信じなければ始まらない
金星や月の師匠は中国の「名の無き双子」の仙人で、その仙人の仙境で修行を積んでいた
仙人に修行をつけてもらえるのは、対天使局内でも選りすぐりの才能を持っている者のみ。1年に1人いるかどうかの幻の枠、それに金星…と呼ばれることとなる少年、フカが選ばれた
最初は名持ちの天使…それもセフィラを持つ天使と契約しているから選ばれたのだと思っていた。自分の能力が戦闘向けではないと知れば切り捨てられると思っていた
他の人間と同じように、勝手に怖がって、勝手に敵視しする…そんな結末だと思っていた
しかし、現実は逆だった。仙人(兄)はフカの能力を気に入ったのだ、人の記憶を覗くような能力を。それを知って、最初、少しだけ仙人のことを侮蔑に思ってしまった…自分にこんな自虐性があるなんて知らなかった
仙人(兄)の修行の内容は隠密に関するものが多かった。気配遮断、精神統一、自然同化、これらの技術は権能が『調和』ということもあり簡単に習得することができた
習得した3つの技術は、どれも人にバレないようにする技術であり、フカはこれらを使って人と関わらないようにしていた。そのせいというか、おかげというか、暗部としての技術は早い段階でかなり上達していた
ある日のこと。フカは修行の一環として仙人(兄)と鬼ごっこをすることとなった。そして、鬼から逃げている途中で彼女のことを見かけた
ユリーノ、フカと同じタイミングで仙人に選ばれた中学生程だった少女。後に聞いた話だが、ユリーノの容姿と精神の成長は100年前に止まっており、半永久的な寿命を持っているらしい
そんな100年以上生きている竜人の相手をしているのは、もちろん1000年以上生きている双子の片割れである仙人(妹)であった。彼女は息の詰まるようなユリーノの猛攻を‘‘うんうん‘‘と頷きながら軽くいなしていた
「はぁはぁ…」
やがて、ユリーノは息を切らしてその場に座った
「無理だよ! 師匠強すぎるんじゃないかな?!」
その叫びにフカは激しく同意した。仙人(兄)の方も、どれだけフカの気配遮断技術が上達しても関係なく場所を見つけてくる。ほんとう出し抜ける気がしない
そんな仙人と鬼ごっこをしていることを思い出して、フカはすぐさまその場所から去った。隠れポジでもない場所に止まるのは鬼ごっこでは死策も同然だ
ユリーノの方もフカのことに気がついて二人は目があった。その時、互いを初めて認知した。ユリーノのとの出会いはまだ少し先の話になる
いつも通り、修行の一環で仙人と鬼ごっこをしていると、見慣れない顔の少年が仙境をさまよっていた
普段ならば無視をする。だが、少年の方からフカに話しかけてきたのだ。鬼ごっこ中で気配を遮断していたのにも関わらず
「やあやあそこのお兄さん。仙境からは下界が見えないってマジなんだね」
「ん…ああ、そうだな。確か、下界が見れない代わりに下界からも見えなくなっているらしい」
「なるほど、やっぱりそうしてるんですね…脳内メモメモっと」
少年の第一印象は「不安定な何か」だ
フカは調和という権能を持っている都合上、見るだけで相手の状態をなんとなく把握できる
そして、フカの目に写った少年の状態は、まさに不安定そのもの。精神が構成されているのが不思議に思えるほどの状態だった
そしてもう一つ、少年からは人間性が一切感じられなかった
その2つの情報から確信した。この少年は皮は人だが、間違いなく中身は別物だ。修行によって人地を越えた仙人や人類に適応した竜人と違って、彼には根底から人の要素がなかった
「やっぱり仙人ってすごい人達なんだな~、術を理解するのに10秒もかかっちゃったよ」
その発言に内心ビックリし、子供の嘘と信じなかったが。が、後にその少年が「最強」の1人だと知って、それが真実だったのだと理解した
「それで…ん? お兄さん、なんか悩みでもあるの?」
その質問を聞かれて、フカは目を見開き驚いた。もちろんそれは肯定を意味しており、少年はそれを見逃さなかった
フカはとっさに顔を背けた。悩みを知られることを恥ずかしく思えたからだ
「やっぱりだね。顔を背けても無駄だよ~」
「君には関係ない…」
「なるほど、なるほど。人間の善性が信じられないですね」
「?!」
少年の回答は的中していた。フカが他人と距離を置く理由は、自分が「認められない」という恐怖が理由だ。その恐怖の出所は「人間の善性」を信じられなかったから
