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裏の戦い


深夜2時30分 別遺跡 地下


真長達の戦いに決着がついた頃。無限砂漠の別地点では、ある天使が一人の天使殺しと向かい合っていた


しわくちゃな細い手足で、杖を突いている黒ローブの老人。真長に地図を渡した後、彼もある仕事を果たすために無限砂漠へと足を踏み入れていた


そして、彼と対面しているのは、一人の青年の姿をした天使だった。その、ゆるふわとした人間の容姿と雰囲気は、普通の天使殺しでは、天使と見破れないかもしれない


「まさか、気まぐれで入った遺跡にお前さんが居るとはな…とんだ収穫だ。儂が生きて帰れればの話だが」


「物騒な思考だね。今は戦いたい気分じゃないんだよ」


そう言って、その青年は老骨を追い払うように手をヒラヒラとさせる


それでも、老骨はその場を動こうとしなかった。そして、そんな老骨を威嚇するように青年は天力を放つ


「僕と、殺り合いたいの?」


「…ふん」


老人には、この天使と戦う気なんて更々なかった。むしろ、相手に戦闘の意志が無いことに内心ホッとしていた


だが、青年…『最上位天使 ()1()() アイン』と対話できる機会は貴重だ。できれば話がしたい


「まあいいや。軽く話でもしようか」


驚くことに、アインの方から話を要求してきた

だが、アインからしてみても『暗部』と話をしてみたかったのだろう


「お互いに喋ってもいいことを、一つずつ言い合う。こんなルールでいいかな」


「ああ」


「それじゃ。とりあえず、その皮を剥いでもらおうか」


そう言ったアインの顔は、いたって普通の人間の顔だった。だか、彼の発言は老骨にとってとても重要なことだった


「この姿ではだめか?」


「ダメ…一回だけとはいえ、腹を割って話をするんだよ。暗部にとって、それが大事なのは分かるけど」


「…………はぁぁぁぁぁ」


言い逃れができないことを理解し、老骨は本来の少女の姿へと戻った。深紅の髪を後ろで結び、ボーイッシュなデニムコーデを着こなす、支部長秘書の姿へと


「これで、いいんだな」


「そうそう。今は『暗部』とか『星』とか関係なく、話をしたいからね」


その一言に、レイは一歩後退る


「…っ?! そこまでバレてるのか」


アインのいう通り「エジプト支部長秘書 夕凪レイ」の裏の顔は『暗部』の一員である


それも、慈善天使(ザドキエル)の契約者である夕凪ムネから、慈悲(ケセド)を託された、最秘の暗部組織『星』の初期メンバーの1人…コードネーム『木星』であった


「この情報を知ってる僕は、殺されちゃうのかな?」


「…笑えるジョーク、だな」


もしも、この場でレイが殺せるのなら、とっくの昔に、五()()の『最強』の誰かが殺している


レイの実力は、暗部の中でも五本の指に入る程のもの…

だが、アインは言わば『最強の天使』であり、流石のレイでも、単騎、無策で勝てるような相手ではない


この状況でレイは、アインに従うしかなかった


「冷静…いや、慣れているな。『星』が扱う『セフィラ』や『吸血の血』を一目見てみたかったんだけど」


「…もう、驚かないぞ」


「そっか。さっきのリアクションが面白くてね。つい」


理由の無い強さは存在しない。才能であれ、努力であれ、強さには何かしらの理由があるものだ。そして、強き者には強き物が与えられる…


慈悲(ケセド)とどちらが先だったかは覚えていないが、レイは吸血鬼に噛まれており。自らも不老不死の鬼と化している。もちろん、妹のムネも吸血鬼だ


幻想教団に保護された、幻想種の血を宿す4人の内の2人はムネとレイである


それ以外の2人は、フランスで秘書していたり、リンナにこき使われたりしてる

二人とも優秀な天使殺しだ


そんな友人達のことを思い浮かべながらも、目の前の天使への警戒は解かない


情報の出所が気になっているが、それをアインへの質問にしたところで、答えてくれないことは目に見えていた


この話し合いは、いかに無意味な回答から、意味のある情報を引き抜けるかが重要

嘘を言ったとしても、そんなものは表情と声色で分かる、故に嘘を言ったら『回答ではない』という情報を与えてしまう


もしも、この場に天否(最強)が居たら…そんな、叶わぬ願望を頭に思い浮かべながらも、レイはアインへの質問を考える


だが、質問自体は割とすぐに思い付けた。というか、変に重要なことを聞き出そうとしなければ、いくらでも質問は思い付けた


「年齢は?」だとか、「好きな本のジャンルは?」だとか、そういう無駄なことでもいいのだ。なんせ、現在の最優先事項は『生き残る』ことなのだから

むしろ、変に核心を突くようなことを聞く方が危険だ


となると、真に重要なのは『質問』ではなく『回答』の方となる。だが、こればっかりは質問されてから考えなければならない


