爆弾魔
時刻 23:00
美成は、確認されている最後の現場で、1体の天使と交戦をしていた
容姿は完全に人間で全身をタイツで包んでおり、両手にサブマシンガンを持っている
場所は建設途中の鉄骨ビル。足場が少ないため、動きが制限されているが、美成も敵の天使も扱う武器が銃のため相手の動きを読みながらの戦いになっていた
美成が天使を撃つと避けてくる。着地地点を予測し、照準を合わせようとしても、空中で発砲されて邪魔される
ここが確認されている最後の天術陣のため、美成も全力で相手をしたかったが…
地下鉄での、普段しないような無理な「加速」が原因で、天力に不具合が生じていた。そのため、出せる速度が制限されてしまっている
4倍速程度の加速と、思考加速を使うのだけで精一杯だった
天使は美成の一階上の鉄骨から撃ってきていた
美成は加速を使い近くの鉄柱を走り上り、相手の上空に飛び上がって、乱れ撃ちを放つ
天使は二丁のサブマシンガンで乱雑に放たれた弾丸をすべて相殺させて、逆に空中に飛んでいる美成に乱れ撃ちを放ってきた
(思考加速…)
美成が思考加速を使うと、周囲の時間の流が少し遅くなった、そして一発一発慎重に弾丸を放ち、美成も乱れ撃ちをすべて相殺した
相手が状況を変えようとしたら妨害し、自分が状況を変えようとしたら妨害される。そんな状況に停滞していた
もちろん、これで不利になっているのは美成の方だ
タイムリミットは1時間20分
まだ時間に余裕はあるが、美成には決め手がなかった
(どうしますかね…私の伝承憑依は使っても、今の状況では速くなるでけですし…)
美成が着地すると、同時に互いに銃を向け合い、引き金をひいた。二人の間に銃弾が飛び交う
一見、乱れ撃ちのように見えるが、二人の見えている世界では物凄い銃弾の読み合いがおこなわれていた
相手の天使の権能は「予測」 文字通り未来を予測する権能である。そのため美成が次にどこに撃つかも予想できていた
しかし、美成の「思考加速」は読めていたとしても、一手先に動かれるため、攻めきることができなかった。だが、それでも美成の攻撃を防ぐことには何の問題もなかった
互いに攻めあぐねていて、停滞状態は続く。そして、タイムリミットは刻一刻と迫っていた…
腕時計が鳴り、23:30の訪れを告げた
(少し攻めて…見ましょう)
美成は、自身のサブマシガンを加速させて、極度に速い玉と通常の速度の玉の2種類を放った
すると、相手の銃弾が乱れ始めた。しかし、この乱れは驚きによる一時的なもの、この隙を逃すわけにはいかない
美成は今できる最大限の加速を足に使い、相手の弾道から外れて、そのまま相手に反応できない程の加速の天力を掛けた弾丸を放った
寸前で弾丸に気づかれたが、気づいた時にはもう遅い。弾丸は天使の右目を貫いた
天使の「予測」は目に見えている範囲限定、要するに視界外からの攻撃を予測することは不可能という欠点を抱えていた
「ぐっ」
天使は右目を押さえて天術で応急処置をする、目を治すことはできなかったが血を押さえることはできるらしい
相手にダメージを与えると同時に「予測」の欠点に気がつくことができ、状態は一気に美成が優勢となった
もともと、美成は予知や予測を扱う相手は神魔天否で慣れていた。今回の相手も天否も同じような欠点を持っている、そうなれば攻略法はいくつか思い付く
姿を消して奇襲で殺す
視覚外に罠を仕掛ける
速さで相手を撹乱させて隙を作る
たった一つの欠点で攻略法は無限に見つかる。だが短所があるのは当たり前、それをカバーする術がないわけがない
簡単に思い付く作戦は対策されている、それに今の一撃によって相手は慎重になっていた。簡単な策は通用しないだろう
力をうまく使えない状態で探り探りの戦闘…おそらく長期戦となるだろう。と、相手の天使は考えている
しかし美成は違っていた。相手のもっと単純な短所に気づいたのだ
美成は再度、天使の正面に立ちサブマシガンを向けた。もちろん天使も美成に向かって二丁のサブマシンガンを突きつけた
