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腑に落ちない幕引き


ハカの天力が離れたのを感じて、ビルとルジは膝から崩れ落ちた。2人とも余裕そうに見せていたが実際は違った


ルジは肉体にも天力にも余裕がなかった


ビルは天力は余裕だが肉体が限界だった


あの取引でハカが退いてくれなければ、おそらく、ハカに大きな傷を与える代わりにこの中の誰かは死んでいた


「やりましたね」


「ああ、そうだね。ここまで無理をしたのは1ヶ月ぶりだよ」


「案外最近ですね、まあ俺もですけど」


2人は笑いあった


常に戦場で、死と共に生きている天使殺しにとって、目の前に感じる幸せを心のままに吐き出すのは、長く続けるためのコツとリンナが言っていた


「ふぅ~それじゃあムネを拾いに行きますか」


ルジは身体を起き上がらせ、ムネが下がった方を見渡すがムネの姿は見当たらない。すると肩を誰かにちょんちょんとされて振り向いた


「ここに居ますよ」


背後にはムネが心配そうな顔でルジの傷を見ていた。ルジもムネがハカの破壊の力に直撃したのを思いだしムネの身体を見るが…


「…ムネ、傷はどうした?」


ムネの身体はいたって無傷だった、しかし服はボロボロのため、攻撃は食らっているはず


ルジの疑問に対して、ムネも困惑気味に「治った…んですかね?」と答えた、本人も理解していないらしい


そんな2人の疑問に答えてくれたのはビルだった

「それは、天使様が助けてくれたんだろうね」


「「天使?」様?」


「そう、2人は天使との契約がどういったものかは知っているだろう」


「はい、天使様の精神の一端を契約者の意識に溶け込ませるんですよね」


権能は精神に宿る、そのため天使の精神の一部を溶け込ませれば天使の権能の一部を契約者が扱えるようになる


さらにその影響で契約者本来の精神にも天力機構が生まれて能力が開花する、これが天使との契約だ


「ダメージによってムネちゃんの意識が薄くなると、相対的に溶け込んだ天使の意識が増大する。そして天使の意識が一定のラインを越えて天使としての条件反射で傷を治した。こんなところだと思うよ」


その話を聞きながら、ムネは自分の身体を見ていた。そんなムネを見てルジは違和感を感じていた


普段より表情が柔らかく、表情筋の動かし方も違っている。これは天使の意識が原因なのだろう


「さて、他にも気になることはあるけども。とりあえず、帰ろうか」


「そうですね、私も後遺症が無いか調べたいですし。ビル()、肩貸しますよ」


「ん? 君付け?」


「ぁ、すみません。なぜか君付けで呼んじゃいました」


「いや、一応ムネの方が年上だから、その方が普通だと思ってたけど。これも天使の意識の影響かもね」


そう言ってルジはムネの肩を借りて森の入り口まで歩き始めた。背後から「私も怪我人なんだけど~」という声が聞こえたが2人は無視をした


森の入り口には、事前に待機してもらっていたアメリカ支部の人と合流して、そのまま3人は病院に送られた



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病院の屋上のベンチで俺は青空を眺めながら、紙パックのリンゴジュースを飲みながら考え事をしていた…


森での戦いから3日後、俺達はアメリカの大学病院で休暇を過ごしていた。どうやらビルさんの部下たちがお詫びに、1週間はめっちゃ頑張って仕事をこなしてくれるらしい


休めるのは良いのだが、名目が入院ではまともに外にも出掛けらない


それに、俺とムネに関してはアメリカ支部の所属ではないため、おそらくリンナさんは容赦なく有休を減らしてくるだろう


「はぁ~」


俺としては天力は自然と回復するのだから、さっさと次の仕事に赴きたいのだが、今回の戦いにはいくつか引っ掛かる部分がある


ビルさんも俺と同じ考えらしく、部下にバレないようにいろいろ探っている。俺も手伝おうと思っていたが、ずっと感じていた自分の違和感の方を先に調べることにした


異様な眠気…ようやくその原因が判明した、どうやら「天罰」が定期的に物凄い出力で発動しているらしい


「どうりで、天罰の力が上手く発動しないわけだ」


異様な眠気はリンナさんから依頼を受ける数日前から発症していた。フィオナがビルに接触したのは数年前だが、ルジの殺害を命じたのも同じぐらいのタイミングだった


おそらく、そのタイミングで何かが始まったのだろう


「考え事は終わったの?」

そう言った俺の隣に座っている少女に目を向ける。黄土色の腰まで伸びている髪の病院服を着ている少女、夢気ルカ


ルカは、俺が買ってあげた紙パックのバナナジュースを飲んでいた


「よく考え事をしているってわかったね」


「そういうのって、案外わかりやすいもなんだよ。私だけかも知れないけどね」


「わかる、俺は仕事柄だけど相手が何を考えているかって、わかりやすいからね」


「そうだよね。だからルジ君も本性で私と接して欲しいなぁ~」


「…」

本来、暗部の頂点にして対天使局の最高機密そのものである俺の本性は一部の者にしか見せることはできない。しかし俺は心のそこからルカと話がしたかった…


その欲求を駄目だと理解しても、拒むことができなかった


「…わかった、特別だからな」


「ふふっやっぱり、その顔の方が私はしっくりくるよ」


俺のこの感情は恋心なのだろうか、本に書かれているのとは少しだけ違う気がするが、一番近いのはやはり恋心?


