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本当の天域へ…


「ふぅ」


アルミに止めを刺したセイサは、一息つき、辺りを見渡す。回りには誰もおらず、なんの気配も感じない


(…? 気のせいかな?)


一瞬だけ、空間の一部の気配が穴の空いたように消えていた気がした。だとしたらそれは空虚なのだろうが、何故彼女がこんなところに居るのだろう


「まあ、あの方々の行動原理は謎だし!」


「それって誰のことですか?」


「わっ!?」


突然声をかけられたことに驚き、セイサは少し跳び跳ねてしまう。そして、セイサに声をかけたのは「自由の悪魔 空虚」本人であった


「(気のせいじゃなかった!)(くう)さん、いきなり声をかけないでよ~」


「ごめん無理。私には気配とか存在感とか無いから、絶対に唐突に現れる」


「そういえば、そういう悪魔だったね」


背丈と同じぐらいまで伸びている灰色の髪。無機質な童顔。純白のワンピース


そのワンピースは肩や鎖骨の部分が露出しており、そこから見える彼女の肌は死人のように白く、彼女が生物とは別の存在だということを感じさせる


「とりあえず、見かけたから挨拶をしようと思った。だから、こうして現れた」


「えへへ、嬉しい! でも珍しいね、(くう)さんが挨拶なんて?」


空虚はあまり人前に現れるのが好きなタイプではない。別に知り合いがいたとしたも、わざわざ挨拶をするなんてこと、今までに1度もなかったはず


そんな悪魔がなんで…?


