潜入
潜入するので一番大変だったのは最初だった
拠点を囲む有刺鉄線にはもっとも多くの監視カメラが仕掛けられていた。まあ、正確には実体の無い監視術式なのだが、逆にそのおかげで金星が術式に干渉して、一瞬だけ映像にノイズを走らせることができたのだ
そこから先は単純。監視カメラの範囲を回避しながら拠点の奥へと進んでいくだけ...だが、その単純さに私は少し違和感を感じていた。私たちはプロだがそれは相手も同じ、それにしては警備が単調過ぎる。そのことは、金星も薄々感じているっぽい
丁度、物が多くて隠れやすいテントの中だったので、そのことについてを話し合うことにした
「気づいているだろうからわざわざ言わないけど、君はどう思う?」
「不気味…としか判断できないな。情報として見たときは簡単な警備体制としか思えなかったが、まさか「簡単」がここまで不気味なものだとは」
これが、そこらへんのザコ天使の拠点だとしたら、こんなに警戒はしなかっただろうし不気味だとも思わなかったのだろう。だが、この警備体制はあきらかにそれを意図的に生み出している。相手にはかなりの策士がいるのだと警戒しておこう
まあ、だからと言って退きはしない、そうしてしまえば、まさに敵の思惑だ。時にバカが天才を超えることがある、まさにそれが今の状況なのだろう。まあ、天否クラスの天才であれば話は別なのだが
この不気味さが意図的に作り出されたのだとしたら、それには思惑が絡まり暴くことのできる解が存在する。そして、その解に辿り着くことが出来れば不気味さは消えてなくなる
「金星、もうすぐこのテントに魔族が2人入ってくる。そいつらのを覗いてみてよ」
私は竜と人のハーフ。そのため、五感や身体能力が普通の人よりも高い
そして、何かを暴くことに関して金星は『最強の嫌われ者』に匹敵するほどの能力を持っている。この拠点を特定したのも、拠点内の情報を手に入れたのも、その能力によるものだろう
私の予測通り、テントの中に魔族が2人入ってきた。私と金星は物陰に隠れて様子を見る
そして、魔族2人が通り過ぎた瞬間、金星がその魔族たちの首根っこを掴み自身の能力を発動させた
金星の能力『記憶掌握』
触れた対象の記憶を読み取ることが出来る能力。確かに戦闘向けの能力ではないが、間違いなく強力な能力であることは間違いなく、本人もその能力を活かすために直接的な戦闘技術ではなく隠密や話術、回避などの能力にあった技術を優先して鍛えている
昔はその能力を怖がって誰も彼に触れようとしなくて、それが原因であまり人前に現れることがなくなってたんだけど、私の師匠や『星』の地球、あと天否が人と関わるきっかけを作って、今では自分から人と関われるようになれた
人間、人と関われなくなってしまえば終わりなのだ。依存は人を弱くするかもしれないけど、私はそれに救われた
私も昔は伸び悩んでいて、その時に一緒に居てくれたのが彼。それから次第に彼に依存していくようになり、彼が姿を消したときに、この気持ちに気がついた
あの頃の私は自分に自信がなくて、金星のことを追いかける勇気がなかった。もしかしたら私の依存が彼を苦しめていたのではなかっていう不安に苛まれていた。だけど、その後悔と罪悪感が私を大人してくれた
だから、師匠と地球と天否には本当に感謝している。彼を見つけてくれたこと、私に勇気をくれたこと、私に贖罪の機会をくれたこと…
あれらの苦しい思い出はいつも私を奮い立たせてくれる
昔のことを思い出しているうちに、金星は記憶の掌握を完了させた
「なるほど、把握した」
金星は魔族2人のことをゆっくりと地面に寝かせて物陰に隠した
「やはり、これは潜入者に不気味さを与えて精神を削ぐ配置のようだ。こいつらはそれに気づいていないが、そんな話が聞こえてきた」
「なるほどね...他に気になる情報は得られたかな?」
金星は考え込むように両目を閉じる。掌握した記憶を思い出しているのだろう
「どうやら、この拠点には天使が1人捕らえられているらしい。何か情報を持っているかもしれないから接触しておきたい」
