世界の終わりを超える船
深夜2時15分 世界結界『溶岩海』
地面のすべてが溶岩と化した世界での戦いは終幕を迎えようとしていた
ワールドは噴き出ている溶岩を掻い潜りながら地面の溶岩海から無数の魚型の溶岩を放出させ、追ってくる神喜へと突撃させる
だが神喜は難なく無数の魚の形をした溶岩を避け、ワールドとの距離をオラクルムの射程圏内まで詰める
そして、手をピストルの形にし、逃げ回るワールドの方に向けて指先からオラクルムを放つ
ワールドはギリギリのところで急上昇し、オラクルムを回避した。だが、ワールドが上昇をやめた瞬間、神喜のいる場所とは別の場所からオラクルムが飛んできてワールドの頭部を貫いた
仕掛けは簡単。感覚球の中に向きだけ固定したオラクルムを仕掛け、感覚球の向く場所にワールドを誘導。あとは感覚球を通してそのオラクルムを放つだけ。簡易遠隔操作狙撃オラクルムの完成だ
「うっし!」
そう言って神喜はガッツポーズをしていたら上空から落ちてくるワールドのゴーレムが目に入った。頭部を撃ち抜いたのだから機能は停止しているだろうが、なにかに利用されるかもしれないため完全に破壊しておくことにした
体感でゴーレムの位置に術をしかけ指をパチンとならす、すると膨大な神力の光の柱がゴーレムを飲み込み、ゴーレムは完全に滅却された
「うん。これで、えっと...11体目!」
1体目の土塊を破壊してから、神喜はたったの10分間に11体の土塊を破壊した
最初の方はそれなりに打ち合えていたのだが、時間が経つにつれて次第に神喜が『溶岩海』に慣れ、一方的にワールドの方が攻撃を食らうようになってきた
「そろそろ飽きてきたんだけど~」
「そうですね。そろそろ潮時かもです」
そう言ったのは、どこからともなくひょっこりと現れたワールドのゴーレムだった。12回目となると流石に慣れる
「潮時ってことは、何か大きな置き土産を置いてってくれるのかな?」
「もちろん。とっておきを置いていきます」
そう言ってワールドがウィンクをした。瞬間、神喜は周囲の異変に即座に気がついた
まだ目に見える範囲での変化はないが、物凄い速度で周囲の温度が上昇していっている。この世界での熱源は溶岩だ、そして溶岩の元は天力…要は世界結界内の天力が膨れ上がっている
「意図的な天力暴走かな?…いや、そんな生易しいものではないね」
「気に入ってもらえましたか?」
「もちろん大満足だよ。これを味わったらお礼に今度は私のとっておきを見せてあげるよ」
「それは遠慮したいけど、まあ楽しみにしてます」
そう言ってワールドは世界結界に歪みを作り、外の無限砂漠へと抜け出した
神喜もオラクルムで無理矢理世界結界を破壊して、外に出ることも可能だが、それではつまらない
おそらく、ワールドのとっておきは『溶岩海』を燃料とした『世界爆弾』なのだろう。一区画だけの小規模な結界とはいえ世界は世界、核爆発ほどの火力にはなるだろう
それに加えて爆発は神喜のいる『世界』そのものから発生する、つまり爆発は全方向から発生する
自身を囲むように全方位から核爆発級の大爆発が発生する…それが分かっても神喜表情は余裕綽々であった
なぜなら、彼女の前ではあらゆる天使の攻撃は無意味に等しいからだ
周囲の溶岩が激しく吹き上がっていき、次第に溶岩が粒子状の天力へと変化していく…そして、神喜が『方舟』を展開した瞬間、辺りが真っ白になり物凄い『圧』が神喜のことを飲み込んだ…
最も強いと書いて最強。それゆえ最強の肩書きを持つ者は、全天使殺しの中で最も優れた性能を持つ者でもある
そして『最強の殺し屋』の持つ最も優れた性能…
質量無視の光線や運命強制を含めた上で、その権能と能力すら上回る神喜の2つ目の能力…
世界の終わりを乗り越えた伝説の『方舟』。その力は全天使殺しの中で最も優れた『守護』の力であった
その能力は...あらゆる神秘を完全に弾くことができる
深夜2時20分 地上
彼岸はなにもできず、ただ目の前に展開されている結界の外枠を眺めていた
無数のひも状の翼が遺跡の入り口を中心にドーム状に展開されており、その内側はワールドと神喜が戦っている結界なのだろう
すでに戦いは彼岸の介入することのできないレベルのものとなっていた。二人とも一切本気を出していないにもかかわらずだ
そんなのを目の当たりにすれば誰であろうと自信を無くすだろう
「これからどうしよう...これからどうなるんだろう...」
昔、まだなんの力も持っていなかった頃の自分には自由がなかった。そんな現状を変えるために『看破の天使』の手を取った。そして力と自由を手に入れた
しかし、今の自分は弱い、その事実が彼岸の心に靄をかける。また自由が失われるんじゃないかと不安になる
強くなりたい...
