雨の夜
神魔天否は夢を見ていた…
上には青空が、下には暗い闇夜が広がっている
そして、青空へと続く透明な階段を上っている一人の少女の姿。その姿に天否は見覚えがあった…
(あれは…白姫?)
髪はだいぶ長くなっているが、あの「鶴のような白い髪」は白姫とまったく同じ雰囲気を醸し出していた
そして、少女の数十段上の階段に座る、もう一人の少女
そっちの少女には見覚えは無い…はずだ
しかし、なぜかこの光景に既視感があった。なんとなく、この後に起こることが天否は知っているような気がした
白姫のような少女が、顔を上げる
それと同時に片手に剣、反対の手に杖を生み出し、杖の方を上の段に座る少女へと向ける
「ようやく…ようやく終わらせられるよ『混沌』ちゃん」
少女の声を聞いた瞬間、天否の知識が"彼女は白姫ではない"という結論を出した。なぜそんな結論となったのかは、本人も分かっていない…要は、なんとなくそう思った、ということだ
上段の少女も立ち上がり、金色の大剣を生み出し少女へと向ける
「…やっぱり、私に立ち塞がる最後の壁はあなたなのね、『平和』」
「いいや、違うよ。私は、下で頑張っている皆の思いを背負っている。だから、今立ち塞がっているのは私じゃなくてみんなだよ」
その言葉を聞いて、上段の少女は少し感傷的な目になった。彼女はきっと、寂しいのだろう
世界の必要悪を全て押し込まれた、悲しき少女
普通の生物は少女のことを本能的に避けてしまい、彼女はずっと孤独だった…
なぜ、こんなことを知っているのかは分からないが、不思議と断言できる自信が沸いてきた
もしも、天否がこの場に居れたのなら、こう言っていただろう
"安定しな、殺すから"
「安心しな、殺すから」
白姫のような少女の言葉が天否の思考と被ったのを最後に、天否はこの夢から覚めた
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目を覚ますと、そこは探偵事務所のソファーの上だった
革のソファーで寝心地は普通なので普段はちゃんとベッドに移動するのだが、流石に十徹の疲労には耐えられず、事務所のソファーで寝落ちしてしまった
なにか、夢を見ていた気がするが…まったく内容は思い出せない。だが、夢とはそういうもだ
身体を起き上がらせた時、自分の身体に掛けられていた毛布の存在に気がついた。おそらく、白姫が掛けてくれたのだろう
風が窓にぶつかり"ガタン!"という音が鳴る
窓の外を見ると、外は大雨の嵐だった
こんなに強い嵐なら天気予報でやっているはずだが、天否には天気予報を見るなんて余裕はなかった
昨日、白姫が食品を大量買いしていたのはこのためだったのだろう
天否は窓の縁に座り、ボーッとした頭で外を眺める
窓は大量の雨粒に占領されており、外の風景なんてほとんど見えない。しかし、こうして落ち着いて外の景色へと目を向けるのなんて何日ぶりだろうか
早く頭を起こして調査を再開しなければならない。しかし、十徹の疲労は相当なもので回復まで少し時間がかかりそうだ
「コーヒー淹れるか」
そう思い、事務所に備え付けているコーヒーの豆を手に取った…そして、豆を挽こうとした時、扉のノック音が聞こえてきた
天否は持っていた豆を机に置き、事務所の入り口を開く。すると、そこには、雨に濡れびしょ濡れになっていた一人の少女が立っていた
小柄な身体でオーバーサイズのパーカー。ふさふさな薄黄色の髪のポニテ。そして、天否と同じような無色の瞳
彼女の名前はシーレ
天否の元相棒の一人だ
「師匠さま、ご無沙汰です。緊急の案件でこちらに押し掛ける運びとなりました」
シーレは一部を除けば常識的な子だ。そんな子がド深夜の嵐の日にやってきた…その時点で緊急事態だということには察しがついていた
「なにがあった?」
「ロンドンの対天使局員が全員姿を消しました…」
「そう…」
それは、シーレがやってきた時点で予想していた。ロンドンで天否達が調査している"神隠し"に彼彼女らも巻き込まれたのだろう
事件の犯人が「神秘に関する何か」なのは検討がついている。今は相手の「目的」や「手段」を、少しずつ解き明かしている段階だ
時間は掛かっているが確実に真相に近づけている
たとえヨーロッパの天使殺しが全員消えたとしても、犯人は殺して見せる。神秘が封印されている状態の天否に出きるのは、考えること、だけなのだから
しかし、ロンドン支部が消えたというだけで、なぜシーレは急ぎこちらにやってきたのだろう。別に天否であれば、すぐにその事実に辿り着けるというのに
彼女の性格を考えて「寂しい」や「怖い」でないのは明白。ならば、いち早く天否に伝えなければならない「何か」があるということだろう
その事をシーレに聞くと、少し考えてから話し始めてくれた
「神隠しの現場…ロンドン支部にはこれが落ちていました…」
そう言って、シーレは一枚の白い鶴の羽を手渡した
その羽を見て、全て理解した
この羽は白姫のものだ、間違いない
その羽には強い否定の力が宿っており、この力のおかげでこの羽は消えずにすんだのだろう
そして、この羽が現場に落ちていたということは…
「駆けつけてきた白姫さまも…他の人と同じように…行方不明となりました」
シーレはそんな事実を淡々と伝えた
それを聞いて天否は…シーレの事を優しく包み込んだ
「…?」
白姫が消えたことに少し恐怖のようなものを覚えた。だけど、天否はいたって正常だ。それを証明するために天否はシーレに自身の心拍を聴かせるために包容をした
シーレは状況が飲み込めず、目を丸くして固まっている。しかし、すぐにこの包容の意味を理解し「もう大丈夫です」と言って天否から離れた
「とりあえず、シャワー浴びてきて。人のこと言えないけど、一応俺達も人間だからね」
「わかりました。それでは、シャワーお借りします。一つ上の階でしたよね」
「そう。着替えは白姫のを用意しておく。着替えたらすぐに寝ろ、オーバーロード状態になってる」
大袈裟にオーバーロード状態と言っているが、要は天力の使いすぎで熱を出しているだけだ。一日程休めば回復する
シーレも自身の状態を理解しているのか「では、お言葉に甘えさせてもらいます」と簡単に承諾してくれた
昔のシーレであれば「まだ動けます」「まだ平気です」の二点張りだったのだが、彼女も角が取れて丸くなったのだろう
事務所の鍵を閉め、シーレと共に一つ上の階へと移動
シーレをシャワーに案内してから白姫のパジャマを棚から拝借し脱衣所に置き、そのままリビングのソファーに腰をかけ、シーレからもらった白姫の羽を眺める
白姫の羽は微かに発光しており、内側から白姫の天力が感じ取れた。これは白姫の天力が生きている証拠だ
「白姫の天力が生きている」ということは、もちろん白姫は生きている。だから、天否は動揺しなかった
それに、そもそも白姫が死んだとしたら天否は即座にそれを知ることができる
今回の異変の調査を始めた時、天否は指輪の一つを白姫に渡している、白姫が死んだらその指輪に宿る悪魔が天否の元へと帰ってくる
白姫は神隠しにあったというだけで、まだ死んではいない。だが、それは時間の問題。流石にこのまま放置をすれば白姫の命も危なくなる
白姫の残してくれたこの羽は異変解決に大いに役に立つ
ここからはチマチマした調査は無し。直接異変の根幹へと踏み込んでいく
本当の調査を始めるとしよう…
ペースが…さらに…遅くなるかも…でも失踪はしないよ!
タブンネ




