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在りし日の思い出


旧校舎に残されている噴水に腰を掛けて、私は図書室からいくつかの本を借りてきた。そして、その内の一冊、童話「星になった天使」という本を開く


図書室で本を読んでいると、周りの生徒達からの視線が気になってしまい集中できない。その点、この場所は人が寄り付かない...というか普通に立ち入り禁止なので、誰もいないくて集中できる


まさに穴場スポット。放課後はずっとこの場所で本を読んだり、権能の練習をしている


そんな立ち入り禁止の穴場スポットに、私のことを愛称で呼ぶ赤髪の少女が近づいてきた


「白…」


私は彼女の方を向き、優しく微笑む

彼女は赤音(せきね)。私にとっての唯一の親友だ


この天使学園で人と天使のハーフである私はもちろん特殊だ。見下されたり、陰口を言われたりなんて当たり前

『秩序』を名乗っていても、所詮その程度の意識しかないのだろう


そんな私に悪意無く話しかけてくれた存在が2人いた。その内の1人が赤音だ


彼女は私に学園を案内すると言って接触してきた

そして赤音も、私を案内している姿を他の生徒達に見られてコソコソ言われていても、それに気づいた上で私のことを気にかけてくれた


そして、赤音のおかげで学校に私の居場所が生まれ始めた。彼女が居なければ、私に学園生活なんてものは無かっただろう


赤音が私の隣に座り、開いていた本を覗き見る


「白は、本当に童話や昔話が好き」


「うん。なんだか読んでいると、その話が他人事のように思えないんだよね」


そう言って、私は本のページをめくる


童話は大抵は想像による絵空事に過ぎない。だけど、たまに童話を読んだときに、まるでその話を経験したことがあるかのような感覚に陥る事があるのだ


その感覚の正体を探るために、私はこの学園に入学してから、毎日のように童話や神話を読み漁り、その感覚に陥る傾向を見つけようとしていた


そして、今日借りた「星になった天使」は当たりだった


この童話を読んだのは初めてのはず。なのに、なぜか最初から最後まで、私はそれを知っていた。それも、人伝に聞いたとは思えない程ハッキリと…


「私、この話し嫌い…」

そんな言葉が赤音の口からこぼれてきた



話の流れとしてはこうだ…


昔々、連想世界への超越を夢見ていた天使がいました


しかし、その天使がいくら1人で努力をしても「超越」どころか「上り」すらできませんでした


しかし、そんな天使を気に入った者が現れました。それは「宇宙の大天使 ユニバース」と「自由の悪魔 (ルミナス)」という大物2人組でした


それから天使は、ユニバースの口添えによって「大天使」の一角となり、他の大天使や天神様から様々な技術を教わりました


それからも天使は怠慢すること無く、毎日のように研鑽を積み上げて、ついに念願の『超越』を果たしたのでした


しかし、そんな天使のことを連想世界は非情にも否定しました。その結果、天使の翼は「永久の連想因果」によって、消えることのない虹色の炎に呑まれてしまいます


そして、天使は全てに絶望し、虹色の炎に呑まれながら地上へと堕ちていきました。それを見ていた地上の生物達は、その輝きを「流れ星」だと勘違いしました


そして、夢破れ、絶望していた流れ星に向かって、無数の生命が希望を祈る願い事をしたのでした…




「確かに、気分の良い終わり方ではないね。けど、きっとこの星も立ち直って、新しい希望を見つけているんじゃないかな?」


「白は本当に優しい思考の持ち主」


「そんなんじゃないよ。ただ、なんとなくそう思っただけ」


その天使は新しい道を見つけて幸せになっている。本当に、ただそんな実感があっただけで根拠は一切ない


「私は、皆の願いを叶えられるような存在になりたい…」


赤音は、少しこもった声でそう呟いた。その呟きに対して、私はなんとも思えなかった。「愚か」だとも「素晴らしい」とも…


「赤音の方が、全然優しい思考の持ち主だよ。私みたいなひねくれ者と違ってね」


「あまり、自分を卑下しないで。白姫はちゃんと『平和』になれる」


「ありがとう。赤音も「皆の願いを叶える願い」が叶うといいね、応援してるよ」


「ん」

赤音はコクッと頷いた…


その後、赤音と本の感想を言い合っているうちに空は夕色に染まっており、風が冷たくなり始めた


「赤音。寒くなってきたし、喫茶店にでも行かない? 私が何か1つ奢ってあげるよ」


「行く、パンケーキ食べたい。早く行こ」


赤音は鞄を肩にかけ、駆け足で校門の方へと向かっていった。私は置いていた本を急いで鞄に詰め込み、赤音の後を追った


途中で赤音のことを見失ってしまったが、何だかんだで校門の前で私を待ってくれていたのだった


----------------------------------------------------------------


天否達が本当の天域にたどり着いた頃

白姫は、お気に入りの喫茶店(ボロボロの姿)の中で、窓際の席に座りながら、ガラス越しに外の景色を眺めていた


「やっぱり、雨は止まないのかな」


この、滅んだ姿の町にはずっと雨が降り続けていた


もう割り切っているものの、濡れるのは好きじゃない。できることなら傘が欲しいが、生み出すための天力は吸いとられ、もう残っていない


もう少し、雨宿りすることにしよう…


ふと、テーブルの上に置かれているメニュー表に書かれていた「パンケーキ」という字が目に留まり昔のことを思い出した



"私も赤音と同じパンケーキにしようかな?"


"同じパンケーキはダメ。違う種類を頼んで半分こ"


"いいの? それだと赤音の食べたいパンケーキが半分だけになっちゃうけど"


"私の半分ぐらいなら、白にあげてもいい"



赤音…白姫の大親友にして恩人。初めての同世代の親友ということもあり、白姫の学生時代は彼女との思い出ばかり。あの頃は、白姫にとって人生で最も楽しかった日々でもあった


そんな日々のことを思い出している、自然と頬が緩んでしまう


その時、白姫の前を1人の少女がガラス越しに目の前を通りすぎた。その少女を見て、白姫は唖然とし、空いた口が塞がらなくなった


今目の前を通りすぎた少女は…赤音と瓜二つの姿だった

しかし、赤音らしき少女は、白姫の頭がフリーズしているうちに消えてしまっていた


白姫は雨のことも気にせず、少女が歩いたいた場所に飛び出し、少女が向かっていた進行方向を見る


そこには、地下へと続く階段があった


「あれは…地下鉄かな?」


よく使っていた地下鉄のホームへと続く入り口。ボロボロになってはいるが、場所からして間違いない


「シアはどう思う?」


そう言って、白姫は左手の中指に着けている指輪に語りかける。その指輪は、天否に貸してもらった「悪魔の指輪」であった


「私に聞かれても困るわ。神秘無しのこの状況じゃ、権能すらまともに扱えないのよ?」


指輪から聞こえた少女の声。彼女の名前は「シア アグベダフウ」魅了と幻惑を操る悪魔の集合体


声は子供っぽいのだが、言ってることは普通に大人のお姉さんというギャップを持っている悪魔の少女だ


「一応、私にも見えていたってことは言っておくわね。だから、白姫の見た幻覚ではないわ。けど、実体だとも思えないのよね…」


それを聞いて、白姫は少し安心した。昔のことを思い出して見えた幻だったとしたら、流石に恥ずかしくなる


「とりあえず、追ってみるしかないよね」


「私も賛成よ。何かこの天域について知れるかもしれないのよね」


2人の意見が合致し、白姫は地下鉄へと足を向けた…

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