覚悟と竜の血
私は目が丸くなり、困惑し、思考が止まった
「なっ…?!」
私の白線は確かにパルファムの隙を突き、首を捉えていた。しかし、私の最速の刃は、突如乱入してきた男の魔族の刀によって止められてしまったのだ
「なるほど、これは強いな…」
魔族はそう呟き、私のことを弾き飛ばす
最悪だ、金星が命を賭けて掴んでくれた隙を無駄にしてしまった。申し訳なさ過ぎる…だが、そんなことを反省する余裕はマジで無い
この魔族、隙が無さすぎる…
青年と老人の中間ほどの顔に、落ち着いた声…それに、あの佇まいは間違いなく歴戦の猛者
いまの動きだけで剣士としては格上だとわかった、これだけの差を感じたのは師匠と地球以外では初めてだ
周囲が静寂に包まれる…隙がない者同士が戦うといつもこうなる
だが、今回は部が悪すぎる。相手は2人とも格上なのに加えて場所が敵の拠点のど真ん中…この状況が続けば応援がやって来てしまう、その中にまた大魔族がいたら、それはもうオワタだ
この状況で勝ち目はない。ならば、最も利益のある負け型を選ぶことにしよう。それを選ぶことができるぐらいには、私は強いと自負している
私が死んでも、金星だけは逃がす…!
足に目一杯の力を込めて、男の方の大魔族に斬りかかる
「白線!」
『白線』は私の持つ最速の居合術。しかし、男はその剣技を受けるでもなく、身体を傾け避けてきたのだ。そして、居合で生じた隙をつかれ、大魔族の魔力が込められた斬撃が私に直撃する
私は斬撃で吹き飛ばされ、金星の方へと飛ばされた。金星は、それが相手の狙いだとわかった上で私を受け止めてくれたが、案の定その隙をついて大魔族2人が斬りかかってきた
その時、金星は私を守ろうとしたのか強く私のことを抱き締めてくれた。私よりも脆いのに、それでも庇ってくれたのは嬉しかったが、彼に死んではほしくない
私は大魔族の攻撃が金星にあたる瞬間に、伝剣を生み出して剣の軌道をずらし、金星の致命傷を避けさせた
「ぐっ!」
金星の苦い声が耳元に響く…致命傷は避けれたとはいえ、目の前で大切な人が傷つくのは見ていられない…だが、今はそんな甘い状況ではない
私も金星、2人とも肉体がもうぼろぼろだ…
私は男の大魔族の剣撃に直撃した。何とか『竜の血』のお陰で部位切断は避けられたが、ダメージは大きかった。普通なら戦線離脱レベルの傷だ
金星も、格上の攻撃を致命傷を避けたとは言え直撃している。それに加えて、彼は私に比べて数段脆い…これ以上の戦闘は私以上に危険だ
私が全力を出してすべての剣技を惜しみ無く使えば、格上2人が相手でも打ち合うことぐらいはできる。だが、相手の底が見えない以上、もって数分程だろう。だが、それだけあれば金星は逃げられる…
幸い、大魔族2人はどこからともなく現れた伝剣を警戒して離れている
実際、その判断は皮肉にもあっている。私の間合いの中であれば伝剣はどこにでも顕現させられる、あのまま攻撃を続けてくれていたら、攻撃を受けるギリギリのところで伝剣を作り一矢報いるぐらいはできたかも知れない
そんな可能性を考えたところで無駄なこと。相手は一矢を報いることもできないほど絶望的…金星もきっとわかってくれるだろう…
「私が…時間を稼いであげる。だから、金星はしっぽ巻いて逃げてよね」
金星はつらそうに両目を閉じて唇を震わせている。きっと痛みのせいではない。私だって逆の立場ならそうなる…そして私は…きっとそれを承諾してしまう
金星も私と同じ結論に辿り着いてくれた
「了解だ…生きてくれよ」
酷なことを言う。この期に及んで希望を持たせないで欲しい、死を覚悟するからこそ人の最後は美しいというのに…いいや、私が人なのは半分だけだった
私は頷かず、金星に笑顔を見せた。その笑顔を見て、金星は無言のまま走り出してくれた
「さてと…華々しく散ろうとしようかな」
2人の大魔族も私の覚悟に気づいているのか、金星のことは追おうとせずに私に剣を向けていた
「暗部組織『星』所属、コードネーム『水星』」
暗部が名乗るなんておかしな話だが、そうしておきたかった。今はじめて、私は決闘の時に名乗っている理由が理解できた気がする。倒された相手に名前を覚えてもらいたい…
大魔族2人も私に応えて、名乗ってくれた
「デッドギャングの大幹部、『堕落の香姫』パルファム」
「同じくデッドギャングの大幹部、『魔空の剣客』レフレクシオン」
名乗り返してくれるとこんなにも嬉しいものだったんだ…最後に良いことを知れた
今出せる私の全力を出す…
『伝剣顕現』『伝剣抜刀』『竜の血』そして『セフィラの加護 基礎』 自分が持つすべての力を同時に解放する
本気を出すのは久しぶりだ…
私が生み出せる限りの伝剣を5つに圧縮させ、そのうちの1つを私の持つ剣に宿し、それ以外の剣は宙を漂わせて遠隔操作
自分の内側から竜本来の力が溢れてくる。その血が私の傷を塞ぐと同時に、人の身体には存在しない『竜の翼』や『竜の尻尾』などの部位が生える
翼が生えたところで、私は上空に飛び上がり。4つの伝剣を左右に並べ、手に持っている伝剣と共に膨大な竜気を放つ
「それじゃあ、さっさと始めよう」
私は死を覚悟している。だか、死ななくて済むなら死にたくはない。だから、死ぬ気で生きるための戦いをするんだ
大魔族2人も気配を高める。やる気を出してくれたらしい…パルファムは剣に霧を纏わせ、レフレクシオンは私を斬りつけた時と同じ魔力を纏わせた
そして私は、戦いの狼煙として伝剣の斬撃波を放った




