輝ける星
壁や床、天井を無数のワイヤーが突き破り、セイサを貫こうとする。ワイヤーは細く、どこからくるかが分かりずらい
そんな、四方八方からワイヤーが飛び交う中でも、セイサの表情からは余裕が消えることはなかった
彼女は軽く踊るようなステップで、ワイヤーを避け続ける。やってることは踊るような回避だか、その『動き』からは無駄が削ぎ落とされている
ワイヤーがどれだけ速く放たれようが、セイサはそれよりも速い動きでそれを避ける。ワイヤーは一撃一撃が強いダメージになるが、面積が少ない分避けやすい
それに加えて、ワイヤーの放たれる速度は音速にも満たない。セイサの動体視力ならば、容易に見切ることができる
だが、それらの攻撃は余興に過ぎない。それは、セイサも分かっていた
(やっぱりね)
ワイヤーは、ぐるぐるの円を描くように張られている。つまり、このままでは、無数のワイヤーに囲われて避けられなくなる
それでも、セイサは変わらず避け続けた
ワイヤーの放たれる速度や、ワイヤー間の幅が狭くなっていく
半径50cm…30cm…20cm…
そしてついに、避け場を失ってしまう
この期を逃すことなく、アルミはワイヤーの隙間を通して、四方八方から純白の強化されたワイヤーを同時に放つ
「頑張ってるみたいだけど、ごめんね!」
そう言ったセイサは、軽くジャンプして四方八方に星型のクッションを生み出し、それを空中に固定させる
そして、星のクッションはアルミの放った強化ワイヤーを、貫かれることなく全て受け止めた
セイサは、自分の真下に生み出したクッションに、背中からダイブし、一回"ぽふっ"という効果音が聞こえてきそうなバウンドをし、クッションはセイサのことを優しく受け止める
「触り心地最高、眠り心地最高、耐久性最高の三段構えの星形クッション。アタシのお気に入りなんだ~。これを貫くのは至難の技だからね」
セイサは一回り小さな星形クッションを生み出し、それをぎゅっと抱き締め、余裕を見せる
「ほらほら! 頑張って!」
そんなセイサの余裕が、アルミの癪に障った
「お望み通り、やってやるよォ!」
自棄になったアルミは、ワイヤーにより多くの天力を流し込む。そして、ワイヤーが炎を纏った。溢れ出た天力が炎となっているのだ
確かに、ワイヤーの強度と火力は格段に上がった。しかし、それでもまだセイサのクッションは貫けない
「クソがァ、そういうコンタンかァ」
今のワイヤー以上の火力を出すには、一定のワイヤーを巻き付かせて生み出す『ドリル』しかなくなる
そうなると、避けられないようにするために張ったワイヤーが邪魔になってくる。そして、セイサに攻撃を仕掛けるには回りのワイヤーを外さなければならないということ
セイサの企み通り、アルミは周囲に張り巡らせたワイヤーを外し、再度ドリルを編み出した
しかも、ドリルの強度や回転速度が先ほどのドリルよりも、より強く、より速くなっていた
「貫いてやるよォ」
「わー、強そう!」
セイサは興味津々にそう言った。その声色から、彼女の余裕が垣間見えた
「死ねェ!!!」
何本ものドリルが、セイサに向かって放たれる…
しかし…
「けど、ごめんね!」
それらのドリルも、先ほどのワイヤーと同じように星形クッションによって全て受け止めた
「ナッ!?」
すかさず、セイサは指を鳴らして、アルミに向かって虹色の炎を放った。ドリルを防がれたことに動揺していたため、アルミは回避が遅れ、炎に巻かれる
「ガァァァー!!! ァァァ_」
アルミが炎の中で悶える。虹色の炎は確実に、アルミの身体を焼き崩していく
「じっくり燃やさせてもらうからね。君は、核を糸状にして壊しずらくしてるんでしょ?」
アルミの権能は明らかに『ワイヤー操作』もしくは『糸系統操作』のどちらか、それが天域の効果で『糸系支配』に昇格している
ならば、核を糸状にして逃げやすくしていてもおかしくない。最初の斬撃でアルミを両断しても死ななかったのはこういうカラクリだったのだろう
それなら、逃げられないように炎を巻き付かせるのが一番
「!!! この炎…セイサ、貴様まさかアアァァ!!!」
炎に悶えながら、アルミが何か言っているがよく聞こえない。アルミの痛みに反応してか、部屋中のワイヤーが暴れだし、セイサはそれを避けるので忙しいのだ
その後、アルミの身体は着実に焼き崩れていった。腕が焼け落ちた、下半身が焼け落ちた、胴体の半分が焼け落ちた…そのタイミングでセイサは、アルミに巻かれている炎を解除し、変わりに逃げられないよう、辺りに炎の陣を展開させた
「冥土の土産に教えてあげるけど、アタシの能力は『適応』だよ! だから、最初に君のワイヤーに巻き付かれた時点で、ワイヤーでの勝ち目は無かったんだよね!」
巻き付かれた時にアルミのワイヤーに適応し、その力をクッションに宿した。故にアルミが生み出したワイヤーからなる攻撃は、絶対にあのクッションを貫くことはできない
アルミがそのことに気付いて近接戦闘に切り替えていたら、もう少し勝負は長引いていたかもしれない。だが、それでも、セイサの速さについてこれなかったアルミでは、勝機は無かったのだろう
「それじゃ、殺しちゃうね。良い来世を~」
炎の陣がセイサの指先へと収縮し、その線香花火の火花のような虹色の炎をアルミへと落とした
「ァ______‼」
凝縮されたセイサの炎は、一瞬にして残っていたアルミの身体を灰燼すら残さずに燃やし尽くした…
アルミは死ぬ瞬間、走馬灯のように辺りの時間がゆっくりとなり、そこでセイサ以外に1人の灰色の少女の姿を目にした。背丈と変わらない程の灰色の髪、瞳孔の無い灰色の瞳、無機質な白いワンピース…そして、所々が透けている身体
それらの特徴で少女の正体はすぐに分かった
自由の悪魔 空虚
下位世界では『神』と称される存在ですら手が付けられない絶対的な存在。最上位天使ですら、実際に会うことはほぼ不可能。その存在を「意識」「記憶」することすら難しい
そして、概念研究室の研究対象そのものであり、下位世界の概念そのものでもある
そして、空虚は『無』の概念悪魔であり、無に帰る者を見届ける存在…
つまり、一介の天使であるアルミに彼女が見えた時点で、アルミの敗北は確定していたのだ