そんなことを考えていていると結界からワールドが抜け出してきた
決着がついたのだろうか? いや、決着がついたのなら結界を解除するはずだ。そうしないといことは神喜は結界内に取り残されているのだろう
ワールドは光の宿っていない瞳で辺りを見渡し、彼岸のことを見つけるとゆっくり近づいてきた
自分はどうなるのだろう
殺される?捕まる?生かされる?
なんであれ、その先に自由はあるか…そんなことを考えてしまうと、自然と後退んでしまう
そんな彼岸のことを落ち着かせるためにワールドは笑顔を作ったが、その笑顔に感情は込もっていなかった
それを見ても彼岸の本能は怯えたままだった。表情に感情が無いのだ、胡散臭く感じてしまうのは当然だろう
「安心して。あなたと戦う余力なんてないですから」
ワールドはそう言って結界の方に向き直した。すると、結界が消滅していき、その中には無傷で微笑む神喜の姿があった
戦いの結果は『最強の殺し屋 神東神喜』の圧勝。伝承憑依を使うことなくワールドの土塊11体を難なく討伐し、核に匹敵する世界を爆薬とした世界爆弾すら無傷で耐えた
これが、こちらの世界の最高戦力である『最強』の肩書きを持つ存在の力…まさに別格、次元が違う
そして神喜は、上空からゆっくりと着地した。そして一言…
「ヤバ…酔った…」
そう言った神喜の顔は青図んでおり、とても気分が悪そうに口を押さえていた
「『最強』にも意外な弱点があるのですね」
「うるっ…さい! 私は能力がバクってるだけでそれ以外は普通の女の子なんだよ!」
神喜のその発言に彼岸は頭の中で「いや、倫理観もおかしいでしょ」とツッコんだ。そしてその時、自分の中の怯えが消えていることに気がついた
(そっか…私は…)
ようやく理解できた…神東神喜は彼岸にとって『理想の自分』なのだ。だからこそ、彼女の行き着く場所はわからないが、ついていきたいと思えた
そんな彼岸の表情を見て神喜は満足げに立ち上がる。まだ吐き気はあるが、そんなものはリンナ直伝の奥義『気合い』で解決した
「さてと。それじゃ、お礼参りといきますか」
そこから先は一瞬の出来事だった。そのなかで彼岸が理解できたのは…神喜が両手でパンっ!と音をならしたことと、手を叩く瞬間に「伝承憑依 聖結天使」と言ったことだけだった
気づいた時には遺跡の入り口は消滅しており、彼岸の目の前には、遺跡の下層まで届いている巨大な穴が空いていた
「一丁上がり!YOU WIN」
そう言って神喜は彼岸に向けてピースサインを送っていた
同刻。真長達がいる遺跡とは別の遺跡でワールドの本体は物凄い激痛にさえなまれていた
「やって…くれましたね…」
立ち上がろうとしても痛みが邪魔してうまく足に指示が送れない。しばらくは動くことすら難しそうだ
だが、こうなったのはワールドの油断が原因だった。土塊ならばいくらでも壊されて大丈夫という油断、そこを神喜は突いてきたのだ
「土塊の中に宿ってる私の精神を捕捉し、滅びの神託を下してきた…伝承憑依による権能の拡張があればこんなことも可能だったとは」
激痛程度で済んだが、もし一瞬でも土塊から意識を解離させるのが遅ければ権能に何かしらの障害が発生していたかもしれない
再度『最強』の驚異性を実感することができた。あれは全力の大天使でも勝てるかは怪しい
よもや『最強の殺し屋』は全最強の中でもっとも情報が露見されている存在。今回の戦いでもワールドはそれなりの対策を用意したが、それでも結果は惨敗
このありさまならば、情報の少ない他の二人の『最強』は大天使三人がかりでトントン。存在の有無すら判断できない『最強の暗部』に関しては大天使五人は必要になるだろう
やはり『最強』は別格。闇雲に挑むべき相手ではない
そんな自己反省会を始めていたワールドのことを一人の青年がお姫様抱っこで抱き上げた。そして、青年はワールドに天力を流し込み痛みを中和させた
「あれ…アイン? ルミの相手はどうしたの?」
「のらりくらりと逃げられた。流石だよね、あの御方は」
そう言って青年はワールドのことを労うように優しく微笑んだ
「とりあえず、しばらくは絶対安静。ことが済んだらライフに診てもらうからね」
「うん、そうします。私のミスだし、素直に従います」
そう言ってワールドは瞳を閉じた。そんな彼女のことを青年は遺跡に作ったワールド部屋まで運んでいった




