鳥の獣魔人の方を向く。すると、獣魔人だったものは…獣魔人に戻っていた


「…ぁっ」


か細くか弱い声を出し、弱い足取りで獣魔人に近づき彼の肩に触れる…そこには生命の温もりがあった…


「お嬢…さま?」


「…あっ…ぁぁ…」


眼から涙が溢れ出した。そして、わたしは見た目相応な子供のように、獣魔人に抱きつき、胸元に顔を埋めて泣きじゃくった…


他の部下たちも全員生き返っていた。リバーサルのことを厄災と表したが、意外と優しい天使だったのかもしれない


----------------------------------------------------------------


金星とリバーサル(怪盗)はそれなり疾走で出入り口へと向かっていた。それと平行して、金星はさっきまでの出来事をリバーサルから聞いていた


「なるほど、お前が大天使の2番手ならばユリーノの救出に関しては安心できるな…」


「意外と平静なんだ。もっと動揺すると思ったのに」


「いや、動揺はしてる。凄くしている。最上位天使第2位ってことは、リンナさんと殺り合ったあの「天災の大天使」よりも上ってことだろ?」


「あの戦い、派手だったから覗き見してたけど。リンナは普通に手を抜いてたし、あいつって今は不完全の状態なんだ。だから、マジでやっていたら星が吹き飛んでたかもね」


「それよりも強いんだろ、お前」


頭が痛くなるようなことだが、金星はそれ以上にユリーノのことで頭がいっぱいだった。混沌地点の中は時間の流れが変わっているらしいが、それが加速なのか減速なのかは外にでなければわからない


金星たちは1秒でも早くユリーノと合流することが、彼女の命に繋がる


「にしても、いい性格してるな、お前」


「さっきのあれ(蘇生)のこと? 優しさだよ、優しさ」


「やってることがDVのそれなんだよ。絶対狙ってやっただろ」


あの大魔族は、無惨に殺された仲間をリバーサルが蘇生したため「実は優しい?」という疑問の種が生まれた

リバーサルは最初からそれを狙っていた。わざと無惨な殺しかたをして恐怖と絶望を与え、精神を不安定にする。その状態で自作自演の希望を与えて、大魔族の好感度を高めた


プラマイでいえば大魔族はマイナスでしかない。そして、大魔族はリバーサルに疑問の種を植えられた、あれは本当の戦場においてかなりのデバフになる。しばらくはそれが彼女の課題となってしまうだろう


そんなことを思っているうちに、出入り口は目と鼻の先にまで近づいた


「外の気配…もうすぐ?」


「ああ、もう到着だ」


出入り口のはしごが視界に入る。リバーサルは走る速度をあげ、金星を置いていく。金星も全力でついていこうとするが、追い付けない


「先に行ってる。まあ、任せといて」


「…もう、信じるしかないからな。頼んだぞ」


「そっちも500000000円、忘れないでね」


そう言い残してリバーサルはさらに速度を上げて、出入り口から外へと出た。ここからは、もう彼女に任せるしかない


少し不甲斐ないが、自分にできることはここまでだ。そう思いつつも、金星は唇を噛んでいた


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