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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
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再会

 翌日、今日こそは本店勤務と意気込んでベルガーナさんと通りを歩いていると、人波の中で見知った顔を見つけた。

 冒険者ギルドで絡まれたアル達新米冒険者の三人組、彼等に話しかけているのは四人組の別な冒険者グループの様だ。

 私は邪魔しちゃまずいと思いそのまま通り過ぎる事を選んで歩き始めたが、ベルガーナさんは何か気になったのか、しばらく様子を見ようと言い出した。

 私達は人混みの中に紛れながら、彼等の声に耳を澄ます。


「お前等にダンジョンはまだ早えよ。ダンジョンっていうのは外の何倍も危険なんだ。だからよ、新人はまず外での討伐依頼を受けるもんだ」

「そうなんですか?」

「ランクをてっ取り早く上げるにも討伐依頼はお勧めだ。だから今回は俺たちの手伝いとしてついて来てくれりゃいい。報酬も山分けにしてやるし、お前ら危なっかしくて見ていられねえから討伐のノウハウも今回は特別に教えてやるよ」

「本当ですか!」


 話はまとまった様でアル達三人組はその冒険者達と共に移動を始めた。

「ああやって冒険者達は互いを支えあうんですね」

 私が感心していると、ベルガーナさんが元来た道を引き返しはじめる。

「ベルガーナさん、どうしたんですか。本店に行くんじゃ?」

「気が変わった。冒険者ギルドへ向かうよ。今日は商人がどうやって冒険者を雇うのかの勉強といこうじゃないか」

 冒険者ギルドを訪れた私達。ベルガーナさんは受付嬢さんと暫く話をして何枚かの金貨を渡していた。

 するとあのプロスマイルの受付嬢が驚いた顔をしてカウンターから飛び出し、ギルド内にいる冒険者達に声をかけはじめる。

 あっという間に私達の目の前に四人の冒険者達が並んでいた。

「ベルガさん。どういう事ですか?」

「緊急だったからね。破格の報酬で人を集めてもらったのさ。依頼は討伐済みのゴブリンの洞窟の調査で、そこまでの往復の私達の護衛依頼」

「討伐済みですか」

「そう、空になった洞窟は定期的に調査しないと新たな何かが住み着くかもしれないからね。まあ、危険度は少ないから低ランク冒険者には丁度良い依頼さ」

「ガモウ、ハーフオーガだ」

「黒狼族のリタだよ」

「白狼族のリタよ」

「兎人族のルルです。本日はよろしくお願いします」

 亜人の男性が一人に女性の獣人が三人の四人、急きょ集められたソロのFランク冒険者達がまず自己紹介をする。

「商人のベルガだ。こっちはうちの新人のユキ。今日はこのユキに冒険者の仕事の一端を見せようと思ってね。よろしく頼む」

 この時私は呑気に構えてて、ベルガーナさんの険しい表情に気づいていなかった。


          *          *

 

 城壁を抜け北の森へと入っていく。目的地は往復でも半日もかからない森の浅い場所にある小さな洞窟だそうだ。私にとっては二度目の城外だけれど、武装したそれなりの人数がいるので危険は感じない。

