『怪盗』
昨日の夜。12時を越える少し前
ロンドン支部からの仕事で相手にした天使が以外としぶとく、帰るのが遅くなってしまった
駅から駆け足で居候しているロンドン支部へと急ぐ
本当なら日頃の感謝を込めて良い値段のスコーンでも買って帰りたかったが、あまりにも遅いと鍵を閉められてしまうので諦めざるをえなかった
それもこれも全部、無駄に抵抗してきた天使が悪い
だが、天使も生きたくて抵抗してたのだと思うと、少し罪悪感が…
普段の仕事中は支障が出ないよう考えないようにしているが、ふとした時に考えてしまうと胸の中に暗雲が立ち込める
「はぁ…」
ため息と共に走るのを止めて歩きにシフトする。天力のお陰でこの程度の運動では汗すら流れなくなった
段々と人間から離れていっているのではないかと思い、不安になる
このままじゃ、ネガティブ思考がドミノ倒しになってしまうので、一旦立ち止まり、大きく深呼吸をして感情をリセットする
「ふぅー…はぁー…帰りましょうか」
解決したのかしてないのか分からないまま、シーレは歩き始めた…そこで異変に気づいた
人払いの術が展開されていたのだ。それも、恐ろしく高度な術式で展開されており、シーレでも気づくのに数秒程かかってしまった
だが、それよりも恐ろしかったのは、それを仕掛けたであろう天使が、気づかれずにシーレの背後に立っていたことだった
シーレは風の流れで気づけたが、もし無風状態であれば気づけなかった。それほどまでに、その天使からは気配という気配が感じられなかった
相手は間違いなく強者。ならば先手必勝といことで、シーレは無駄な動きを削ぎ落とした通常状態での全力の回し蹴りをした
しかし、相手の天使は一瞬にして間合いから離れ、回し蹴りを回避する
その回避の動きを、シーレは一切見切れなかった
ならば、何かしらの権能の可能性がある。少なくとも、今の動きが権能ではなく真っ当なステータスによるものだとしたら、シーレも全力であたる必要が出てくる
少なくとも、手を抜いて勝てるほど甘い相手ではないということは間違いない。そう思い、シーレは警戒を強める
すると、相手の天使が話しかけてきた。その声は何重にも補正が掛けられており、もはや男か女かも分からない
「おやおや。いきなり攻撃してくるなんて、酷いじゃないか」
「あなたのような不審者を見れば、誰でも逃げるか通報しますよ」
身長200cm越えの長身に、顔を隠しているトパーズ色のマスクとシルクハット。服には至るところに宝石が飾られており、めちゃくちゃピカピカしている見た目をしている
しかし、これだけわちゃわちゃした見た目なのにも関わらず、ほぼ感じられないほどに気配は薄い
仮面と全身を包むアクセサリーのせいで、人形なのか宝石形なのかも判別することができない
これは、いままでの天使の中でも群を抜いた不審者だ
「通報されちゃ困る。私は怪盗なのでね」
「怪盗…?」
そういえば、天否と白姫やヨーロッパ支部長秘書の「ユリーノ」から聞いたことがある。神隠し以前からヨーロッパには『怪盗』と名乗る正体不明な天使が活動していて、ヨーロッパ支部も手を焼いているらしい
だが、天使殺し達にイタズラするだけで、市民への実質的な被害は無く、天否ですら目的を暴けられてないらしい
正体不明、目的不明の謎の天使。天力を感じるので天使なのは分かるが、それ以外は何も読めない怪盗
(殴ってみますか…)
見て感じただけの情報には限界がある。それで答えを導き出せるのは、神秘天使の権能である真理ぐらいだ
戦う前の敵が正体不明なのは当たり前。誰かが知ろうとしなければ、それは一生不明のままになってしまう
相手の「謎」を暴くのは天否の得意分野。そして、シーレは…天否の弟子だ
一日の疲労を吹き飛ばすように身体中に天力を流し込む。こうすることによって、シーレは「普通の女の子」から「天使殺し」へとシフトすることができる
これが、シーレの臨戦態勢だ。そしてシーレは、判断から行動までの速度が物凄く速い
身体中に天力を流し込んだ次の瞬間、シーレの拳は怪盗の顔面の少し手前程の距離にまで接近していた
しかし、その次の瞬間には怪盗は拳の間合いからギリギリ外れている場所に避けており、空気を裂く音だけが辺りに響いた
「またいきなり。けど、それで攻略されるほど「怪盗」は弱くないのだよ」
「いえ、まだ様子見ですよっ!」
シーレはすかさず体勢を変えて回し蹴り。そのまま、怪盗へラッシュをかける
だが先程と同じように、シーレの目で追えない回避方法で全てのラッシュを避ける
「攻撃が単調過ぎる。「避けてください」と言ってるようなものだ」
そんな「怪盗」の言葉は、シーレには一切届いていなかった。なぜなら、彼女は最初から攻撃を命中させる気が無いからだ
「パターンは十分。体も相手に慣れてきた…」
シーレは力一杯拳を握りしめる。そして、大きく踏み込み、怪盗へ蹴り込む
だが、怪盗は間合いの少し右へと移動し、難なく蹴りを回避する
しかし、そうなることは折り込み済み。シーレは着々した瞬間に、勢いを殺さず向きを変えて、予測していた怪盗の回避位置へ全力で踏み込んだ
(この子、もう私の回避パターンを…?!)
