託された者
深夜2時20分 地上
二人の少女、神東神喜と姫野彼岸は体操座りで砂漠の真ん中に空いた大穴のを眺めていた
いま、神喜の脳みそは全力で現実逃避に徹していた。その目に光はなく完全に真っ白になっていた
「完全にやり過ぎた、これ絶対いろんな方向から怒られる」
「自業自得じゃない」
「興が乗っちゃって...」
「うん、自業自得ね」
そんな風に神喜に現実を突き刺していると、知らない天力を地下の最下層から感じ取れた。それはモーセのものに似ていたが、モーセの天力より濃く固かいように彼岸は感じ取った
「最後の仕上げが始まったよね」
そう言いながら神喜は大穴の前まで移動して下を覗き込む。つられて彼岸も下を覗いてみるが、暗すぎてなにも見えなかった
「あなたには見えてるの?」
「見えてないよ?」
「なら、なんで覗いているのよ...」
「なんとなく?」
「最強の考えることはわからないわね」
そんな風に彼岸が呆れていると、背後から複数の気配が近づいてきた。その中には知ってる気配もあれば知らない気配もあった
「あ、やべ...」
その気配を感じて、神喜は逃げようと大穴に飛び込もうとしたが、茶色の結界によってそれは阻止された
「この大穴について、説明してもらおうか」
「あ~...ボレロ支部長! ご無事でなによりです!」
「そうだな。行動するのが少し遅ければ、どこかの『最強』の天力に潰されているところだったからな」
怒ってる、あきらかにボレロは怒っていた
「彼岸ちゃん逃げるよ! はやく!」
「え、無理よ。まだ痛い」
「誰だ!彼岸ちゃんのこと傷だらけにした奴は!」
「自業自得で因果応報ね」
「あぅ…」
言い逃れも物理的な逃亡も無理なのを察して、神喜は諦めてお叱りを受けることにした。だがお叱りは後回しで、情報共有が優先となった
「…それで、こっちでは何があった?」
「いやいやいやいや、ボレロの方こそなにがあったの!?」
「質問を質問で返すな」
「いや…私の方のことも教えるけど、とりあえず先にあの三人について説明してよ!」
そう言って、神喜はボレロの後ろに立っている二人のケモ耳っ子とゴスロリ美少女を指差した
「なぜ、ボレロと司教の二人が一緒にいるの!? あと、おまけにルミも」
「初対面の相手をおまけ扱い!?」
「だって、影も形もなかったし」
ちなみに神喜はルミのことは天否とのメールのやり取りで知って、いつか会ってみたいと思っていた。友達の友達として(天使殺しとしてではなく)
「暗躍してた身としては、それは誉め言葉だよ~」
「なるほど! わからん!」
神喜はボレロの方を向き、説明を求める視線を送った。しかし、視線の送り先はボレロの方であってボレロではなく、ボレロの隣に立っている少女に向けたものだった
深紅の髪を後ろで結び、ボーイッシュなデニムコーデを着ている少女。彼女こそ、遺跡の情報を提供し続けていたエジプト支部の二番手、夕凪レイその人であった
「そうですね、ひとことで説明するならば...計画通り」
「それは説明になってない!」
「まー落ち着いてくださいな。ちゃんと説明しますから」
「うん、落ち着く」
「そちらの方にもわかるように説明してあげますね♪」
その言葉の送り先は彼岸であった。彼女はなにげに一番状況が理解できておらず、目をグルグルさせながらこの場にいる人の顔を右往左往させていた
普段の知的な彼岸が嘘のようだ
「それじゃ…まずは、例の教団…『幻想教団』の始まりから話すとしましょうか…」
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25年前。『外の天使』との戦いが天使達によって予見された
そして、現代最強の人間と判断された『神魔リンナ』と天使を率いる者である『天王天使』が契約をし、世界で初めての天使殺しが誕生した
その時、リンナには『戦い』とは別の予言が与えられた
『神話の因子を身に宿す者が5人現れるだろう。彼彼女らがこの世界最大の切り札になるだろう』
予言された5人のことをリンナは『救い手』と名付け、その『救い手』を探し保護するために作られたのが対天使局の元となった組織…『幻想教団』だった
幻想教団は天使によって親を殺された子供を保護しながら『救い手』の捜索をし続けた
そして、神聖を身に宿す生後数ヶ月の幼子を3人見つけ出し、それ以外にも幻想種の血が混ざっている子供を4人保護した
しかし、彼彼女らを狙ってくる『天使』は多い。それに加えて全員幼く自衛することは不可能だった
そんなある時、『支配の天使』を筆頭に天使たちによる大規模な『誘拐計画』が実行された
その結果として幻想教団に保護された子供は幻想種4人を残して皆殺しにされ、3人の『救い手』は天使の手に落ちてしまった
だが結局、3人の『救い手』は物心が付く年頃には教団から自力で脱出して対天使局に再度保護された
その後、リンナ達は新しく『対天使局』を設立し、幻想教団は名前を失い『支配の天使』に乗っ取られた『名も無き教団』へと成り下がった
あるとき、1人の司教が『支配の天使』による洗脳を打ち破り、陰ながら対天使局に教団の内部情報を送り続けていた
その司教が1人の神聖を宿す少女を保護した。その少女こそが「モーセ」という名を与えられた『救い手』の1人、少女「リース・ホルバリナ」だった