俺は夢気ルカに一目惚れをしてしまった。これは暗部としては良いことなのだろうか?


いや…これは恋心ではない。最初からルカが一緒にいるのが当たり前のような感覚、ということは彼女は…


この再会は俺にとって重要な出来事になっただろう


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「ついに、ルジ君にも春が来たのかな?」


私は屋上で女子と仲良く話しているルジ君を発見し、邪魔をしないように中庭に撤退してきた


「守りたい者が居ると強くなれるって、リンナさんが言ってましたっけ? なら、ルジ君はもっと強くなってしまうのかな」


ルジ君が暗部にやってきたのは17歳の時、リンナさんが私のところに連れてきたのが始めての出会いだった。当時は年の近い優秀な弟ができたぐらいにしか思っていなかった


ルジ君が来てくれて、私も強くなろうと思えた。彼から教えられることは多くて、影踏みや弾道操作も上達できた


けど、ルジ君はもっと早い速度で上達していった

身体能力

洞察力

戦術

能力の応用

他にも様々な技術を、私より早く習得し、上達し、極めた


その、『最強』たるセンスに、当時の私は少しだけ妬んでたかもしれない


けれど、リンナさんから話を聞いて、その強さは彼の後悔と恐怖によるもと気づいた


神魔天否が最強の嫌われ者と呼ばれるきっかけとなった大事件、彼の後悔は親友を守れなかったこと


そして、恐怖は…暴走


(ルカさん…あなたはルジ君を助けられるんですか?)


私は心の中でそう聞いた、もちろん回答はこなかった


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ここはアメリカの郊外の人形工房。私は周囲に人がいないことを確認して、人形工房に入る


人形工房の中では、腰まで伸びた長い薄ピンク髪の少女が、作業机に向かっていて、なにやら作業をしていた


「ライフ様、ただいま戻りました」


私がそう言うと、彼女は振り替えり、小さな声で「お帰り」と言って作業を中断してくれた


「視察のお土産を買ってきました、ケーキです。一旦休憩にしましょう?」


「ん」


「それでは手洗って、待っていていください。ケーキと一緒に紅茶も淹れますので」


そう言ってキッチンに向かい、ベリーベースのケーキとレモンベースのケーキをお皿によそって、それぞれのケーキに合う紅茶を淹れた


とりあえず、ライフ様にケーキと紅茶をお持ちして、そのまま怪我を負って二階の自室で休養中のソウ様にお運びした


「゜+。:.おぉ(*°O° *)ぉぉ゜.:。+」


ケーキを受け取ったソウ様は満面の笑みで「サンキュー、ファントム」と言ってケーキを頬張り始めた


「傷の方は大丈夫ですか?」

ソウ様は、一旦口の中のケーキを飲み込んでから、私の率直な疑問に答えてくれた


「傷の方は完全完璧に平気だね、流石の流石にライフ様だね。いぇい、いぇい」


「心の傷の方は?」


「んー、そっちも平気。でも、強くならないとって思ったかな、私もハカの役に立ちたいし!」


「そうですか、でも修行は体力が戻ってからにしてくださいね。傷は治っても体力は戻ってないんですからね」


「はーい、でも美味しい物をもっとプリーズ」


「はい、また視察にいったときにでも、買ってきますよ」


「わーい」


喜ぶソウ様の頭を撫でて、私は一階へと戻った



一階のリビングに戻ると、すでにライフ様はケーキを食べ終えて、作業机に戻っていた


私もソファーに座って、ティータイムを楽しむことにした


紅茶を飲みながら、横目でライフ様の方を向く

ライフ様の作業机の上には、バラバラの人形身体の部位が置かれていた。そして、その中には私が回収したユーリ様の疑似核と頭も置かれていた


(人形作りも天使随一ですね、ライフ様は…)


ほのかに甘い紅茶は、苦味の効いたケーキととてもあっていた…


机に置かれた水晶玉に目を落とす、水晶玉には地下空間に広がる巨大な天術陣が写し出されていた


「そろそろ動き始めるんですかね」



絶命契約編 完

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