怪盗は少し動揺したが、それでも回避には成功
だが、回避はギリギリだった。あと1コンマ早ければ、シーレの拳が怪盗の仮面を砕いていた
シーレの実力を実感したと同時に、今のを避けられたことに怪盗は安堵する。その隙をシーレが見逃さない
怪盗の顔面へと向けられていた拳を地面へと叩きつける。そして、拳に圧縮させていた術法を解放する
「仙法 封!」
拳が叩きつけた場所を中心に、周囲に紫色の陣が展開される。そして、陣から紫煙が発せられ怪盗のことを抑え込む
シーレは能力も権能も持っていない。その代わり「万能神秘」を持っており、「天法」「魔法」「聖法」「仙法」「陰陽法」「呪法」などの神秘を、全て扱うことができる。扱えないのは「神力神法」ぐらいだ
今使った術は、封印に特化した仙法で、実質的なダメージは与えられないが、動きや権能などを封じることはできる
怪盗は今までのように回避をしようとするが、紫煙がそれを妨害する
しかし、紫煙は天力で簡単に吹き飛ばせる。精精、稼げる時間は1秒程度
だが、その1秒はシーレが狙って生み出した隙であり、そこに攻撃を当てるのも作戦の内に含まれている
「エンジェルリンク 15%」
エンジェルリンク…
万能神秘を全て天力に変換し、肉体を一時的に正真正銘の「天使」にすることができる技
その力は凄まじく、100%であれば一次的とはいえ「最強」すら上回ると言われている
しかし、天使化の反動は酷く。30%までは問題ないが、それ以上の力を使えば、意識障害や身体の不具合などの露骨に戦闘に支障を来す症状が発生する
80%を越えれば、寿命を失ってしまい。100%はその命を…
だが、それに伴う力は本物で、15%程度でも上級の天獣を一撃で倒せる程の火力を持っている
シーレの腕に稲妻のような天力が纏わり拳を大幅に強化する。その拳を強く握りしめ、怪盗へと踏み込む
怪盗も回避は不可能と判断し、両腕をクロスさせて攻撃を受けれるようにする
「天 拳!」
シーレの拳が怪盗にぶつかり、その衝撃で周囲の地面がひび割れる
そして、シーレの火力が怪盗の防御を上回り、怪盗の片腕を砕き割った。そして、怪盗のことを吹き飛ばた
「10%が通用するとは、手を抜いていたのか、回避以外は弱いのか、分かりませんね」
そう言いながらシーレは、壁にめり込んでいる怪盗へと近づく
怪盗の砕けた腕の断面はトパーズ色をしていた。人型や獣型であれば傷から天力が流れ落ちる、つまり、怪盗は「人の形をした宝石型の天使」ということだろうか
まだ、人型と獣型の混ざった「人獣型」のように、宝石型と人型の混ざった型の可能性もあるが、そんな天使の情報は一切ない。宝石型でほぼ決まりだろう
宝石型の天使は、肉体を回復させるための時間と天力が他の型の天使よりも多く。その代わりとして、他の型よりも肉体の強度が高い
つまり、回復される前にとどめを刺した方が良い
シーレは1歩近づき、再度拳に天力を込める。怪盗は動こうとしない
その時、シーレのスマホから0時を告げるアラームが鳴った
(アラーム? こんなの設定しましたっけ?)
天力を宿していない方の手でポケットからスマホを取り出し、アラームを止めてポケットにしまいなおす。すると、さっきから微動だにしていなかった怪盗が口を開いた
「0時になった...それじゃ、そろそろ失礼させてもらうかな」
「逃げれると?」
「試せば分かるだろ?」
怪盗がそう答えた瞬間、シーレは拳を振り下ろした
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「で、逃げられたのか」
「はい…面目ないです…」
話が終わったと同時に、シーレはクリームチキンスープの最後の一口を口に入れ、もぐもぐごっくんをする
食べ終えたお皿をトレーに置き、シーレはごちそうさまをした
「お粗末様。それじゃ、暇かもだけど、休んでてね」
天否はそう言って、トレーを回収して部屋を出た
その後、暇に耐えられなくなったシーレの話し相手をしながら、今後の動きを説明したり、怪盗についてを話したりして、1日を過ごした
そして、翌日。天否とシーレが動き始める