この接触とは文字通りの接触なのだろ
「わかった。それで、場所は?」
「このテントの2個先のテントにある地下室に監禁されているたいだ」
2個先のテント…たしか、あそこは場所の割に警備の人数と巡回回数が多かった。捕虜が捕らえられているのなら納得だ
「で? 1個先のテントまでは問題ないだろうけど、そこから捕虜のいるテントまでは少し距離があるんだけど? それに警備の数も多い。君の愛美天使の権能でも使う気なのかな?」
「まあ、そうするしかないだろう。失敗した時のことは任せるよ」
「…わかった、尻拭いは任されてあげるよ」
それを聞くと、金星は信用の眼差しを向けてくれた。表情には出さなかったけど、内心結構うれしかった
「それじゃあ、行こう」
金星は外に気配が無いことを確認してからテントを出て1つ先のテントへと入った。私も金星の背中を追ってテントへと入る
予想通りここまでは問題ない。問題は目的地である次のテントとの間に広がる広い道、そして、そこを歩いているそれなりの数の魔族達…普通ならここで撤退する
しかし、金星は普通でない手段を持っている。それは金星の契約天使である愛美天使の権能である調和。この力を使い、相手の闘争心を調和することによって戦意を喪失させることができる
この力を使えば戦闘をする必要性が格段に低くなる。まさに、戦闘に向いていない金星向きの権能だと私は思う
「よし、いくぞ」
私と金星は、堂々とテントを出て魔族の蔓延る道を横断する。もちろん魔族達は一斉にこちらに気付いた。しかし、金星が指を鳴らした瞬間、こちらを見ていた魔族達が全員うつ向き動かなくなった
「成功だな」
その言葉を聞いて、私は剣の持ち手から手を離す。どうやら、尻拭いは必要ないみたいだ
「さて、それじゃあ早速テントの中に入るとしよう」
魔族達に動く気配はない。金星の能力はうまく機能したみたいだ
私と金星は、生きてはいるがまったく動かなくなった魔族を避けながら奥のテントへと歩いていく
しかし、道の半分を過ぎた瞬間…
「なんだ?」
何かの物音がして金星が背後に振り向く。どうやら、魔族の1人が倒れたらしい…ん? 倒れた?
それはおかしい…金星の能力は戦意を喪失させるだけで肉体に影響はないし、それなり意識も残っている…普通、倒れるようなことはない…
つまり…金星以外の外的要因がある?!
私がその結論に至ったと同時に周囲の魔族が次々と倒れていく。私は金星と背中を合わせて全方位を警戒する
「ちょっと金星! なんなんだよ、これ」
「わからない。だが、1つ確かなことがある。君を連れてきたのは正解だったってことだ」
「てことは、そう言うことでいいんだよね?」
「ああ、頼むぞ」
周囲に甘い匂いの薄桃色の霧が立ち籠まる。霧に触れると指が痺れた、十中八九なにかしらの毒だろう
「ぐっ…」
予想以上に毒が強く、私は膝を地面につけてしまう。金星の方は能力が能力のため問題なさそうだ
「月、大丈夫か?」
「もちろん、問題なしにきまってるでしょ」
次第に霧が濃くなっていき、痺れに加えて頭痛もし始めた。私は意識を強く持ち、立ち上がろうとするが足を滑らせてその場に倒れてしまう
金星が声をかけてくれるが返事はできない
そんな滑稽な私を見て、霧の向こうから不気味な笑い声が聞こえてきた
「うふふふ…ふふふふふ…」
声は次第に近づいてきて、声の主は私達の前へと現れた
片手には剣を持ち、黒く分厚いフリルドレスに身を包んだ1人の女性。その顔には人にはない「角」が生えている、間違いなく魔族だ
彼女の周りに霧を放出している謎の球体が飛び回っている、霧の出所はあそこなのだろう。あれさえ壊せれば霧を止められるかもしれない
だが、今の私は立つことができない。残念ながら、ここは金星の「駆け引き力」に頼るしかないようだ…
私は金星を信じて、両目を閉じた…
私の投稿が遅い時は、本を新しく読み始めたか、他にやることがあるかの2つである。そして、今回は前者であった!
投稿遅れてすんません




