機械的罠師 進
真長がモーセの目を見つめて、モーセも真長の目を見つめる。この二人は、少なからず相手の罠師としての技量は認めている、そのため互いに警戒を強めるのは当然の真理だ
しかし、互いに警戒しあっていたら罠を仕掛けることがでない…そこで、最初に動いたのは真長だった
ポケットからスマホを取り出して拳銃の形に変形させる。そして、天力を銃口に集約させてモーセの方に向けた
それを見て、モーセは真長が何をしたいのかを把握して思惑に乗っかることにした。杖を真長の方に向けて呪力を集約させた呪力弾を生成する
そして、二人の罠師は同時に集約させた力を相手に向けて放った…
「雷霆弾」
「厄災弾」
蒼白の天力弾と滅紫の呪力弾がぶつかり合い爆発を起こした。よって互いに相手の視線から外れ
爆発によって空間全体に天力と呪力が蔓延し、相手の神秘力を感じることもできなくなった
これによって、互いに数秒間はフリー。この数秒間を作ることを真長は思い付き、モーセが乗ってきた
真長もモーセも罠師。そのため最初に考えることも、相手が同じことを考えていることも理解していた
この数秒間で仕掛ける罠が勝負の鍵となる…モーセはそう考えていた
数秒という時間は短く、真長とモーセは互いに二つの罠を仕掛けたタイミングで煙が収まり、神秘力を感じることも可能となった
「…」
互いに相手の罠に警戒する。一見辺りに変化はない。だが、ここで選択を間違えたデメリットは大きい。最悪、一回のミスでリタイアだ
しかし、動かない訳にはいかない。互いに罠師、どちらかが動かなければ罠に誘導することができない
「それじゃ…スタート!」
真長は裾に隠していた二つの小型電気爆弾をモーセに向かって左右円を描くように投げつけた
モーセは片方を泥、もう片方に呪力で編んだツタを展開し、小型電気爆弾を防ごうとする。もちろん爆弾が目眩ましだと知った上で…
小型電気爆弾はモーセの『予知』した通り、泥とツタに触れる瞬間に爆発した。泥の方は完全に電気を呑み込めたがツタは防ぐことはできたが九割が崩壊した
そして『予知』通り、真長はさっきまでいた場所から姿を消していた
(『予知』は見ている場所にしか作用しない。彼女から目を離さなければどこに消えたのかも分かったけど、あの爆弾を感覚だけで防ぐのは危険すぎるのです…選択肢がこれしかなかったのです)
相手の策に感服しつつ、同時に本気で倒さなければならないことを再実感する。それゆえに油断も傲りも出し惜しみ模しない
モーセは祈り、枯れ木の杖を掲げる…
「災いよ、世界を溶かせ…」
そう言うと枯れ木の杖は泥と化し、地面へとこぼれ落ちる。そして泥がこぼれ落ちた場所から徐々に闘技場の地面が泥へと変化していく
「早く出てこないと、私の災いに呑み込まれるのですよ」
「なら、そうしようかな」
刹那、モーセの背後に一筋の雷撃が走り真長の姿が現れた。それを見てモーセは反射的に紫の杖を生み出し、呪力を放った
紫の波動が真長に直撃し、背後の観客席もろとも闘技場の一部が崩れ落ちる
しかし、瓦礫の中に真長の姿はなかった。その代わり、微かな稲妻が残っていた。これが真長の一つ目の罠...
(ホログラム?)