「挨拶は口実。あなたと接触しときたかった」


「接触? なんでまた?」


「ううん、セイサじゃない。接触したかったのは…」


空虚の視線はセイサの背後に向き、それにつられてセイサも振り返る…そこに立っていたのは天否だった


空虚と話していたとはいえ、セイサがここまでの接近に気づけないとは、天否の隠密技術は凄まじい


「セイサさん、その方はお知り合いですか?」


「天否君、来てくれたんだ! ありがとう!」


「ええまあ…でも、終わってるようですね」


セイサと天否がそんなやり取りをしていると、空虚が天否の前に現れた


「初めまして。私は『自由の悪魔 空虚』気軽に(くう)って呼んで」


「ああ、はい、初めまして『最強の嫌われ者』の神魔天否です。その…空さん、自由の悪魔って…あの」


自由の悪魔…下位世界そのものである概念悪魔。下位世界で神と冠される五神をも越える、下位世界のトップに立つ7人の悪魔の内の1人


そんな大物と出会えば、困惑するのは普通のことだ


「そう、私は君たちの言う「下位世界」で、無の概念の意識体である概念悪魔。世界の産みの親の1人ともいえる」


「それで、そんな大物が俺になんの用で?」


「直接見たかった、それだけ。ちょうどいいタイミングで私にとって都合のいい天域が展開されていたから」


空虚にとって都合のいい天域…彼女を現実で認識するのは困難。しかし、夢がベースとなっているこの天域であれば、空虚の記憶を「夢」として定着させることができる


そして、ここから先が敵の本拠地。だから、あまり物語に干渉したがらない空虚は、このタイミングで接触してきたのだろう


空虚が優しい手つきで天否の胸元に手をあてる、何かを感じるかのように目を閉じる


「…やっぱり、君なんだ」


そう呟き、空虚は天否から手を離した


「最後に、君達に贈り物をあげる」


「ありがたいですけど、なんでそんなことを?」


空虚は少し考えてから、答えを出した


「天否、君たちの辿り着いた答えが私の信じる『自由』に似ている。だから、君のことは私にとって同士のようなもの。だからちょっとした手助け」


自由の悪魔は、それぞれが『真の自由』とは何かを説いている。そして、空虚は『真の自由など存在しない、故に全ては無駄であり、「無」こそが真の自由である』と説いている


全てが無駄、それを知っているからこそ、空虚は自由な日々を過ごせている。今回だってそうだ

ここで空虚が介入しようがしまいが、結末はどうせ変わらない。そういう風に設定されていることを自由の悪魔達は知っている


だからこそ、好きに歪に介入をする。それが、自由の悪魔が『自由』たる由縁…


「こういう子達なんだよね、ずっとずっと昔から」


「そうなんですか。それで、贈り物っていうのは?」


「はい」

そして空虚は、黄色の卵型の宝石を手渡した

天否はその宝石を受け取り観察していると宝石から笛の音が鳴った


「これは...?」


「夢のものを現実に持ち出すことができる不思議な宝石…試しに作ってみた」


たしか、クゥトゥルフ神話にそんなアイテムがあった気がする。でも、もし本当にクゥトゥルフ神話と同じ効果で作ったのだとしたら、あの存在も再現されているのだろうか。笛の音も再現されているし...


「感謝します。でも、笛の音が...」


「じゃあ、この防音布もあげる。これで包めば音は漏れない」


そして空虚は、卵型の宝石を黒い布で包み込んだ。すると、本当に音がしなくなった


「これで大丈夫。あと、白姫に伝言を頼みたい」


「白姫に?」


天否は意外そうな顔をする。あたり前だ、セイサも驚いた。なぜ空虚が白姫のことを気にしているのだろう、天否と同じ理由だろうか


空虚が天否に近づき、耳元で伝言を伝える。残念ながら、セイサはその伝言が何なのか聞こえなかった


「分かりました。白姫と合流したら伝えておきます」


「頼んだ。それじゃあ、私は去るよ、あまり捕捉されるのは好きじゃないから...」


「色々、ありがとうございました」


「バイバイ! たまには実体化してよね~」


空虚は軽く手を振って、風に吹かれ舞い散る花のように姿を消した…

直後、廊下からシーレと神楽が戻ってきた。神楽もシーレも無傷のようで安心した、もっとも神楽は無制限に傷が癒えるのだが


「師匠、どなたかと話していたのですか?」


やはり、シーレそして神楽も空虚のことが見えていなかったらしい。流石は無の悪魔、意識しようとしなければ無意識にその存在を無駄と判断し、視界から消してしまうのだろう


「天否天否、ちょいちょい」


セイサは小さく手招きし天否のことを呼び寄せ、耳元で話し始める


「(空虚のことは二人には黙っておこう)」


「(なんでですか?)」


「(空虚はあれでも生ける伝説で、神楽は彼女に謁見できたことが無いんだ。だから、会えなかったことを気にしちゃうかもしれないの。だからね...)」


「(…まあ、セイサさんがそう言うなら)」


天否はシーレと神楽の方に向き直り、うまく空虚のことを隠した話をでっち上げた。流石世界最高の技術の持ち主、話術もお手の物のようだ


互いに情報を交換し合い、概念研究室とデッドギャングについての情報も共有した。やはり、白姫もその二組織については知らなかったのか、天否とシーレも初めて聞いた名前らしい


そして4人は少しの休憩を挟み、この天域の出口の前に並ぶ

「それじゃあ、早くこの扉の先に行こうよ~」


「ここからが本番だな」


そう言って、黒天使の2人は扉を通り抜ける


「私たちも行きましょう」


「ああ…」


続けて天否とシーレの2人も扉を抜けていった...


そして、その4人のことを背後から隠れて見守っていた存在がいた


その天使はタビビトに爆破されたはずの天使『怪盗』

200㎝超えの背丈に、顔を隠す仮面とシルクハット。服には大量の宝石が添えられている派手な見た目をしている、正体不明な天使


「無事、第1ステージは突破できたか。セイサも居るし心配のし過ぎだったか」


4人全員が門を抜けたのを確認すると怪盗は立ち上がり、門とは逆方向に歩きはじめた


「彼らなら、概念研究室の方はなんとかできるだろし、私はデッドギャングの方をなんとかしようか。秩序のためにもな」


怪盗は宝石で遊びながら、優雅に天域を戻っていった







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