再び、「予測」と「思考加速」による撃ち合いが始まった
同じように撃ち合い状態は停滞するが、美成がポケットナイフを取り出し、それを加速させ相手の天使に向かって投げた
青い閃光が天使の右手に突き刺さり、天使はサブマシンガンを手放してしまう
美成は少しのダメージ覚悟で相手に近づき腹部に蹴りをいれた
天使は吹き飛ばされ背後の鉄塔に激突。その衝撃で鉄塔が折れ、天使はそのまま落下した
天使はとっさに翼を解放して近くの鉄柱に着地しようとしたが、上空から無数の弾丸が降ってきて、天使の翼を撃ち崩した
天使が上を向くと、美成が天使を追って飛び降りてきていた
美成の手には自身のサブマシガンと天使が手放してしまったサブマシガンの二丁を構えていた
天使は空中で体勢を変えて、近くの鉄柱に無理やり着地した。無理やり着地したため、落下の衝撃でその鉄柱は折れてしまったが近くの鉄柱を掴むことができた
美成も近くの鉄柱に着地して、加速を使い天使を追う
調子も少しだけ戻ってきたため、加速の出力を上げる
相手の天使の致命的な短所…それは、単純に弱いことだ
相手の天使は未来が見える眼を持っているだけで、身体能力も天力も低かった
そのため二丁のサブマシンガンでようやく一丁の美成と撃ち合えていたし、治療も血を止めるのが精一杯。身体能力でも美成に圧倒されていた
あっという間に天使に追い付き、勢いのままサブマシンガンの銃口の反対側で相手に打撃を与える
そして、美成は加速を一段階上げ、持ち前の近接戦闘技術で連撃を繰り広げる。周囲の壁や鉄柱に青い閃光が飛び回り、天使の視覚外から打撃を与える
美成の連続攻撃にビルの床が耐えきれず、床が崩れ二人はさらに何層か下に落下してしまう
美成は瓦礫を乗り継ぎ近くの鉄パイプに着地したが、天使の方はダメージが原因で背中から力強く鉄パイプに激突してしまった
「ここ…最下層ですか」
鉄骨に囲われたビルの中心。下を向くと無数の鉄パイプが横並びに浮いており、その下には暗闇が広がっている。おそらく、この暗闇に落ちると本当の現場に繋がっているのだろう
ここは、地下鉄の時と同じように現実を模倣した天域。しかし、もう一つの性質は違っていた
美成が上を見上げると、無限と錯覚する程の鉄骨ビルが続いていた。正確には無限の改装ではなく34670階層だということが最下層の確認で確定した
この天域のもう一つの性質は、単純な広さ。そのため打開策がなく、美成はうまく天使と殺り合いながら、ここまで降りてきた
天術陣は現実世界に展開されている。このまま暗闇に落下して現実世界に戻りたいが、もちろん天使がそれを阻止してきた
しかし、銃を一丁奪われ怪我を負っている天使が美成の相手になるはずもなかった
加速を使い一気に天使に近づき上空に蹴り上げる
マッチを天使に向かって投げつけて、思考加速を使い慎重に狙いを定めてサブマシンガンの引き金を引く
弾丸がマッチを掠り、火がつく。天使は首をクイッと動かしマッチを避けた
天使は避けれたこに安心したのもつかの間、背後のマッチの火が急激に膨張し天使のことを包み込んだ
その後も炎は拡散し続けて、天域は火の海と化した
「事象加速」
美成はそう呟き、燃えゆく天域を横目に暗闇に飛び込んだ
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時刻 23:55
一人の天使殺しがビルの屋上に展開されている天術陣を燃やすのを、東京で最も高い「ツリー」の普通は行けない屋上部分から見下ろしている天使が居た
その天使こそ、東京に爆弾を仕掛けた張本人、最上位天使第24位ボームであった
天術陣が破壊されたのにも関わらず、ボームはご機嫌に鼻歌を歌っていた
「まだ、気づいていないようですねぇ~、私の完璧な作戦にぃ~」
「へぇ~、完璧な作戦なら、私がここに辿り着いたのも作戦の内なのかしら?」
「?!」