リースが『救い手』だとバレれば命が危ない。だが隠し抜くことは不可能と判断し、リースには天使に支配された振りをして生活するように教え込んだ。リースを対天使局に託すために
たとえ人を殺すことになるとしても、教団が終わるその日まで奴らを騙し続けろ…と
そうして少女は、『モーセ』として生活を送りながら、裏ではリースとして教団を内側から壊す『策と罠』を仕込み続けた
数年後。リースを保護した司教が支配の天使と相討ちとなって死んだ。それを知ってもリースは『モーセ』であり続けた、教団が終わるその日が来るまで
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「それが今なんだと思って、私は行動をしたのです」
説明しているのは、瓦礫の上に仰向けに倒れている超が付くほどの美少女、モーセことリース本人であった
そして、説明を聞いているのはさっきまでリースと死闘を繰り広げていた少女、真長であった
真長はリースにまたがり額に拳銃を向けながらもリースの説明を親身になって聞いていた
真長との戦闘の後、リースは最下層まで落下した。地面に直撃する瞬間に出せる最高出力の呪力で背中を守り、そのおかげで本来全身グチャグチャになるところを全身複雑骨折程度(?)で済んだのだ
だが複雑骨折も普通に重症。能力で治すにしても時間がかかってしまうためリースは諦めて負けを認め、ことのあらましを真長に説明していた
真長が知る限りでは能力を2つ持っているのは『幻想種』か『救い手』のどちらかのみ。それに加えて『モーセ』という名前と『災い』という能力を考えるとリースが『救い手』である可能性は高い
そんな真長の疑いの目に気付いたリースは、あるネックレスを生み出した
禍々しいオーラを放つ、黒羽のネックレス
「もしかして、それって...」
黒羽の紋章。下位世界の天使でありながら、こちらの世界の味方をする組織「黒天使」である証明品
黒羽の紋章は、明確に「外世界の天使」に対して敵意を持っている天使にしか与えられてない
それをリースが持っているということは、彼女のバックには「黒天使」がついているということ。リンナも「黒天使」は信用できるといっていた
ようは、リースは教団に潜伏していたスパイということなのだろう。そして、教団が衰退しだしたこのタイミングで対天使局に保護されるために「黒天使」に協力してもらったのだろう
だが、なぜそんな回りくどいことを...
そんな疑問が頭に浮かんだが、やるべきことは変わらない
そもそもリースは『救い手』であり世界の切り札、殺していいような人ではない。それに、リースと仲良くなれば教団についてや天否についてを聞き出せるかもしれない
そう思い、真長は向けていた拳銃を下ろしてリースに手を差しのべた
「とりあえず、みんなと合流しようかな。立てる?」
リースは差しのべられた手を握ろうとするが、身体は一切動かず身体中に痛みが走った
「イギィ?! …すみません、無理なのです」
それを聞くと、真長は差しのべていた手を頭の上に置いた
「うん。じゃあ担ぐから、ちょっと待ってね…」
そして真長がリースをお姫様抱っこした。瞬間、上空から青白く光る鉱石が落ちてきて装甲を貫きノーネームのコアに直撃した
「なに?!」
「来ましたね...」
青白く光る鉱石の輝きは増していき、形も変化する...
全身が美しい輝きを放つ、金剛の鎧へと...
「真長さん。私を保護してくれると言ったのですよね?」
「ええ」
「なら、お願いします。私を縛る、唯一にして絶対の楔を殺してください」
リースを壁際に運び、やさしく地面に寝かせる。そして真長は金剛の天使のほうに向き直す。天使は蜘蛛の足のような羽を生やして空中から真長のことを見下ろしていた
ノーネームは無事だがコアが破損していて修復に時間がかかりそうだ。少なくとも手を借りることはできなさそうだった
「まじか~」
リースの話から、あの金剛の天使が何なのか理解できた。”リースを縛る唯一にして絶対の楔”そんなの1人しか思いつかない
最上位天使第64位 予知の天使カラティナ
リースが「黒天使」と協力していた理由、それは...この瞬間のためなのだろう。自身を縛る契約天使と天使殺しの誰かが対峙しているこの状況のため
そして、そうした理由は考えなくても分かる。裏切れば精神が壊されるのだろう。今そうしないのは、おそらく黒羽の紋章になにかしらの加護が付いているのだろう
真長は振り向きリースのことを見る。リースは確実に弱っているが、意識を失わないように痛みを我慢していた
加護があったとしても意識を失ってしまえばリースの精神はカラティナの独壇場となってしまう
そうなればリースは終わりだ。そうなる前に勝負を決めなければならない
真長はノーネームに搭載されている武装の制御権を借りて、キャノンドローン2台とレーザードローン2台を操り自身の近場に引き寄せカラティナへと向ける
天力に余裕はある。武装もノーネームのを借りれ余裕はある
「もうひと踏ん張り、頑張りますか!」
指を鳴らし、キャノンドローンとレーザードローンで一斉に攻撃を放った…
しかし、カラティナには一切攻撃が効かなかった…