人間は基本的に、表面的な善意で身を包み、中身は中立。本能と欲求の中に悪意がある。しかし、それでも人間の奥底には確かに善性が存在している。それを信じる勇気がフカにはなかった
「新しく何かを始めるには、その世界で関わる人間を信じるところから始めなければならないからね。強制的なものは気が楽だけど、バイトみたいな明確に自分の意思で始める時にはそれなりの勇気と覚悟がいる…」
「…」
「そんな深刻な顔をしないでくださいよ。人の善性が信じられないなら、俺がお兄さんにアドバイスをしてあげますよ」
その発言から、少年は自分に人間性がないことを理解しているのだと分かった。だが、他人のアドバイスでどうにかなる恐怖なら、自分で乗り越えられるとフカは自負していた
しかし、少年からのアドバイスはフカの想像していたアドバイスとは別ベクトルのものだった
「結局のところ、お兄さんの考え過ぎなんですよ」
「は?」
予測できていなかったアドバイスに声を出してしまう。フカはこの時、初めて予想を上回る回答を聞いた
「すべての問題は時間が解決してくれます、人間は否が応でも成長してしまう生き物ですからね…未来の自分に期待して、今の自分は今の自分にできることをやっていればいいんですよ」
「だけどそれは…」
それは逃げになる。そして1度逃げれば人間は何度も逃げ続ける。フカだって人間だ、そういう人間の悪いとこを持っているし自覚もできる。だからこそ、少年のアドバイスには受け入れがたいものがあった
フカはそう思った…そう思えた。だけど少年の言っている状態は、まさに今のフカの状態と同じなのだ。それをフカ自身が否定した
少年は間違っていると言いうのではなく、自分自身が今の状態を否定するようなアドバイスをくれたのだ
末恐ろしい、そう感じた。人ではないからこそ、人のことを客観的に理解しているのだろう
その少年は、為し遂げた感を出しながら、うんうん頷いていた
「『だけどそれは…』これがお兄さんの答えであり、思いですよ~。信じなければ何も始まらないんですから、さっさと自覚した答えを実行してみてくださいね」
「あ、ああ」
フカは、生まれて初めて他人に言い負かされた。しかし、そのことに妙に納得できていた。これも、少年の計算通りなのだろう。末恐ろしい
「まっ、アドバイスはこんなところにして…お兄さんに聞きたいことがあるんだけども…小さな女の子連れの大男を見てない?」
「…え?」
「実は現在進行形で迷子なんだよね~俺。それで連れてきてくれた人達を探してさまよっているんだよね」
意外だった。非人間的な少年がこんな人間的な困難にぶつかっていたとは予想だにしていなかった。だがフカには、完璧であろうとしない少年の在り方はまさに非人間的だと思えた
その後、少年を仙人の住み処まで案内をした。そこでフカは初めて仙人意外の指導者である「特別局員 光希海根」と出会うこととなった
「おう天否。また迷子かよ」
「心配だったよ天否君。や、やっぱ手を握ってた方が、よかったかな…//」
仙人の住み処にはガタイが良い大男と少年と同じくらいの背丈の少女が待っていた
「ごめん、ごめん。集中しちゃってて…」
あはは~、と言っている少年に少女は駆け寄って、プク顔でポコポコと肩を殴る。もちろん少年は痛そうにしていなかった
「む~、ほんとに心配したんだよー!」
少年と少女の仲良さげな姿を見て…その時にフカは「こういうの」に憧れを持った。そして、それがすべての始まりになったんだ
地球の誘いに乗ったのも、ユリーノとコンビを組むのを決めたのも、この2人の関係に憧れたから
だからこそ、神魔天否は恩人であり。彼と同じくらいあの少女にも感謝している
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魔族どもが圧に慣れてきてしまっている。着実に、確実に、魔族の腰が上がり始めている…
だが、もう調和の槍は結界の主軸に到達する。この戦いは勝利だ…と金星が思ったとき、その場に鳥の獣魔族がいないことに気がついた
彼彼女らにはそれぞれ役割がある。前衛が巨人、中衛が悪魔、後衛が魔人、だとすればあの獣魔人の役割は何なのだろうか。そんなもの、少し考えればわかる
鳥の最大の利点はその俊敏性。それは戦いにも活かすことができるが、もう一つ最適な運用方がある。それは…
情報伝達…
パーン!という音が洞窟内に響いた。そして、金星の脳天を一発の弾丸が貫いた…