ボームは背後から聞こえた声に驚き、恐る恐る振り替えると、天使にとって「会いたくない人物ランキング、堂々一位」の女性が自信満々の笑顔を浮かべながら立っていた
「神魔リンナ、なぜ貴様が?!」
「私なら爆発される東京を見渡したい、だから見渡せる場所にいると思って、ここにたどり着いたのよ」
リンナは美成から現場の位置を確認してから、その地点をすべて見渡せる場所を絞り込み、その場所を回っていた
割と場所が多くリンナも内心諦めて、「タワー」の頂点から美成の頑張りを眺めていると、同じように美成のことを「ツリー」から見ていたボームを見つけたということで
要はリンナは諦めていたが、何だかんだで偶然ボームを見つけることができたということだ
(結局、やることは変わらないのよね)
リンナがここに来るまでのことを思い出していると、ボームは思いっきり屋上から飛び降りようとした
「無駄よ、私に見つかった時点であなた死は確定してるの」
リンナから膨大な炎が溢れだし、それが一点に集まる。それをボームに向かって中指で弾く
「火天」
「?!」
ボームに炎がぶつかると爆発を起こし、ボームは東京を一望できるほどの上空に吹き飛ばされてしまった
火天…リンナの契約天使が扱う炎を純粋な形で生み出す技。完全燃焼と違い力の制御がしやすい上にそれなりに万能だ
「ああ、こういうことだったのね」
ボームを追って上空にやってきたリンナが東京を見下ろしてそう言った。普通の天使殺し程度では気づけないが、すべてが一流のリンナは簡単に気づくことができた
東京が一つの巨大な天術陣で囲われていることに…
「凄いわね、五つの天術陣は全部フェイクで本命はずっと足元に広がっていたなんて。でもなんで気づけなかったのかしら? もしかして仲間に誤認の権能の天使でもいるのかしら?」
リンナの言ったことは全て合っていた。誤認の権能を持つ天使に巨大天術陣の存在を誤認させて、その誤認に気づかないようフェイクとして五つの天術陣を各地に展開した
「ふふ、ふぇふぇ、ふぁぁはははは!」
急にボームが不気味に笑い始めた
「なになに、不気味に笑っちゃって」
「いや、吹っ切れただけですよぉ。私の死は確定したのでしょうぅ?」
「そうよ?」
「ならば、最後に最高の花火を見れると思うと嬉しくなってしまい」
「そうね。うん、いいんじゃないかしら、花火」
「言ってることを理解してますか?」
ボームは死ぬ前に東京が爆発するのが見れるのが楽しみ、と言っているが、リンナはそれを理解した上で別の解釈の回答をした
時刻は23時59分、あと一分で東京は爆発する。しかし、リンナからは、いつも通りの余裕がうかがえる
「結局、最後にやることは変わらないのよね」
「なにを言ってるんですかぁ? ほらほら最高の花火が始まりますよ」
「そうだね、花火を打ち落とすとしましょうかしらね」
「あ?」
急激に周りの温度が上がっていく、原因は考えるまでもなくリンナだった。リンナの背中から吹き出る炎の翼が生えていた
「伝承憑依は使わないけど、その一角を見せてあげるわね」
すると、急に夜が明けた…正確には上空に太陽に匹敵する光源が作られた。ボームの上空に「ツリー」や「タワー」よりも遥かに巨大な炎の剣が生み出された
その剣から発せられる熱は太陽と同格、干渉指定がなければこの熱で東京…というか地球が滅んでいるレベル。感じられる天力の圧は大天使に匹敵する、伝承憑依をしてないにも関わらずだ
炎の剣がボーム目掛けて落下する。ボームは抵抗することもなく、貫かれて灰すら残らず燃え尽きた…ボームは絶対的な死を知ったのだ
炎の剣はそのまま東京に落下して、東京が火の海と化した。しかし、リンナの干渉指定のお陰でその炎に気づいているのはリンナのみだった
炎が巨大な天術陣を燃やし、干渉できる物が無くなり「干渉なき炎」となったのを確認して、リンナ自身も干渉できなくした、するとリンナにも炎が見えなくなり、辺りも夜に戻っていた
なんにも干渉できない炎は実質存在していないことになる、リンナはいつもこの理を使って事後処理をしていた
