神託『滅び』
正しさって、なんだろね?
小さい頃、そんなどうでもいいことを聞いたことがあった。その質問が今の私の人格を構成する柱となった
対天使局の訓練場、そこで地面にクレヨンで術式陣をぐるぐると描いている親友、十の色を宿していてまだ幼かった彼は人差し指を口に当てて私の意味のない質問の回答を考え始めた
「ただしさねぇ?」
術式陣が完成したのか彼はクレヨンを床に置き、両手で描いた陣に触れて力を流し込んだ。すると周囲の重力が軽くなり、まるで無重力のような状態となった
身体が宙に浮いた状態で彼は腕を組み、私の質問について真剣に考え始めた。もちろん、頭の中の同居人にも聞いているのだろう
そして、彼が導き出した『正しさ』とは...
深夜1時30分 地上
数打ちゃ当たる…だろうが、それではつまらない。そう考えた神喜は地上へと降りて槍による近接戦へと打って出た
基本的に神喜は楽観主義者で自分の戦闘センスにかなりの自信を持っている。しかし、そんな神喜であっても流石にステータス近接ブッパの彼岸との戦闘は押され気味であった
再度空を飛べばいいだけのことなのだが、彼岸はその間すら与えてくれなかった。調子に乗って地上へ降りてからの流れは完全に彼岸に傾いていた
それでも表情から余裕が失くならないのは、肉体的な強さではなく精神面が強さがあるからであろう。しかし、速さに翻弄され彼岸の刀が神喜をかするようなってきた
(紫光の残像を残して動くなんて、本当にカッコいいよな!)
そんな戦闘で無駄なことを思いながらも、上空に残していた『感共球』を頼りに彼岸の位置と攻撃のタイミングを捕捉する。こうすることで彼岸の『残像』に対応することができる
それでもカウンターを狙えるほどではない。単純な近接戦で彼岸に攻め入れる近接技術を神喜は持ち合わせていないのだ
相手は『看破』の権能を宿している、小賢しい策は見抜かれる...だからこそ、彼女にとって神喜は最悪の相手であったのだ
なぜなら神喜の基本スタイルは『質と量の暴力』。天使殺し内でもっとも神秘力の総量が多く、さらに神秘の純度が高い『神力』の持ち主であり、その力を惜しむことなく使うことからついた神喜の戦闘スタイルの名前である
「一方的に攻められるのも癪だし、少しやる気を出したげる」
そう言って手の平から光の球体を生み出し、それを握り潰した。今までとは比較にならない力が上空に広がる
「オラクルム・レイン」
次の瞬間、大量のオラクルムが同時に地上へと降り注いだ。絶光より分厚く太い光の柱が神喜の視界を埋め尽くす
容赦はしていない、惜しむことなく最高火力の技を放った、そこらへんの最上位天使なら瞬殺だ。しかし、彼女は、それを無傷で生き残った
「やっぱり、これの弱点に気付いてるんだね。流石だね~」
「ええ、それはもう脅威ではないわね」
彼岸の髪や服には砂が付着している、一瞬で地面を切り裂き地中に潜った、そんなところだろう。『看破』の力でオラクルムの性質を見抜いている彼岸であれば、それぐらいの策は事前に用意していたのだろう
地面までオラクルムで貫けるようにしてしまえば、下にいる二人が危ない、そのため地面にはオラクルムの影響を受けないようにしているのだ
策は全て見抜かれ、フェイントも読み合いも通用しない。頭が良い人物が持てば『看破』の権能は相当厄介な力となる、すでに正当な使い方のオラクルムは彼岸には通用しないだろう
オラクルム…その力の正体は神喜の契約天使の権能『神託』を混ぜ込んだだけの絶光である。そのため光自体の火力は絶光と全く変わらない
しかし『神託』の力によって光に触れた物は全て『滅びの運命』へと無条件で進んでしまう。要は強制的に物理的であれ概念的であれ相手を無防備な状態にすることができるのだ、それを絶光が貫くことで"質量を無視して貫通する光線"となる
そして、この力の長所の一つであると同時に弱点にして欠点…それは、強い意識を宿した物であれば『神託』を打ち消すことができるのだ。彼岸は自身の刀に強い思い入れでもあったためオラクルムを打ち消せたのだろう
もう彼岸にとってオラクルムはただの光線だ。ならばなぜさっきの攻撃は地中に潜って回避したのか
理由は単純だ彼岸にとってオラクルムでなくても神喜の光線は脅威なのだ、神喜がその気になればいつでも彼岸を瞬殺できる。だが神喜はそうしない、それを彼岸は見抜いている
力押しはしてこないと踏んでか、彼岸が一気に神喜との距離を詰めて斬りかかる。神喜は槍を短く持ち変えて刀の連撃に対応する
「わからないわね、全力を出せば私なんて簡単に殺れるでしょう」
「私にもポリシーのようなものはあるのだよ。君にだってあるだろ、自分の信じる『正しさ』が」
近接の実力は彼岸の方が上だが、守りを重視すれば防ぐことはできる。なにげに防御は神喜の十八番なのだ
しかし、攻め手がない。もう普通にゴリ押してもいいのだが、負けた気がするのでそれも嫌だ
(せめて、刀と同じぐらいの固さの投擲武器があれば…)
そこで、ポケットに忍ばせていた一発の弾丸の事を思い出した。それを取り出すタイミングを作るために神力の波動を放ち彼岸を後方へと吹き飛ばし、さっとポケットから弾丸を取り出した
(形も申し分なし。神力で先端をコーティングすれば貫通力も足りるでしょ)
神喜は人差し指と中指で弾丸を宙に投げた、そして弾丸が空中で回転しているタイミングで彼岸に向けて思いっきり槍をぶん投げた
もちろん彼岸は槍を刀で弾いた、しかし思ったよりも槍の勢いが強く腕が痺れてしった
その隙を神喜は狙っていた
宙を舞う弾丸が彼岸の方を向いたタイミングで、オラクルムを弾丸に当て弾丸を打ち出した
一筋の閃光が彼岸に突き刺さる
「ぐっぅ!」
彼岸は刀を手放し、弾丸に貫かれた右肩を左手で抑え倒れこんでしまう
「YOU Win 私の勝ち~」
そう叫んでから、神喜はゆっくりと彼岸の元に歩いていった。彼岸の元に辿り着いたら、右肩を抑える左手を無理やり引き剥がし、代わりに神喜が右肩を抑えた
「神託・癒し」
神喜の手から光が溢れだし、貫かれた彼岸の右肩を光が包み込む。光によって彼岸の傷がゆっくりと治り始める
「血を止めて痛みを消すぐらいしかできないから、そこからは自分で頑張ってね」
「なんで…助け…くぅ」
「私の正しさだよ~押し売りだけどね。感謝してよ」
「正し…さ?」
「"自分に正直"それが私の正しさ。君は私の中では良いやつ判定なんだよ、だから死なせないからね」
傷が塞がったのを確認して、右肩から手を離す。警戒しているのか、神喜が手を離した瞬間に右肩を抑える
「下がってな、私には仕事が残っている」
そう言って、神喜は遺跡の入り口の上空に目を向ける。そこには月の光を浴びて、こちらを見下ろしている一人の天使が飛んでいた
茶髪の髪をなびかせ、茶色の線が絡まって形を成している巨大な翼を広げている少女は、見られている事を理解すると二人に話しかけてきた
「…これ"カッコいい"らしいんですけど、どうですか?」
少女のその質問を彼岸は理解できず、神喜は親指を立てた