真長の気配は、電気と天力が混ざりあった気配。それに加えて、さっきの攻撃でのぶつかり合いで拡散した電気が残っていた。そんな中でホログラムと真長本人を見分けるのは困難だ、彼女の強みと言っていいだろう
(なにを探りたいのですかね? …あ)
反射的に呪力で攻撃した際、地盤を安定させるために地面にかけた災いを解除してしまっていた
偽物を出した目的が時間稼ぎだとしても、真長がどこに消えたかはまだわかっていない
今は完全に真長のリズム、このままコンボがハマるとそのままモーセは殺られてしまう
(とりあえず、真長の位置を把握するのです)
モーセは紫の杖とは別に、枯れ木の杖を再度生み出しておもいっきり地面に突き刺した
すると、さっきよりも早い速度で地面が泥へと変化していき、あっという間に地面の全てが泥となった
それに加えて、観客席に呪力で練り上げたツタを生い茂らせて真長の気配を探った
しかし、またしても真長の姿はなかった
このまま見つけられなければヤバい。そこでモーセは、今ある情報を整理して、真長の場所を予測することにした
真長はモーセが電気爆弾で目を離した瞬間に姿をくらませた。その後に現れた真長はおそらくステルス状態のドローンが写し出したホログラムだったのだろう
その後、闘技場の地面を全てモーセの支配する泥へと変化させ、呪力で編んだツタで観客席を生い茂らせた。それでも真長は姿を現さなかった
(どこに消えたのです…)
モーセは闘技場全体を見渡して『予知』を見る。しかし、モーセに見えたのは何の変化のない闘技場だけだった
「本当に消えちゃったのですかね? これだけ闘技場を探して見つからないなん…」
その時、モーセは自分の思考の穴に気がついた
真長はなにも、わざわざ相手の土俵である闘技場で戦う意味がないのだ
互いにフリーの時に真長が仕掛けた罠は、モーセを攻撃するためのものではなく、事前に罠を仕掛けられている可能性がある闘技場から抜け出すためのもの
だとすれば真長は今、闘技場の入り口から瓦礫に塞がれた廊下までのどこかにいるということだ
そして、その予測を裏付けるように、闘技場の入り口から伸びる廊下の方から爆発音が聞こえてきた
モーセの『予知』は『見る』ことはできても『聴く』ことはできない。そのため、さっき『予知』をしたときはこの爆発音には気づけなったのだ
「逃げられたのです...」
「正々堂々戦ってこい!」とモーセは思ったが真長の判断は間違っていなかった
なぜなら、この闘技場には泥とツタ以外に一つ、モーセの切り札が仕掛けられているからだ。そのため、真長にこの闘技場から離れられては困る
とりあえず、力を温存するために地面をもとに戻し、ツタを地面に引っ込めた
「とりあえず、ゾンビドックで索敵からなのです」
そう言って、モーセが紫の杖でゾンビを召喚しようとしたとき...モーセの脳天を一筋の弾丸が貫いた
その弾丸の発射元は真長であった
真長は上空からゆっくりと地面に着地する
彼女は気配を周りの電磁波と同調させて、モーセの気配探知を搔い潜り。二機のピンボールサイズのドローンに片足ずつ乗って空中に待機して、地面の泥化を回避した
「先輩みたいに五感だけで相手の位置を把握できる人は、やっぱ少ないんだね...よかった~」
この作戦の欠点は、ホログラムで姿は消せたが『それ以外の物理的要素を隠すことができない』というところにあった
もしも、モーセが天否のように心臓の音だの呼吸音だの匂いだので相手の位置を把握できたのなら、この策は破綻していただろう
「一応、心臓も潰しておこうかな」
脳天を撃ち抜かれうつ伏せで倒れているモーセに向かって、真長は手に持っているミニガンを改造して作って対物ライフルでモーセの心臓にも弾丸を打ち込む
闘技場に「バンッ」と銃声が響き渡り、残響の後、闘技場は静寂に包みこまれた
真長は確かにモーセの心臓を撃ち抜いた...
「ははっ...まじか」
それでも、モーセは立ち上がってきた
「私を欺けた褒美に特別に教えてあげるのです。私の能力は『災い』と『細胞創造』の二つの能力を持っているのです。そして、今使ったのが『細胞創造』の力です」
身体は表情は重そうだが、モーセの身体の傷は確かに回復していた
「...天才が」
そう言い捨てて、真長は対物ライフルをモーセに向ける