 それ以上に何かわくわくする。

 咲いている花や立ち並ぶ樹木ですら知らないものばかり、目に入るもの全てが私には新鮮に映る。

 ベルガーナさんが足を止めると、少し遅れて先頭を行く黒狼族のリタが手を小さく上げて止まれの合図を出した。

「ゴブリンですね。匂いがします」

「一匹だけだね。捕まえてきてくれるかい」

「承知」

 二人のリタがベルガーナさんの依頼に応えて茂みの中に消えて、しばらくして縛り上げられた小さな子供ぐらいの大きさの緑色の生き物を一匹連れてきた。

「ユキ、これがゴブリンだ。こっちへ来な」

 ベルガーナさんに言われて地面に組み伏せられているそれに近づく。初めて見る敵対的な魔物、それ以上に…。

「臭っ、何これすごく臭い」

「これがゴブリンの匂い、殆どがその腰布の匂いだけどね。覚えておくといいよ」

 そしてベルガーナさんはナイフをゴブリンの背から差し込み止めを刺す。ゴブリンの胸から流れ出す血が地面を染めていく。

 先ほどの異臭とは比べものにならない程の悪臭に襲われ、私は背を向けてその場を離れ地面に嘔吐した。

「皆さんは平気なんですか?」

「私達は幼少の頃からゴブリン狩りをしていますから、匂いには慣れませんが我慢は出来ます」

 そう兎人族のルルが言う。

 意を決してもう一度私はゴブリンの死骸に近づき、そしてまた吐いた。


 道程の三分の二程来たあたりで四人組の冒険者達とすれ違った。

 あの顔には見覚えがある。街中でアル達を誘っていた連中だ。そして彼等が背負った袋からは三本の真新しい剣が見えている。

「待って」

「ああん?」

 訝しげに振り向いた彼等にアル達の事を問い詰めようとしたけれど、ベルガーナさんに口を塞がれて何も言えなくなった。

「気にしないでくれ、こっちの話だ。ユキ、森の中で大声を出すんじゃない」

 そう言って叱られた。四人の男達はそのまま歩き去って行く。

「どうして」

「ユキがあの新米冒険者達と知り合いと知れば、奴らは私達を殺そうと襲いかかってくる可能性がある。こっちの雇った冒険者達の腕だと味方にも死傷者が出る。だから止めた」

「じゃあアル達は?」

「分からない。新品の小剣と革鎧が三つなら全部で銀貨四十枚って所だね。彼等が新米冒険者の持つ装備を狙ったのは間違いないだろう。運がよければまだ生きていると思う」

「なら急がないと」

「白狼族と黒狼族の二人には先行してもらってもいいかな。行き先はこの先の洞窟でいい」

 ベルガーナさんの指示で二人のリタが森に消えていく。


 私達が目的の洞窟に着いた時には、入口でリタ達が待っていたが、予想は最悪の展開になった。

 洞窟入口には首を斬られて絶命しているアルの遺体が横たわり、女の子二人は奥で両手を縛られた姿で死んでいた。二人とも裸にされて乱暴された形跡まであった。


「酷い、何でこんな事をするんですか。同じ冒険者仲間でしょ」


「冒険者が命懸けのその日暮らしっていうのは事実だよ。でも彼等の死因の大半は魔物との戦闘でじゃない。旅人に化けた盗賊や悪意ある同業者によって殺される事が殆ど、敵意剥き出しの魔物よりも友好を装う人の方が恐ろしいのさ」


「銀貨四十枚ですよ、その程度で」

 この世界での金貨一枚は前世でいう所の十万円、銀貨一枚が千円の価値だ。


「お言葉ですけどユキさん。今回私達が受けた洞窟調査依頼の本来の報酬は、何人で請け負っても銀貨三枚です。銀貨四十枚といえば一般的な商家の一月分の給金、私達にとってそれは大金です。無料で女が二人抱けて、略奪品には銀貨四十枚の価値がある。それは盗賊の様な連中が人を殺すに十分すぎる理由になります」

 兎人族のルルさんが私にそう言う。


「ベルガーナさんは見抜けなかったんですか?あの時街でアル達を止めていれば」


「すまない、あの時はまだ確証が持てなかったんだ。新米冒険者を指導してやろうって気の良い連中もいるから、一概に悪と決めつけられなかった。私が怪しいと思ったのはギルドの受付嬢に依頼について尋ねてからだよ。あの四人組は討伐依頼を受注してなんかいなかった。だから慌てて保険をかけた。結果ユキにとっては最悪の勉強の場になっちまったね」


「あいつらを裁くことは出来ないんですか?」


「被害者の誰かが生き残って証言出来れば可能だっただろうね。またはギルドを通して彼等が依頼を受注していれば、三人が命を落とした経緯をギルドは調査するだろうし、装備も遺品としてギルドが引き取る形になる。今回はその双方が当てはまらない」


「そんな、許せない。許せないよ」


「ベルガさん。三人のギルドカードは回収しておきました。依頼達成報告時に私達の方からギルドに提出して事の顛末を伝えておきますね。それと三人の遺体はどうしますか?」


「放置すれば魔物の餌になるかゾンビとして蘇るかだろうし、ここに埋めていこう」


「分かりました」


 ベルガーナさんの指示で冒険者達は洞窟から少し離れた場所に穴を掘り始める。

 つい先日のアル達とのやりとりが思い出されて、私は三人の遺体を前にして泣き続けた。

 出会いは最悪だったけれど、これからは良い友達になれそうな気がしていた。

 街までの帰路は何も無かったけれど、私だけはいっぱい泣いた。


 王都城門を入った所で、ルル達冒険者達の依頼書にベルガーナさんがサインして別れる事になった。彼女達はギルドに戻って報酬を受け取り、その時にアル達の件についても報告してくれる。

「私達、この四人でパーティを組む事にしたんです。これまで皆ソロでやってきたんですけれど、今日の件で信頼できる仲間を見つける事が大事だと考えさせられました。それと余程信頼できる人からでない限り、仕事依頼はギルドを通して受けることにも決めました。過分な報酬の件もですが、今日の事は本当に勉強になりました。ありがとうございました」

 ルルさん達四人の冒険者は、一斉にベルガーナさんにお辞儀をしてから去って行った。

「気のせいさ、私はそんな善人じゃないよ」

 そう言い捨てながらも、ベルガーナさんは少し照れた様な表情をしていた。


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