辺りが深夜の暗闇に戻り、下に広がっている都市は変わらず色とりどりの光を放っていた
リンナは大きく体を伸ばして一日の疲れをほぐした
「事件解決。やっと休める…わけないわよね」
少なからず、今回は結構大胆に天使殺しを動かしてしまった。そのため、マスコミや国を脅していろいろともみ消す仕事が、リンナには残っていた
リンナはしぶしぶ局長室に戻った。局長室では、すでに美成が作業を始めており、共に徹夜で事後処理を起こったのだった…
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東京爆発予告事件から二日後。リンナと美成の二人は部下たちから「休んでください!」と押し切られ、都内のおしゃれなカフェのテラスでティータイムをすることにした。ちなみに、お礼も込めて「神の使い」のことも誘ったが「花粉が辛れーのだよ」と断られた、ちなみに「神の使い」は花粉症ではない
すでに注文は終えて、テーブルにはブレンドコーヒーのブラックが二つ並んでいた
「やっと休暇の続きができるわね。それも、美成と一緒に」
「ええ、私も休暇は久しぶりですね。そういえば、これ...」
そう言って、美成はカバンから今日の朝刊の新聞を取り出した
「一応買って起きました、私もまだ目は通していませんが」
美成が新聞を開き二人で読み進める
世界最大の豪華客船、災害により海に沈む 死者多数
アメリカの政治家 暗殺される
イギリスでバイオテロが発生 奇跡の死者ゼロ
などが大々的に書かれていた。しかし、東京爆破に関することは特に書かれていなかった
「頑張った甲斐あって、うまくもみ消せましたね」
「そうね。なんか知ってるような事件が書かれているような気がするのだけど、まあ知ったこっちゃないわよね」
美成は「あはは...」と苦笑いをする。リンナは基本、他人に文句を言わないが各支部長に対しては例外だった
天否、ルジ、神喜のことは弟妹と思い、他の天使殺しは面倒をみるべき部下たちと思っているが、支部長たちはリンナの戦友にして対天使局設立時のたった三人の同期。そのため、リンナにとって各局長は文句を言い合える数少ない友人であった
「まあ、あちらもあちらで大変なですよ」
「どうかしらね? 少なくともアメリカ支部長様は調べごとにご執心ぽいですけどね」
「まあ、アメリカの事件は私も引っかかっていますし、昔からああいう方なのでしょう」
「あれで、元衛生兵で戦場を駆け回っていたのよ? 想像できる?」
「突撃兵のリンナさんよりは想像できないですね。まあ、一番想像できないのはボレロさんなんですけどね」
ボレロとは、対天使局エジプト支部長にして天使関連の情報を管理する天使情報部の最高責任者。基本美成は日本から出ることがないため、ボレロとは定期召集会で何度か顔を合わせるぐらいの仲だった
美成の認識ではボレロは少し身長が高い以外は平均的な体躯で眼鏡をかけている一見真面目そうな男性、しかしリンナが言うには「頭はいいけど、頭がわるい」人物らしい
「ボレロは見た目と中身が間違いまくってるのよ」
そう言ってリンナはコーヒーを飲む。こころなしか友人の話をしているときのリンナは楽しそうに見えた
こうして、東京でのちょっとした(リンナの中では)事件は解決した。死にかけた天使殺しも多かったが、彼らにいい刺激を与えただろう
「そういえば...」
美成は率直な疑問をリンナに問いかけた
「天術陣が全てボーマのものだったのなら、巨大天術陣含めて同一の天力なのですよね」
「そうね。それがどうかしたの?」
「なら、最初の天術陣を確認した時点でリンナの干渉指定でその天力を指定して東京ごと焼き払えば、わざわざ現場を回る必要はなかったんじゃ...」
言い切る前に、リンナが美成の口を人差し指で抑えた
「楽は私たちには必要ないのよ。あと、このことは秘密だからね」
そう言いながら、リンナは人差し指で「シー」のポーズをした