「それで、どっちが先に質問するんだ?」


「そっちから。嫌なら僕でも良いけどね」


「そうか、なら遠慮なく…」


深呼吸をして思考を整えて、目の前の柔らかい雰囲気をしている青年の目を見ながら、レイは質問を口にした


「例の教団…その生き残りの数は?」


この質問への回答は、この場において、そしてアインにおいて、知られても問題の無い情報。そして、レイが、まあ、それなりに必要としている情報でもあった


「あー…やっぱり、君がそう動いていたのか」


なにかに納得し、腕を組んでコクコクと頷くアイン

その後、軽くウィンクをして「いいよ、答えてあげる」と言った


別にそこまでの情報ではないため、ドキドキもワクワクもしない。ただの確認としての質問


この『無限砂漠異変』で、『木星』に与えられた役割は、例の教団を完全に解体することであった

具体的な方法は単純、教団員を皆殺しにすればよい


真長や神東、ボレロが教団司教と戦っている間、木星は無限砂漠に潜んでいた、何人もの教団員を次々と惨殺していた


砂漠の外に潜んでいた教団員は、真長がエジプトに現着する前に処理しておいた。その処理が終わったタイミングが、真長にエジプト支部への道筋を教えた時である


教団員を殺すのは、正直、辛かった


手をかけた相手の中には、幻想教団に保護されてた頃に出会った人や、慕っていた人物もいて、暗部の仕事で同じようなことはしているが、いつも最悪な気分になる


だが、支配の天使によって『支配』された者に死以外に救いは無い。だから、契約天使の権能で苦しませずに逝かせてあげれたと思えば、少しだけ気がはれる


「残ってるのは四人…いや、三人かな。彼女はもともと裏切る予定日だったみたいだし」


おそらく、その彼女とは「リース ホルバレロ」のことだろう。残りの三人も、さっき出会った司教の三人で間違いなさそうだ


あの三人も、もう教団に残る気はなさそうなので、無事『木星』としての任務は完遂したと言っていいだろう


「ああ、ありがとう。鷲はとりあえず満足だ。じゃあ、お前さんの番だ」


自分の任務が、無事達成されたことを確認できたことに満足をしつつ、アインの質問に警戒を強める


アインは顎に手をあてて、何かを考えるように「う~ん…」とあからさまな声を上げ、レイは頭の中で「事前に考えておけよ」とツッコミをいれた


「そう…だな。うん、それじゃあ…君の妹についてを、聞こうかな」


レイの妹…すなわち、暗部のNo.2『影踏人』こと夕凪ムネ。事実上、暗部を管理している人物である


アインはレイが吸血鬼だということを知っていた。ということは、ムネも吸血鬼だとも知っているはずだ。にも関わらず、ムネについて何を聞こうというのだろうか


()()()()()


あの秘密は、対天使局の最重要機密事項の一つであり、天使が知っている訳がない

しかし、何かに感ずいている可能性がある


動揺の感情を押さえ込み、冷や汗を流さないようにする。動揺を見抜かれれば、ムネに何かあることがバレてしまう


心を落ち着かせ、アインの質問に耳を傾ける


「君の妹は…吸血鬼なの?」


「…ああ、()()()だ」


「そう、うん、満足」


アインが満足と言っても、レイは警戒を解かない。解いた瞬間に安堵してしまうからだ

安堵がバレるということは、やましいことを聞かれていたことの証明でもある。そうなれば、アインはムネに探りを入れてくるかもしれない


大切な妹のために、ここで安堵してはいけない


「それじゃ、ここでお開きにしようか。次は戦いの場で会おうね」


「そんな結果のわかりきった戦いは、ごめんだ」


「そりゃ、残念。暗部、それも『星』となんて、なかなか戦えるものじゃないから、一度手合わせしてみたかったんだけどね」


そして、「まっ、仕方ないか」と言って、アインは遺跡の奥に戻っていった…


そして、アインが遺跡の奥に消えたのを見てから、レイも回れ右して遺跡から出ていった


その途中、アインの最後の言葉について、考えてしまった


      『星』と手合わせしてみたい


最強の天使を殺せそうな暗部…ムネやルジを抜きに考えると…やはり、『地球』だろう


だが、彼女は一般人をするので忙しいだろう。今も日本のどこかで、普通の学生をしているのだろうか


「今度、会いに行ってやるとするか」


そう呟きながら、レイは遺跡の外に出る…


遺跡の外の砂漠は、月明かりに照らされて、蒼白く輝いて見えた。そして、普通に寒い温度の風がレイの肌を撫でた


「終わったんだな…」


今の砂漠には、地獄のような暑さと、奈落のような寒さはない。普通の砂漠だった


無限砂漠異変は…終わったのだ


真長達が解決したのだった…




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